GENIUS法案が可決、米国のステーブルコイン市場に変革の波
GENIUS法案が超党派の支持で可決
米国上院銀行委員会は2025年3月13日、ステーブルコインに関する「GENIUS法案」を可決しました。
この法案は、超党派の支持を得て「賛成18:反対6」で可決され、これから本会議で採決が行われます。上院本会議での可決には与野党合わせて60票が必要であり、民主党から少なくとも7名の賛成が求められます。
同法案の提案者であるビル・ハガティ上院議員は、自身のX(Twitter)で「安全で成長を促す規制枠組みを確立するための重要な第一歩」と投稿し、法制化されることへの期待を見せています。
I’m pleased to see my GENIUS Act successfully pass out of the Senate Banking Committee with bipartisan support. This legislation is a critical first step in establishing a safe and pro-growth regulatory framework that will unleash innovation and advance the President’s mission to… https://t.co/wnGuGnNWA0
— Senator Bill Hagerty (@SenatorHagerty) March 13, 2025
私が提案したGENIUS法案が超党派の支持を得て、上院銀行委員会を無事に通過したことを嬉しく思います。
この法案は、安全かつ成長を促す規制枠組みを整え、イノベーションを加速させるための重要な第一歩です。さらに、アメリカを仮想通貨の世界的な中心地とするという大統領の目標にも貢献するものです。
今後、この法案が上院を通過し、最終的にトランプ大統領の署名のもと法律として成立することを期待しています。
GENIUS法案とは?
GENIUS法案は、法定通貨(主に米ドル)に連動するデジタル資産「ステーブルコイン」を対象とし、決済用ステーブルコインの発行者に対する明確な規制枠組みを整備することを目的としたものです。
主な内容として、GENIUS法案はステーブルコイン発行企業にライセンス(免許)取得の手続きを定め、適切な準備金規制を導入するとされています。
発行残高が100億ドル超の大規模発行者には連邦準備制度(FRB)や通貨監督庁(OCC)による規制監督を適用し、100億ドル以下の発行者は州当局の規制下での運営も認める仕組みです。
また、GENIUS法案はステーブルコイン発行体が利息を付与することを禁止し、ステーブルコイン自体は銀行預金のような連邦預金保険(FDIC保険)の対象外であることを明確にしています。
この法案は共和党だけでなく、民主党の一部議員も支持する超党派法案となっており、提案にはビットコイン(BTC)支持者として知られるシンシア・ルミス上院議員(共和党)やクリステン・ギリブランド上院議員(民主党)も共同提案者として名を連ねています。
懸念される「預金流出リスク」
GENIUS法案が超党派での支持を得ている一方、伝統的な米国銀行業界は、ステーブルコイン規制の整備自体には原則賛成しつつも以下のような懸念を示しています。
預金の流出と銀行の仲介排除
銀行業界が最も懸念しているのは「ステーブルコインが銀行預金の代替となり得る点」です。米銀行協会(ABA)は「ステーブルコインは名称こそ”決済用”だが実質的に貯蓄手段としても使われる」と指摘しています。
最大手ステーブルコイン「USDT(テザー)」は、2024年末時点で約1,430億ドル(約21兆円)相当の準備金を保有していることが報告されていますが、その約80%が米国債で運用され、現金・銀行預金はわずか0.09%に過ぎません。
ABAは「USDT保有者の資金の多くは銀行預金から移動したものと推定される」とし、非銀行によるステーブルコインが拡大すれば同様の預金流出が起こると警告しています。
大手IT企業による「通貨」発行への警戒
現行法では、アップルやグーグルといったビッグテック企業が独自の通貨(疑似通貨)を発行することは禁じられており、決済サービスを提供する場合は銀行との提携が必要です。しかしGENIUS法案は、非金融企業であっても条件を満たせば「自社発行のステーブルコインによる決済サービス展開を可能にする」と解釈されています。
この点について、仮想通貨反対派で知られる民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員は「本法案はビッグテックやコングロマリット企業による独自ステーブルコイン発行を認め、銀行預金と同等の機能を持つ通貨の発行を青信号で送り出すものだ」と強く批判する姿勢を見せています。
ウォーレン議員は法案審議の場で、非金融企業がステーブルコイン発行者を支配・系列化することを禁止する修正案を提起し、大手IT企業の金融分野進出を牽制しました。
金融システムの安定性リスク
銀行以外の主体が発行するステーブルコインが大規模化した際の新たな金融リスクも懸念されています。ステーブルコインへの信認が揺らぎ、ユーザーが一斉に換金を求める「ラン(取り付け騒ぎ)」が発生すると、発行者は準備資産である国債やコマーシャルペーパーを市場で大量売却せざるを得なくなる可能性があります。
その結果、市場で資産の投げ売り(ファイヤーセール)が発生し、資産価格の急落や損失が連鎖して最終的に納税者負担の金融危機につながる恐れもあると懸念する声もあります。
規制の公平性と競争条件
銀行側は、ステーブルコイン発行体に対する規制が銀行に比べて過度に緩やかにならないかを注視しています。
ABAは「業界はかねてよりイノベーション促進と金融安定・信用供給保護を両立する堅牢な枠組みを求めてきた」としつつ「最終的な法律が銀行システムからの預金流出を招かず、銀行が果たす根幹的役割を守る内容となることを期待する」と述べています。
その一方で、最新のGENIUS法案には業界の意見を反映した改善点も見られると評価しており、具体的にはステーブルコインへの利息付与禁止や発行体への銀行並みの厳格な資本規制の検討、アンチマネーロンダリング(AML)/テロ資金対策の徹底などの条項を盛り込んだ点を挙げています。
銀行界はこうした修正を「重要な改善」と歓迎しつつも、依然として法案成立による市場構造の変化に神経を尖らせている状況となっています。
GENIUS法案を支持する意見
銀行業界が慎重・否定的な姿勢を見せる一方で、米国の規制当局や仮想通貨業界からはGENIUS法案に対し前向きな意見もあります。
米連邦準備制度理事会(FRB)のクリストファー・ウォラー理事は2月の講演で「銀行以外の民間企業にもステーブルコイン発行を認めるべき」との見解を示しました。
重要なのは、ステーブルコイン発行体に対しそのリスクに見合った適切な監督・規制を立法で設けることだ。
また、イノベーションを萎縮させないよう注意しつつ、公平なルールと安全網(ガードレール)の下で民間の力を活用すべきだろう。
また、米財務省も3月7日に開催した初のホワイトハウス仮想通貨サミットで「米国はステーブルコインを活用して米ドルの国際的地位を維持・強化していく」との方針を表明しており、政府内でもステーブルコインを戦略的に捉える方向性が示されています。
米ドル連動型ステーブルコイン「USDC(USDコイン)」を発行するサークル社のジェレミー・アレールCEOは、上院委員会でのGENIUS法案可決を受けて「規制の明確化とドルの競争力強化に向けた大きな一歩だ」と評価しました。
A massive move in Washington today. The GENUIS Act passed out of Senate Banking with a strong and bi-partisan 18-6 vote. This is a huge step towards providing regulatory clarity for stablecoins, and a huge step towards upgrading and making the dollar more competitive.
— Jeremy Allaire – jda.eth / jdallaire.sol (@jerallaire) March 13, 2025
今日、ワシントンで大きな動きがありました。GENIUS法案が上院銀行委員会を18対6の圧倒的な超党派の支持で通過しました。
これは、ステーブルコインに関する規制の明確化に向けた大きな一歩であり、ドルをより競争力のあるものへと進化させる重要な前進です。
ステーブルコイン規制の転換点に
GENIUS法案はステーブルコインを巡る米国の規制の転換点となる重要な法案です。仮想通貨業界にとっては待望のルール整備であり、イノベーション促進やドルの国際競争力強化につながると期待される一方、銀行業界にとっては従来の金融モデルに大きな影響を及ぼす可能性もあります。
本会議での可決に向けてGENIUS法案は一歩前進しましたが、成立までにはなお課題が残っています。上院で可決するには60票の壁があり、仮想通貨に批判的なエリザベス・ウォーレン議員ら一部民主党の反対は依然根強く残っています。
今後の審議では、銀行業界の懸念をどこまで解消できるか、与野党の妥協点を探りつつ法案の細部が調整される見通しとされています。
※価格は執筆時点でのレート換算(1ドル=148.35円)
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Souce:ビル・ハガティ上院議員X投稿
執筆・翻訳:BITTIMES 編集部
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