
インド仮想通貨業界、税制緩和求めロビー活動
2025年5月27日、インドの仮想通貨(暗号資産)業界が政府に対し、厳格な課税措置の緩和を求めて積極的なロビー活動を展開していることが明らかになりました。
英フィナンシャル・タイムズ(FT)の報道によると、同業界は2022年に導入された「仮想通貨の利益に対する30%課税」と「取引ごとの1% TDS(源泉徴収税)」が国内取引を萎縮させているとして、その減税・撤廃を強く訴えています。
モディ政権はこれまで仮想通貨に慎重な姿勢を取ってきました。しかし、トランプ大統領の政権復帰により、米国が仮想通貨推進へ政策転換を進めていることを受け、インド政府も態度を軟化させています。
ロビー活動には仮想通貨・Web3業界の主要企業が参加しており、業界団体「Bharat Web3 Association(バーラトWeb3協会)」も中心的な役割を果たしています。
同協会は2023年以降、政府に対して一貫して減税を求めており、2月の予算案で税制改正が見送られた際には失望を表明したものの、引き続き税制改革を推進していく姿勢を示しました。
インド政府、仮想通貨の税制を強化
インド仮想通貨税制の現状と問題点
インドの仮想通貨税制の現状は、世界でも最も厳しい水準として知られています。
2022年の税制改正で仮想通貨による所得には一律30%の税率が課され、取引ごとに1%のTDS(源泉徴収税)が差し引かれることとなりました。
また、仮想通貨取引で生じた損失は他の利益と相殺できず、翌年以降への繰越控除も認められない仕組みです。インド政府はこれら措置について「仮想通貨が不正行為に悪用されることを防ぐため」と説明しています。
しかし結果として国内取引は激減し、多くの個人投資家やトレーダーが海外取引所に流出したと報じられています。
導入後にインド国内の仮想通貨取引高は90%以上減少したとの分析もあり、業界関係者は「現行の高税率が国内市場の健全な発展を阻害している」と問題視しています。
インドが首位「2024年仮想通貨普及率」
業界が求める具体的な税制改革案
こうした状況を受けて、インドの仮想通貨業界は政府に対し具体的な税制見直し案を提示しています。
TDS(源泉徴収税)の大幅引き下げ要求
最大の焦点となっているのが「1%のTDSの撤廃」または「大幅引き下げ」です。
業界団体バーラトWeb3協会(BWA)は、TDSが初めて導入された当初から一貫して税率の引き下げを訴えており、その要望水準は1%から0.01%への引き下げという大幅な減税要求となっています。
BWAは複数の調査データを提示し、税率を大幅に下げても取引追跡には支障がなく、むしろ取引の国内回帰によって政府歳入の増加につながる可能性が高いと主張しています。
また「TDSの税率が1%と高いため、取引に必要な資金が固定され、市場の流動性が低下する」との指摘もあり、業界としては最低でも0.1%程度まで負担を軽減すべきだと訴えています。
30%一律課税の見直し提案
加えて、30%の一律課税についても見直しを求める声が上がっています。
現在のような一律の高率課税ではなく、他の資産と同様に累進税率の導入や税率そのものの引き下げを検討すべきだとする意見が出されています。
また、少なくとも損失の繰越控除を認めて、投資収益の実態に即した課税に改めるべきだとの要望も提出されています。
業界関係者は「仮想通貨取引への過度な課税は国内から投資家と事業者を追い出し、結果的に国益を損なう」と警鐘を鳴らしています。
政府に対して税制面での国際協調と産業育成のバランスを再考するよう求めています。
インド仮想通貨市場の成長見通し
こうした厳格な税制は「違法行為の監視」が目的とされましたが、その結果、インド国内の仮想通貨取引の90%以上が海外取引所へ流出する原因となったとの指摘もあります。
そのため業界団体は「税率を下げれば取引が国内に戻り、むしろ政府の税収増につながる」とのデータを示しつつ政府に働きかけています。
インドの仮想通貨市場規模は現在約25億ドル(約3,600億円)ですが、2035年までに150億ドル(約2.2兆円)超にまで拡大すると予測されています。業界団体が政府に減税を強く求めている背景には、この大きな成長可能性があります。
業界側はこうした成長可能性を踏まえ、適切な環境整備が急務だと強調しています。
「仮想通貨含み益への課税除外を」
日本でも暗号資産税制改革の動きが加速
一方、インドの動きと並行して、日本でも暗号資産(仮想通貨)税制の改革が急速に進められています。
法人保有の仮想通貨評価課税を見直し
特に法人が保有する暗号資産の含み益に対する課税ルールの見直しは、近年注目される課題となっています。
日本ではこれまで、企業が保有する暗号資産は期末時価評価によって含み益に課税されてきました。しかし、2023年度の税制改正により、自社が発行したトークンについては期末時価評価課税の対象外となりました。
さらに2024年度の税制改正大綱では、発行者ではない第三者が保有する暗号資産についても、一定の条件下で同様に期末評価課税を除外する方針が明記されています。
これにより、暗号資産を扱う企業にとって大きな負担軽減となる見通しです。
個人投資家の暗号資産課税も改革へ
このように企業レベルでの税制改善が進む一方、個人投資家に係る税制についても改革の機運が高まっています。
2024年末に与党が承認した2025年度税制改正大綱では、暗号資産について「国民の資産形成に資する金融商品」と位置付けました。
そして、他の金融商品と同様に扱う方向で課税方法の見直しを検討することが盛り込まれています。
具体的には、暗号資産で得た利益に対して、株式などと同じ申告分離課税(20%課税)を適用する案が検討事項として明記されています。
この方針の下、暗号資産交換業者(取引所)に対しては株式市場並みの投資家保護策(残高報告などの税務情報提供義務)を課すことも盛り込まれています。
税制・規制の両面から暗号資産を伝統的な金融資産に近づける包括的な制度整備が進められています。
金融庁・政府による税制改革ロードマップ
こうした税制見直しの背景には、日本の金融当局による積極的な政策転換があります。
金融庁は2024年9月の税制要望段階から「暗号資産取引の課税上の取扱いを検討する必要性」を指摘しています。同年12月の税制改正大綱にはその方針が反映されました。
さらに2025年3月には自民党のWeb3プロジェクトチーム(Web3WG)が「暗号資産を金融商品取引法上の新たな資産クラスと位置づける」制度改正案を公表しました。
この中では、暗号資産の売買益に対する20%分離課税の導入や損失繰越控除の解禁など、大胆な税制改革を提言しています。
金融庁も2025年4月、暗号資産を「資金調達型」と「非資金調達型」の2つに分類して規制するための提案書を公開し、5月まで一般から意見を募集しています。
これら一連の動きは、日本における暗号資産の位置づけを明確化し、税制上も他の金融商品と整合的な扱いへ移行するための準備段階とされています。
政府は2026年の通常国会までに、関連する法改正と税制改正をまとめて実施する具体的な計画を進めています。
個人の最高税率を55%から20%へ引き下げるなど、抜本的な税制・規制改革が実現すれば、日本の暗号資産市場の競争力は大幅に向上すると期待されています。
※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=144.12円)
仮想通貨規制関連の注目記事はこちら
Source:フィナンシャル・タイムズ報道
執筆・翻訳:BITTIMES 編集部
サムネイル:Shutterstockのライセンス許諾により使用






コメント