
フィリピン下院議員、国家ビットコイン準備金創設を提案
フィリピンの下院議員ミゲル・ルイス・R・ビリャフエルテ氏は2025年8月22日、フィリピン中央銀行(BSP)が1万BTCを取得し、20年間保有する「国家ビットコイン準備金」の創設を求める法案(下院法案421号)を提出しました。
この法案は「戦略的ビットコイン準備金法(Strategic Bitcoin Reserve Act)」と題されており、BSPが毎年2,000 BTCを5年間にわたり取得する「ビットコイン購入プログラム(BPP)」を実施する内容が盛り込まれています。
取得総額である1万BTCは現在の価格で約11.5億ドル(約1,700億円)規模に及び、取得したビットコインは信託形式で少なくとも20年間売却せずに保管される予定とされています。
ビリャフエルテ議員は「フィリピンがBTCのような戦略的資産を備蓄することは重要であり、金融の安定性向上など国家の利益につながる」と述べており、資産ポートフォリオの多様化を通じて経済的安全保障を強化する意図があると伝えられています。
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年間2,000 BTC購入と長期保有を義務付け
提出された法案資料では、BSP総裁が毎年2,000 BTCを5年間にわたり購入し、合計1万BTCの国家準備資産を構築することが定められています。
取得したビットコインは国家の戦略的準備金として信託管理され、少なくとも20年間は売却や交換といった処分が原則として認められない仕組みです。
ただし例外として、政府が発行する債務の返済に充てる場合のみ、準備金の一部を活用できるとされています。
20年の保有期間が終了に近づいた際には、BSP総裁が議会に対して準備金の継続や一部売却を提案することになっています。売却が認められる場合でも、全保有BTCの10%を超える数量を2年間で処分することは許されないと明記されています。
四半期監査と資産証明を義務付け
本法案には短期間での大量売却を防ぐ条項が盛り込まれており、市場への影響を抑えることで準備金の価値と安定性を維持する狙いが示されています。
さらに透明性を確保するため、フィリピン中央銀行(BSP)は準備金の保有量や取引履歴、秘密鍵の管理状況を四半期ごとに監査する義務を負います。監査結果はオンラインで公開され、「プルーフ・オブ・リザーブ(資産証明)」として提示される仕組みです。
この監査には独立した第三者機関の関与も想定され、国家準備金の管理体制を強化する枠組みとなっています。こうした取り組みにより、市場の信頼性が高まると見込まれています。
国家準備金と民間保有の共存を保証
ビリャフエルテ議員は「国家によるビットコイン準備金の創設が民間の保有に影響を及ぼすことはない」と説明しており、法案には「政府は個人や企業のビットコイン所有を干渉しない」との条項が盛り込まれています。
この条項により、国家の準備金政策が進められる一方で、民間の資産権は保障され、個人や企業によるビットコイン保有の自由も守られることになります。
外貨準備の偏りとビットコイン導入の必要性
ビリャフエルテ議員は法案提出の背景について、フィリピンの外貨準備高が従来米ドルや金に偏っているため外部ショックに弱いと指摘しました。
そのうえで、ビットコインという新たな価値保蔵手段を組み入れることで、国家財政のレジリエンスを高める必要があると強調しています。
同議員はさらに、ビットコインを「デジタルゴールド」と位置付け、過去5年間の年平均成長率が約40%に達し、他の金融資産を上回る実績を示していると強調しました。
また、FRB(米連邦準備理事会)のジェローム・パウエル議長がビットコインを「デジタル・ゴールド」と評したことや、トランプ米大統領が国家ビットコイン備蓄の構想に言及した事例も引用し、「世界的にビットコインを準備資産に加えようとする動きが広がっている」と説明しています。
ビリャフエルテ議員は「自国もこの潮流に乗り遅れるべきではない」との立場を示し、早急な対応を求めました。
さらに同議員は、エルサルバドルやブラジル、ドイツ、ポーランド、スイス、香港、マレーシアなど各国の事例を引き合いに出し、フィリピンも戦略的ビットコイン準備金の確立に向けて行動すべきだと主張しています。
加えて「米国や中国、英国などは既に相当量のビットコインを保有している」とも指摘し、自国の準備金政策としてビットコインを採用する意義を強調しました。
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世界各国で広がる国家ビットコイン準備金政策
本法案の提出背景には、世界的にビットコインを国家備蓄に組み込もうとする動きが活発化している状況が見られます。2025年に入って以降、各国で「国家ビットコイン準備金」に関連する政策提案や議論が相次いでいます。
香港とカザフスタンで国家BTC準備金を表明
アジアでは、香港立法会のジョニー・エン議員が2024年末に香港政府へビットコイン準備金の検討を提案し、米国の動きに各国も無関心ではいられないと指摘しました。さらに、同議員は「香港が先行して試験導入すべきだ」と強調しています。
中央アジアのカザフスタンでは2025年6月30日、ティムール・スレイメノフ中央銀行総裁が国家仮想通貨準備金の創設計画を正式に発表しました。
同国では、政府が押収した資産や国営マイニングで得たビットコインを原資に充てる構想が明らかにされています。
ブラジル下院で国家ビットコイン準備法案を審議
一方ブラジルでは、2024年11月に提出された国家ビットコイン準備法案(法案番号4501/24)に関する公聴会が、2025年8月20日に下院で開催されました。
この法案は、外貨準備の最大5%(約150億ドル/約2.2兆円)をビットコイン購入に充てる内容となっています。
ブラジル副大統領首席補佐官ペドロ・グエラ氏は3月の議会証言で「主権国家としてビットコイン準備金を議論するのは国益に適う」と述べました。一方で中央銀行は慎重な姿勢を示しており、賛否を巡る議論が継続しています。
新興国で広がる戦略的ビットコイン備蓄の取り組み
新興国の中でも独自の動きがみられています。
5月に米国ラスベガスで開かれたビットコインカンファレンスでは、パキスタン仮想通貨協会のビラル・ビン・サキーブ氏が「パキスタン政府も戦略的ビットコイン準備金の確立に動く」と発言しました。
米国の取り組みをきっかけに、英国や中国、ロシアなどの国の政府や政治家候補者も、ビットコインの戦略的な準備金に関心を示しています。
JAN3社のサムソン・モウ氏は「米国が先に青写真を示したが、他国に先行される可能性がある」と警鐘を鳴らし、米国に迅速な戦略実行を求めました。
こうした世界的な潮流を背景に、フィリピンの法案が成立すればアジア初の国家ビットコイン準備金制度となる可能性があり、国内外から関心を集めています。
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Source:フィリピン下院法案421号
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