「ゲーム×社会課題解決」の可能性を切り拓く、DEAファウンダー兼CEO 吉田直人氏にインタビュー

シンガポールを拠点とするDEA社(Digital Entertainment Asset Pte. Ltd.)は、「2024年度 グッドデザイン賞」を受賞し、日経トレンディの「2025年ヒット予測」にも選出された「PicTrée(以下、ピクトレ)」を開発・提供しています。


「ピクトレ」は、電柱やマンホール等の電力アセットを撮影し、撮影した電力アセットの量や距離を競う社会インフラの課題解決をゲーム化したDePINプロジェクトです。

今回NFT Mediaは、同社ファウンダー&CEOの吉田直人氏(以下、吉田氏)にインタビューを実施しました。

ゲーム業界からWeb3への転身、「ゲーム×社会課題解決」というコンセプトに至った経緯、そして今後の展望について伺っていきます。

ブロックチェーンとゲームで世界に挑む

ブロックチェーンとゲームで世界に挑む  DEA社
引用:DEA社公式HP

ーーまず吉田さんのプロフィールについて、DEA社での役職などを簡単に教えてください。

吉田氏:現在、 私はDEAのファウンダー&CEOを務めています。創業は2017年頃になりますが、きっかけはソニーの元CEOである出井伸之さんの影響が大きいです。出井さんは当社の株主でもあり、私が現在も取締役会長をつとめているイオレの株主でもありました。

出井さんは「世界に出て戦うんだ」「世界で通用する事業をやるんだ」とよく言っていました。ソニーという巨大な世界企業を率いた経験から、日本企業が世界で活躍できていない現状に危機感を持っておられたんだと思います。そんな中で、世界で活躍できるスタートアップを作りたいということで、バックアップしてくださったのです。

当時、出井さんからは、ブロックチェーンはデータに価値をもたらす技術であり、インターネット黎明期のように、今まで想像できなかった新しい産業が生まれるという話を聞いていました。インターネットの初期段階では、結局アメリカの大企業に日本企業が負けていってしまいましたが、ブロックチェーンであれば、日本企業が再び羽ばたける可能性があるのだという話を熱弁されていたのです。

ーー当時はイーサリアムのような実用的な技術もまだ少なく、単にコインが存在するだけという印象がありましたが、その時点でゲームと組み合わせるというアイデアはあったのでしょうか。

吉田氏:そうですね、心のどこかにはあったのだと思います。

実は私の義理の弟がゲームフリーク社に所属していまして、赤・緑の頃からポケモンの制作に関わっているんです。私自身も1980〜90年代にはグラムスというゲームメーカーを経営していましたが、私の会社は残念ながら途中で行き詰まってしまいました。

この若い頃にゲーム業界で「やりきれなかった」という思いがあったことと、義理の弟との会話から影響を受けました。義理の弟は「ゲームは新しい体験を提供することが大事だ」とよく言っていました。ポケモンの本質的な革新性は、それまで1人で遊ぶことが主流だったテレビゲームを、学校に持って行ってモンスターを交換するなど、「みんなで遊ぶツール」に変えたことだと。新しい遊びの提案をしたことが、既存ゲームとの大きな違いだと思います。

私自身、子供の頃からドラクエやファイナルファンタジーのようなゲームが大好きで、「ゲームの中でモンスターを倒すともらえるお金が実際のお金だったらいいのに」と思っていました。そこで、暗号資産とゲーム内のお金がリンクし、ゲームの中で遊びながら生活できる可能性が出てくるのではないかと考えたのです。

ーー確か独自トークンを使ったPlay to Earnモデルを考えたのは、Axie Infinityより先だったのですよね。

吉田氏:そうなんです。自社でトークンを発行し、それをゲーム内で流通させたという点では、我々の方が先でした。

ただ、当時の日本において、上場企業が暗号資産を発行することが前代未聞だったので、シンガポールで会社を作りチャレンジを始めることにしたのです。

そこから2020年4月にOKX(当時のOKEx)に「DEP(ディープコイン)」を上場させ、グローバルで価値を持たせることに成功しました。

Play to Earnモデル自体を行ったのはAxie Infinityが先ですが、自社で発行したトークンを用いたモデルは我々の方が早いですね。

ーーDEA社を立ち上げられた際、テレ東に所属していた山田さんと共同創業されたとお聞きしています。どのようにして出会われたのでしょうか。

吉田氏:山ちゃん(山田耕三氏)は元々飲み友達だったんですよ。

彼がテレビ東京を独立した頃、「一緒に面白いことをやろう」と言っていました。ゲームやアニメを作りたいねという話をしていた中で、「JobTribes」という職業を擬人化したコンテンツについて話していたのです。

JobTribes  PlayMining
引用:プレスリリース

そこに「暗号資産をくっつけたらいいんじゃないの。」という話になって、それでゲームを作れば面白いんじゃないかと。そんな感じで始まりました。

ーーでは、お二人で最初のJobTribesから始まって、PlayMining、のちのピクトレにつながっていくイメージなのですね。

吉田氏:PlayMiningは元々「遊んでマイニングする」というコンセプトのプラットフォーム名です。従来のマイニングはパソコンの計算能力を利用し大量の電力を消費し行うのですが、それをゲームとして楽しむ形にしました。このプラットフォームの下にいろんなゲームをぶら下げる構想でした。ゲーム単体では大きな経済圏を作るのは難しいですし、ヒットするかどうかは運の要素も大きいです。そこでたくさんのゲームがある環境を作ることで新しい価値が生まれると考えたのです。

ーーありがとうございます。ちなみに現在、吉田さんと山田さんが共同創業者という形で就任されてると思いますが、役割分担はどうされているのでしょうか。

吉田氏:基本的には会社の経営と資金調達や営業部門の統括などを私がやっています。

一方、山ちゃんはブロックチェーンやWeb3の中でもDePINと呼ばれるジャンルを開拓していて、東京電力やNTTといった大企業とのアライアンスや業務提携をどんどん成し遂げてくれています。新しい領域の開拓と大企業との連携を中心に突き進んでいるという感じですね。

「ゲームで健康増進」の社会実装を実現する

ーー吉田さんはゲーム業界から一度離れていたとお聞きしていますが、どのような経緯だったのでしょうか?

吉田氏:20年ほど離れていた最大の理由は、ソシャゲが嫌いだったからです(笑)。元々コンシューマーゲームを作っていたこともあり、パッケージタイトルへの思い入れが強かったわけです。

ブロックチェーンの登場で「ゲームが全く新しく変わるかもしれない」と思い、満を持して再参入したのです。既存のゲームの枠組みを大きく超えた新しいゲームが作れるかもしれないと感じたからです。

ただ、作り方としては結局ソシャゲっぽくなってしまっていて、自分の中でもジレンマを感じてしまいます(笑)。

ーー「ゲームを通じた社会課題の解決」というコンセプトに至った経緯を教えていただけますか。

吉田氏: Axie Infinityのスカラシップ制度を見てきっかけができました。スカラシップは、お金持ちの人がNFTを買って、仕事が少ない東南アジアの方々に貸し出すという仕組みです。

そこで面白かったのは、通常の寄付やNPO/NGO活動と違って、ダイレクトに「ありがとう」と言われる体験があることです。「子供を学校に入れることができました」「お父さんを病院に行かせることができました」といった写真や報告が送られてくるのです。

これを見て、「ゲームと社会課題の解決は相性がいいんじゃないか」と気づきました。単に自分がプレイできない分を人に貸して稼いでもらうというコンセプトだったのに、結果的には仕事がなくて困っている人たちを助けることにつながった。それが2021年頃のことで、実際に自分たちで体験してみて腹落ちしたのです。

ーー「ピクトレ」は電柱の点検をゲーム化したサービスとして注目を集めていますが、このプロジェクトについて詳しく教えてください。

吉田氏:ピクトレは東京電力さんが困っていた電柱の点検という課題をゲーム化したものです。一般ユーザーが困っていることを解決するB2Cモデルと違って、企業が困っていることを解決するB2Bモデルといえます。

ピクトレ
引用:プレスリリース

具体的には、陣取り合戦のゲームの中で電柱を撮影するというギミックを組み込んでいます。現状、電柱1本につき50円ほどお支払いしています。本気で取り組めば月に20万円程度になる方もいます。

ただ、私たちはこれをあくまでゲームとして捉えていて、「仕事」としては見てほしくないのです。
楽しんでいただいて、その報酬として少しお金がもらえる「インフラポイ活」としてプレイをしてもらえればと思っています。

課題としては、「カメラを向けて写真を撮っている人が不審者と思われる」といったことがあります。開催時には行政や警察にも事前に連絡したり、点検中という腕章をプレイヤーに配布したりしていますが、一般の住民の方にはうまく伝わっていないケースもあります。また、安全面の配慮も大切です。車道に出て撮影したり、雪道で転んだりといった事故のリスクもあります。

「楽しみながら」社会に貢献する

ピクトレ
引用:プレスリリース

ーーピクトレを利用する方々の反応はいかがですか?

吉田氏: 見ているだけではただの陣取り合戦ゲームに見えるかもしれませんが、実際にやってみると非常にハマります。健康にもいいですし、何人かで動いているので会話も生まれます。今までのゲームとは全く違う体験ができるのです。

特に面白いのは、チームごとに戦略を練ったり、情報を伝達したりする「サークル活動」のような側面です。初心者の方にもベテランユーザー様が、ちゃんと教えてくれて、みんなで楽しむ雰囲気が生まれています。

私たちの想定以上に「推し活」のような形で熱心に活動される方々が出てきているのです。例えば、東京在住のファンが、秋田や沼津など遠方の開催地に新幹線で足を運び、地元の観光もして帰るといった動きが生まれています。

そうしたコアなファンの方々が、地元の人たちにプロモーションしてくれて、地元の人たちにも広がっていくという現象が起きています。最初は群馬県前橋市で始まったのですが、そこでユーザーになった方が今度は秋田の方にご案内するといった展開になっているのです。

そして実際のところ、ピクトレはチーム戦なので地元の方のサポートが必要です。東京から週末だけ来る人たちだけでは、平日に自分が取った領域が他のチームに奪われてしまいます。そのため、地元の方をスカウトする動きも生まれています。

ーーこの度、ZUU ターゲットファンドから10億円規模の資金調達を実施されたとお聞きしました。その背景と今後の戦略を教えてください。

吉田氏: 私たちは初期に下記のような日本を代表する事業会社の皆様からご出資いただいて成長してきました。

  • 楽天
  • テレビ東京
  • クリーク・アンド・リバー社
  • JA三井リース
  • Sun Asterisk
  • KDDI

暗号資産の盛り上がりで大きくスケールした後、その失速とともに市場が縮小する中、ゲーム会社からDePINの会社に転換してきました。

これから世界に打って出るためには、人材の強化や新たな事業展開が必要です。発表はまだですが、東電さんやNTTさんクラスの日本の超大手企業との連携が進んでいるので、それを実現するための体制強化も必要です。

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引用:プレスリリース

また、業績がV字回復している今、本格的な上場準備に入りたいと考えています。上場準備には監査法人の費用や管理部門の強化など、通常の事業運営以上のコストがかかります。これらに資金を活用していきたいと思っています。

DePIN事業の勝ち筋は、「何かの課題解決のためのコストが元々あって、そこをユーザーとシェアするモデル」だと思います。東電さんであれば電柱のメンテナンス費用の一部をゲーム内に持ってくるイメージです。

これが東電さんにとっても、ユーザーにとっても、地域の方にとっても良いことだとなれば、もっと盛り上がっていくでしょう。特に日本は人口減少の中でバブル期に作られたインフラのメンテナンスという課題を抱えており、このモデルは日本の状況に合っていると思います。

今後の計画やビジョン

ーー2025年以降の御社の計画やビジョンについて教えてください。

吉田氏:弊社の山田と二人三脚で進めていきたいと思っています。私は足元の売上数字を立てつつ、山田は大企業との連携を通じてみんなが「面白い」と思えるようなサービスを作っていきます。

早いタイミングでの上場も目指しています。NASDAQで上場するか、日本に戻って上場するかという選択肢もありますが、日本での税制改正次第では日本も有力な選択肢になるかもしれません。

いずれにしても、早期に上場して信用力を高め、事業をスケールさせることに邁進していきたいと思っています。

ーー最後に、NFT Mediaの読者の方々へメッセージをお願いします。

DEA社ファウンダー兼CEO 吉田直人氏
DEA社ファウンダー兼CEO 吉田直人氏

吉田氏: ピクトレではあまりNFTを前面に出していませんが、実は電柱をNFTとして販売しています。
これを購入いただくと、ゲーム上で有利な効果を得ることができます。

そして、電柱NFTを持つことで「自分の電柱」という愛着が生まれるところが面白い点だと思っています。「これは自分の電柱だ」というのは普通ではなかなか体験できないことですよね。

今後も我々はNFTを活用した展開を考えていますので、ぜひピクトレも楽しんでいただき、もしよろしければ電柱NFTも買っていただけると嬉しいです!

インタビュー後記

今回、吉田さんへのインタビューを通じて、ゲームと社会課題解決の融合がもたらす新たな可能性に触れることができました。特に印象的だったのは、ピクトレが単なるゲームを超えて「現代の新しいお祭り」としての側面を持ち始めているという点です。

ユーザーが地域を超えて集まり、コミュニティを形成し、さらに地元の方々を巻き込んでいく様子は、デジタルとリアルの融合がもたらす新たな社会体験の形を示しています。インフラ点検という社会課題解決と地域活性化、そしてエンターテイメントが一体となった新しいモデルの今後の展開に注目したいと思います。

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参照元:NFT Media

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