陳満咲杜の「マーケットをズバリ裏読み」

ムニューシン騒動でドル安は一服!? 米国がドル安を国策にできない理由とは? ブログ

ムニューシン騒動でドル安は一服!? 米国がドル安を国策にできない理由とは?

■米サイドの発言に市場は翻弄される マーケットは米サイドの発言に翻弄されている。米財務長官が米ドル安を容認する発言をしてマーケットを震撼させたと思いきや、今度は米大統領が「米ドルはさらに強くなる、最終的には強い米ドルを望む」と言い、これの打消しに躍起になる格好となった。

 当然のように、為替市場は大きく反応していた。ドルインデックスは一時88.45まで下落したものの、いったん陽線で大引けし、ユーロ/米ドルも1.2538ドルの高値を付けてから陰線で引けた。

ドルインデックス 日足(出所:Bloomberg)

ユーロ/米ドル 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 日足)

 同じく当然のように、「トランプ氏の発言がなかったら米ドル安がどこまで進んだかわからない」と思われがちだが、筆者はそうは思わなかった。なにしろ、米財務長官の話自体、深読みしないほうが無難と思っていかたからだ。

 昨日(1月25日)のブログでその見解を公開したのだが、これはトランプ氏が米ドル擁護発言をする前の考えであったことを強調しておきたい。本文は以下のとおりである。

ムニューシン米財務長官は世界経済フォーラムで「弱いドルは米貿易収支にとって短期的に有利だが、長期的には堅調な通貨であると確信している」と言い、「ドルについて私は首尾一貫していると考える。これまでの財務長官もドルについて発言した。私がこれまで言ってきたのは、まず第一に通貨の自由な取引を支持しているということだ」と述べた。更に、「現在のドル水準は私の懸念要因ではない」と追加した。

「念仏」のように歴代財務長官が繰り返してきた「強いドル政策」はそもそも有名無実な政策だったが、ムニューシン氏の口から「政策転換」と言われると市場は驚き、またドル売りに拍車を掛けたのも当然の結果と言える。但し、その後、米財務長官自身が発言を訂正したように、為替市場の現状についた感触に過ぎず、米政府が公式に米ドル安志向に転換したという判断は性急かつ乱暴だ。要するに、ドル安を容認することを言っているが、それ以上大袈裟な解釈は要らない。

ドル安の容認、今更サプライズになる必要もないでしょう。ドル売り介入した際でも「強いドル」云々を言っていた米為替政策は昔から「二枚舌」の体質なので、むしろ公言したムニューシン米財務長官のほうが「正直者」だといった印象さえある。更に、そもそも米国には為替政策自体が存在しなかったという見方も多く、「米為替政策の歴史的な転換」といった大袈裟のタイトルを付いた記事を深読みしないほうが正解かもしれない。

もっとも、トレンドが大分進んでいた上、トレンドに沿った大きな材料の登場は往々にして「クライマックス」の局面を作る、という前例が多かっただけに、米財務長官の発言の蓋然性もテクニカル上の観点と整合的に考えないといけない。ドルインデックスの月足におけるオーバーシュート、ますます鮮明になってきたので、警戒しておきたい。詳細や正誤についてまた検証していくつもりだが、今晩ECB総裁の発言も材料になり得ることに注意。

 要するに、ムニューシン米財務長官の話は…
米ドル/円の下値は限定的で英ポンド/円は 158円台後半をめざす!? 昨年の市況にヒント ブログ

米ドル/円の下値は限定的で英ポンド/円は 158円台後半をめざす!? 昨年の市況にヒント

■クロス円が堅調に推移している理由とは? 米ドル安の市況が続いている。一方、主要クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)は堅調な値動きを保ち、英ポンド/円は高値を更新した。

世界の通貨VS円 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 日足)

 前回(1月12日)のコラムで指摘した「主要クロス円の多くは押し目買いのタイミング」が先週(2017年1月8日~)後半にあったから、米ドル/円の下落はあっても、円高の市況とは言い切れない。

【参考記事】

●米長期金利上昇でサプライズのドル安に。「日銀騒動」はポジション調整の口実か(2017年1月12日、陳満咲杜)

 もっとも、主要クロスが上昇するロジックはシンプルだ。米ドル安の受け皿の役割を、主に円以外の主要通貨が果たせば、該当通貨の円に対するレートが上昇していくしくみである。

 要するに、米ドル/円の下落があったものの、ユーロや英ポンドなどの主要通貨は対米ドルの上昇がより強かったので、ユーロ/円、英ポンド/円などクロス円の上昇は自然の成り行きであったわけだ。

■テクニカル上のサインからも、押し目買いのタイミングだった 先週1月11日(木)、12日(金)あたりがクロス円の押し目を拾うタイミングであったことについて、テクニカル上の示唆も多かった。高値更新している英ポンド/円はその代表格なので、1月9日(火)のレポートをもって説明したい。本文は以下のとおり。

英ポンド/円 日足(1月12日作成、クリックで拡大)(出所:FXブロードネット)

ポンド/円はドル/円の急落につられた形で急落してきた。日銀政策変動に関する思惑がなおくすぶるが、思惑先行ですでに織り込まれ、また反落波の行き過ぎが見られたので、ここからは反転してくるでしょう。

注目していただきたいのは、まず昨年11月28日の大陽線、「フェイクセットアップ」のサインを点灯してから上昇トレンドを維持、また昨年12月8日高値をブレイクしたことで昨年9月高値から形成されてきた大型変動レンジの上限の突破を意味し、上値余地を暗示していたこと。

従って、ここから昨年12月15日の「フォールス・ブレイクアウト」のサインを否定(同日安値を大きく下回る)しない限り、ブルトレンドが維持され、目先の急落があってもなお許容範囲であろう。実際、パターンの繰り返しを想定する場合、昨年12月15日と同様、GMMAにおける長期線グループの支持が確認した形でブルトレンドへ復帰、または15日自体のように、一時6日安値を割りこんでから切り返す、といった値動きが想定される。この意味では、仮に一時149円台前半の打診があっても、忽ちベアトレンドへ転換するといった判断が性急であろう。

そもそも昨年11月末の安値再打診や同28日の「フェイクセットアップ」はおなじ性質を持ち、大型レンジ変動がすでに一旦上放れを果たした以上、途中の反落はあくまでスピード調整と見做すべきであろう。・・・総じて下値余地限定、また下値打診があれば押し目好機

とみるべきであろう。大型レンジが上放れした後の「倍返し」、まだまだ大きい上値余地を示唆している以上、押し目買いのスタンスで臨みたい。

 執筆中の現時点の英ポンド/円チャートは次のとおり…
米長期金利上昇でサプライズのドル安に。 「日銀騒動」はポジション調整の口実か ブログ

米長期金利上昇でサプライズのドル安に。 「日銀騒動」はポジション調整の口実か

■米ドル安が米長期金利上昇でもたらされたサプライズ 円は買われ、米ドル全体は弱気変動を強いられた。

米ドル/円 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)

 その背景には、米長期金利の下落ではなく、その真逆の上昇があったのも、いささかサプライズであった。

 その発端は2018年年明け早々の、日銀による超長期国債買い入れの減額だった。黒田総裁の任期満了が近づいていることで、市場には日銀がテーパリング、すなわち緩和政策の出口戦略を打ち出したのでは…という思惑が広がり、これが円買いにつながったわけだ。

 その上、中国当局が米国債投資見直しとの報道も、米ドル売りに拍車をかけた。

 日銀のテーパリング疑惑が浮上してきたから円を買い戻す、といった市場の反応パターンは理解されやすいだろう。

 主要中央銀行の中で、日銀は唯一、緩和政策を維持し、昨年(2017年)はほとんど修正の動きがなかったから、「今年(2018年)こそ修正してくるか」といった思惑が支配的だ。ゆえに、昨年(2017年)11月に黒田氏が「リバーサル・レート」理論を紹介した時と同じく、市場関係者は日銀の軌道修正がついに始まったと疑い、いっせいに円の買戻しを図ったのだ。

■日銀は独断でテーパリングを行うことはできない!? 市場の疑いはまったく根拠がないとは言えない。なにしろ、日銀がこのようなシグナルを発してしまったこと自体が「誤り」であった可能性は大きいと思う。

 前述のように、日銀のみ取り残されている時期に、昨年(2017年)の黒田さんの発言と同様、日銀が「ステルステーパリング」を行い、事実上の引き締めに着手したと投資家たちが受け止めても仕方がないだろう。

 一方、唐突な印象はあるものの、総じてテクニカル調整の範囲に留まり、日銀政策自体の修正にはほど遠いという指摘も多い。

 公的年金改革など政策面にしても、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などの公的機関にしても、日銀政策に依存している状況からみると、物価目標(2%)を正式に放棄しない限り、日銀が政府の意向を汲まずにテーパリングを行う余地は少ないと思われる。

 もちろん、中央銀行は独立性を有し、法律上、政府の意向を忖度する必要はないが、黒田体制が安倍政権とセットになって登場してきた経緯から考え、そして、肝心の物価目標が未達成のうちに、たとえステルスだとしても日銀がまったくの独断でテーパリングを行えるかと聞かれると、答は明らかにノーだと思う。少なくとも黒田さんが引退するまでは、基本的にはないとみる。

市場の注目を集める日銀の出口戦略。しかし、黒田総裁が引退するまでは、日銀が独断で秘かに出口に向かうといったことはない…のだろうか。 (C)Bloomberg/Getty Images

■一時的にせよ、大幅な円高を招いたこと自体は日銀のミス ただし、長期金利の低下や市場の「日銀頼み」を牽制する目的なら、今回の国債オペ減額も必ずしも理解できないとはいえない。しかし、事前に十分なコミュニケーションをとらずに行われた減額に市場が動揺し、一時的にせよ、大幅な円高を招いたのは事実。日銀としては「不本意」だったとしても、これは明らかに日銀がミスを犯したと言える。

 というのは、114~115円といった円安の「壁」に直面し、円安の基調が定着していないうちに政策を変えることは、金利市場や為替相場に波乱をもたらすと容易に推測されるはずだからだ。

 もっとも、日銀のオペ減額後、超長期国債利回りの…
ユーロ/円は1月中に140円の大台達成!?  20円ほど動く可能性もあるので要注意! ブログ

ユーロ/円は1月中に140円の大台達成!?  20円ほど動く可能性もあるので要注意!

 皆様、新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

■米ドルは2018年年明けも軟調に推移 新年早々、やはり気になるのは米ドル全体の弱気推移だ。昨年(2017年)、ドルインデックスは10%に近い下落率を記録、2018年年明けからも軟調に推移し、執筆中の現時点では91.80の水準に落ち込み、2017年9月安値を割り込む勢いである。

ドルインデックス 日足(出所:Bloomberg)

 NYダウが昨日(1月4日)、はじめて2万5000ドルの大台に乗せたこともあって、米ドルの弱気変動が一層目立つように見える。

 当然のように、ユーロは米ドルの対極としてもっとも恩恵を受け、昨日(1月4日)、2017年9月高値を更新する寸前まで迫った。

ユーロ/米ドル 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 日足)

 ここから一時、高値更新があってもおかしくないと思われるが、問題は、これからどれぐらい上昇余地を拡大するかだろう。

 何しろ、ユーロ/米ドルの上昇は米ドル全体の下落を意味するから、米ドルの下げ止まりがなければ、昨年(2017年)の米ドルベア(下落)トレンドが延長され、さらに大幅に下落余地を拡大させる恐れがある。

■ユーロは1.15ドルを下回らない限りは強気を維持か もっとも、ユーロの本格的な上昇は2017年夏場からだった。

 2016年冬にいったん2015年3月安値を割り込んだものの、その後、切り返し、「底割れ」を回避したとみられた。が、1.1450~1.15ドルの節目前後の水準を上回れるまで、切り返しがあっても、あくまで安値圏でのレンジ形成にすぎないと思われた。

 月足で見ればわかるように、2015年8月や2016年5月のローソク足の「上ひげ」部分を除き、ユーロ/米ドルはほとんどそれ以下の変動に留まっていたからだ。

ユーロ/米ドル 月足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 月足)

 しかし、ユーロは2017年夏場にて1.1450~1.15ドルの節目前後の水準を上回り、大型レンジの上放れを果たした。

ユーロ/米ドル 週足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 週足)

 そして、2017年11月安値が1.1554ドルに留まったことから考えると、明らかにかつてのレンジの上限で下げ止まり、そして、これが目先の高値再トライにつながったわけだ。換言すれば、1.15ドルの節目を下回らない限り、ユーロはなお強気変動を維持し、その一方、米ドル全体は弱気構造になると言える。

 では、2015年3月から2017年夏場まで形成された…
2018年はクロス円が大波乱!? 米ドル/円も 含め上昇リミットは春頃、その後一転暴落? ブログ

2018年はクロス円が大波乱!? 米ドル/円も 含め上昇リミットは春頃、その後一転暴落?

■米ドルは、米長期金利の上昇を追う? 米減税案は正式に成立したが、米ドル全体は大して高くなっていない。このため、米減税案の成立はすでに織り込まれていたといった見方も浮上しているが、筆者はむしろこれからだと思う。

 2017年最後の記事になるので、来年(2018年)の見通しを含め、米ドルの動向を占ってみたい。

 まず、米ドルは当面、米長期金利(10年物国債利回り)次第、という見方が維持されており、またその相関性が崩れていないことを記しておきたい。

 米減税案の成立を受け、米長期金利は2017年年初来高値を更新しており、米ドル高はこれからだと思う理由もここにある。換言すれば、米ドル高のスピードが遅く、米長期金利の上昇についてきていないとはいえ、米長期金利と「相違」する値動きになる、すなわち米ドル安になるといった判断は性急すぎる。

米長期金利(10年物国債利回り)日足(出所:Bloomberg)

 米ドルが米長期金利ほど上がっていないのは、マーケットの、減税による景気拡大への期待以上に、債務拡大への懸念の方が大きい、ということの表れかもしれないが、それでもその懸念がたちまち大きくなるとは限らない。

 なにしろ、米国株の動向が重要で、米国株が崩れていないうちは、長期金利の上昇があっても、それはマーケットの「許容範囲」だと言える。

NYダウ 日足(出所:Bloomberg)

 つまるところ、米長期金利の上昇は、「良い」金利高と「悪い」金利高の局面にわかれるが、しばらくは「良い」金利高の局面にある可能性は大きい。

 ゆえに、米ドル全体は遅れるものの、やはり米長期金利の上昇に追随する形で上昇していき、「悪い」金利高の局面に来たら、頭打ちになってまた売られる展開になると推測される。ごくシンプルな理屈として、米国株が崩れていないうちは、米長期金利の上昇は「良い」金利高とみなされるから、米ドル高は続くというわけだ。

■米ドル高が緩やかな理由に財政赤字の拡大に対する懸念も もっとも、前述のように、マーケットの警戒感も根深い。トランプ氏の大規模減税は財源が不明確なところが多く、今後悪化すると予想されている財政赤字の拡大(1兆ドルとの試算もある)が懸念されれば、米国債の売り圧力が急速に上昇してくるだろう。

 米国債の急落で米金利が急上昇となれば、株が耐えられず急落してくる局面も想定され、典型的な「悪い」金利高の局面に入っていく。

 米ドル高が緩やかになっている背景にはこのような警戒感が控えているのかもしれない。

■米ドル高は少なくとも2018年春までは続くのではないか しかし、このような懸念があっても、しばらく米ドル高が続く、すなわち「良い」金利高の局面が終わっていないと筆者は思う。

 根拠として、目先の低インフレと、米国株の堅調が挙げられる。

 税制改革により、2017年年内ではなく、来年(2018年)の株の売却(米国株高で基本は利益確定の動きとなる)が有利とされる環境の中、なかなか高まらない米インフレが債券売りを押さえ、米長期金利の上昇傾向は続いたとしても急上昇は回避され、その結果、米国株の堅調は維持される。

 こういった「メリット」の側面が大きいから、「良い」金利高の局面もしばらく続くはずである。ゆえに、米ドル高は少なくとも2018年春までは続くのではないかと思う。

 となると、年末年始(2017~18年)においては、薄商いとはいえ、基本的には米ドル高の基調が維持され、場合によっては薄商いだからこそ、米ドルは一段と上昇しやすく、目先、米長期金利との差を埋めるのではないかとみる。

 米ドル/円で言えば、年末年始(2017~18年)は115円の節目、そして2018年春頃は118円台の打診、すなわち2017年年初来高値の「逆戻り」を果たすことになる。

米ドル/円 週足(出所:Bloomberg)

 一方、米ドル高は総じて緩やかなものに留まり…
ブレイク待ちの米ドル、税制改革遅れ懸念 も上放れの可能性が高いとみる理由とは? ブログ

ブレイク待ちの米ドル、税制改革遅れ懸念 も上放れの可能性が高いとみる理由とは?

■米ドル売りをもたらしたのは「事実の売り」ではない? 米FOMC(米連邦公開市場委員会)、欧ECB(欧州中央銀行)と英BOE(イングランド銀行[英国の中央銀行])が相次いで政策会議を開き、金利などの決定もおおむね市場の想定どおりだったので、相場もおおむね保ち合いの状況が続いている。

 米利上げが一番注目されていたが、利上げ自体は規定路線だったから、利上げ後の米ドル全体の反落を「事実の売り」と解釈される節もあった。

ドルインデックス 1時間足(出所:Bloomberg) 

 しかし、仮にその「事実の売り」があったとしても限定的であり、また、本当は別のところに原因があったのではないだろうか。

■米減税案開始の遅れへの懸念が米ドル売りの一番の要因 米ドル売りをもたらした一番の要因はほかならぬ、米減税案の正式スタートが遅れる、といった懸念にあると思う。トランプ政権のゴタゴタが長く続いてきたが、ようやく2017年年内に減税案がまとめられると市場が期待していたところ、再度懸念材料が浮上し、米ドル買いの意欲が損なわれたわけだ。

 懸念材料の1つは、米アラバマ州上院議員の補欠選挙で野党・民主党のダグ・ジョーンズ候補が勝利したことで、トランプ政権は共和党の地盤だった同州で議席を得られず打撃を被ったこと。

 もう1つは、税制改革法案に対して共和党内部から異議が浮上したことだ。2名の共和党議員が条件を付けて支持を保留する態度をみせているほか、健康上の理由で投票が遅延する恐れがある議員も2名おり、共和党の多数派工作が失敗する恐れが出てきたからだ。

 既述のように、市場は税制改革法案を織り込み、また、あくまで2017年年内の成立を見込んでいるから、ここから再度頓挫すれば、米ドルをロングする意欲が大幅に後退しかねない。

 言ってみれば、米ドル高を支える材料として、当面は利上げや来年(2018年)の利上げの見通しよりも、減税案の方が重要なので、来年(2018年)にずれこむなら、年末年始における波乱要素として効いてくるのではないかと推測される。

■ECB政策のタカ派観測後退で、ユーロ高も限定的 一方、米ドルが軟調に推移しているとはいえ、ユーロ高も限定的であり、ドラギECB総裁の記者会見後にはむしろユーロ売りが見られた。

ユーロVS世界の通貨 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロVS世界の通貨 1時間足)

 総裁が、今後数年インフレが緩やかになることを予想し、今後のECB政策に関するタカ派観測を後退させたところが大きいと思う。

 ドラギ氏の発言の要旨は、要するにQE(量的緩和)政策終了後も低金利を維持していくということであり、ユーロ高を見込む筋にとって、高まらないインフレ予想がユーロ利上げ観測の最大の障害になるから、ユーロ高の前提条件が崩れかねない。

 米ドルの軟調があったのに、ユーロの上値が重かったのも納得できるかと思う。

 英BOEの決定も市場の予想どおりだったが…
英ポンド/円は高値更新準備完了!? いろいろ あってもリスクオン継続、トランプラリー2へ ブログ

英ポンド/円は高値更新準備完了!? いろいろ あってもリスクオン継続、トランプラリー2へ

■ユーロ/円、英ポンド/円は高値更新が既定路線! 前回のコラムでは、ユーロ/円、英ポンド/円の上値余地を指摘させていただいた。今晩(12月8日)、米雇用統計があるから、数字次第で一波乱もあり得るが、ユーロ/円、英ポンド/円の高値更新を既定路線と見なし、今日(12月8日)は更新しなくても、来週(12月11日~)更新していくと思う。

【参考記事】

●米長期金利上昇で米ドル下げ一服。ユーロ/円、英ポンド/円は大幅上昇も!?(2017年12月1日、陳満咲杜)

 前回はユーロ/円の説明をしたので、今回は英ポンド/円の内部構造をみてみよう。高値更新の可能性がどこにあるかに関して、以下のレポート(11月29日作成)を見ればおわかりいただけるだろう。

英ポンド/円 日足(11月29日作成)(出所:FXブロードネット)

 

昨日ポンド/円は波乱し、また陽線引けをもって重要なサインを点灯した。10月安値に再接近しただけに、二番底を形成、また10月安値と「ダブル・ボトム」を形成してから切り返しを果たし、ブル基調の回復を図れるとみる。

10月安値は10月9日の陽線をもって証左され、同日の安値が一時9月高値を起点とした下落波の安値を更新したものの、6日の高値より高く大引け、典型的な「リバーサル」のサインを点灯してから底打ちを示し、11月1日高値151.94への切り返しをもたらしたわけ。

今回の二番底、10月安値に対する再確認、という意味合いにおいて、より鮮明したサインを点灯したとみる。10月9日の安値に接近したが、一転して高く大引け、ザラ場の高値は11月23日以来の高値を果たしただけに、昨日の強気「リバーサル」が「フェイクセットアップ」のサインとしても点灯された模様だ。

二番底を形成したわけだから、ここからは切り返す構造がより鮮明化される見通しで、また必然的に「ネック」の役割を示した11月1日高値151.94の打診やブレイクにつながる。ブレイクがあれば、高値更新の道筋も付けられると思う。

 その後の進展は想定どおりであり、また、米減税案の上院通過もあった12月4日(月)には、英ポンド/円はいったん高値更新を果たした。しかし、同日(12月4日)のうちに大きく反落して安く大引けし、12月6日(水)の安値149.75円まで大きく反落した。

英ポンド/円 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/円 4時間足)

 12月4日(月)のローソク足が「塔婆風」だっただけに、その高値更新が結局「ダマシ」だったのでは…と疑われたが、プライスアクションのサインを丹念に検証すれば、その見方は杞憂であることがわかる。

 理屈は12月7日(木)のレポートにて書いたので、以下の原文をご参照いただきたい。

英ポンド/円 日足(12月7日作成)(FXブロードネット)

ポンド/円は昨日大幅続落、またレンジ内に押してきた。12月4日の罫線、(C)「スパイクハイ」であり、また高値を一旦更新しただけに、昨日安値までの反落につながったのも余程なサプライズとは言い切れないが、4日の罫線、トレンドを反転させる「フォールス・ブレイクアウト」に化すかどうかは問題として浮上してきた。

要するに、トップアウトのサインと化していたなら、9月高値と「ダブルトップ」を形成、これから大型レンジの下放れを果たすでしょう。しかし、デイリーでの記述の通り、その可能性は低いと思われ、なお上放れの蓋然性が高いとみる。

なにしろ、11月28日の罫線(B)は「フォールス・ブレイクアウト」、また「フェイクセットアップ」のサインとして証左されてきた、もっとも有力の証拠は11月1日高値(A)のブレイクを果たしたところであろう。換言すれば、12月4日の罫線がもたらした調整の意味合いが昨日の大幅反落をもって証左されたが、同意味合い、あくまで11月安値を起点とした上昇波におけるスピード調整にあり、拡大解釈されるべきではない、ということだ。

 案の定、昨日(12月7日)、英ポンドは大きく反騰し、執筆中の現時点では、英ポンド/円はまた月曜(12月4日)高値に接近しているから、再度高値更新の準備ができているとみる。

 もっとも、この間、いろんな材料が出たから…
米長期金利上昇で米ドル下げ一服。 ユーロ/円、英ポンド/円は大幅上昇も!? ブログ

米長期金利上昇で米ドル下げ一服。 ユーロ/円、英ポンド/円は大幅上昇も!?

■米長期金利上昇で、米ドルの下げ一服 米ドルは米長期金利(10年物国債利回り)次第、といった見方を繰り返し指摘してきたとおり、米長期金利が上昇してきたところで、米ドル全体も下げ一服、また、米ドル/円も反発してきた。

米長期金利(10年物国債利回り) 日足(出所:Bloomberg)

ドルインデックス 日足(出所:Bloomberg)

米ドル/円 日足(出所:Bloomberg)

 最近の米ドル全体の軟調は、米感謝祭に伴うポジション調整という側面も強かったが、基本的には米長期金利が再び2.3の節目直前まで反落してきたところが大きかったと思う。

 しかし、11月29日(水)の大陽線が示していたように、米長期金利の「底割れ」のリスクは後退し、さらに上昇波に復帰している公算が高まっている。


 11月17日(金)の本コラムでも言及したように、米長期金利の日足には、「三尊天井(※)」の疑いがあった。

(編集部注:「三尊天井」とは、チャートのパターンの1つで、天井を示す典型的な形とされている。仏像が3体並んでいるように見えるために「三尊」と呼ばれている)

【参考記事】

●米ドル高値トライ「三度目の正直」は失敗なのか? 米長期金利から真相を読み解く!(2017年11月14日、陳満咲杜)

■三尊天井の可能性ありから、一転ダブルボトムの可能性 しかし、11月29日(水)の大陽線、また、昨日(11月30日)の続伸から考えて、少なくともその可能性は後退しているから、これからさらなる上放れを期待できるとみる。この場合、11月における2回の安値トライは「ダブル・ボトム」と見なされ、調整波の一巡が有力視される。

米長期金利(10年物国債利回り) 日足(再掲載)(出所:Bloomberg)

 大事なのは、米長期金利は米国債市場における取引で決定されるしくみなので、長期金利自体もテクニカル分析が通用するものであるということだ。

 その上、米長期金利が市場の取引によって上昇傾向にある限り、米ドルの2017年年初来の下落に対する切り返しもなお途中であり、早期終焉もなかろうといったロジックが展開できよう。このロジックが正しければ、ドルインデックスの反落はあっても限定的で、また再度切り返してくることだろう。

■ドルインデックスは重要なサポートゾーンで下げ止まった 実際、ドルインデックスは重要なサポートゾーンである92半ばにて下げ止まり、ここから切り返していく公算は高いと思われる。

ドルインデックス 日足(出所:Bloomberg)

 2017年年初来、米ドルが急落してきた分、それに対する修正(反騰)も一直線にはいかないから、反落があった方が、より健全な上昇波につながる側面も大きいかと思う。

■ユーロ/米ドルの切り返しも米長期金利低下に連動した値動き トランプ政権のゴタゴタ(最近は国務長官の更迭)や米税制改革案審議に関する報道や推測、そして、北朝鮮問題などの材料でこれまでは米ドルを買いにくい側面もあったが、ユーロ/米ドルの切り返しが強かったのも、前述の米長期金利の低下と連動した値動きとみる。

 足元で米長期金利が切り返してきた以上、ユーロ/米ドルの切り返しもそろそろ一服してくるのではないだろうか。再度高値更新を果たせなければ、ユーロ/米ドルの日足では、新たな「三尊天井」が形成されてもおかしくないから、要注意だ。

ユーロ/米ドル 日足(出所:Bloomberg)

 とはいえ、ユーロ/米ドルの頭打ちがあっても、だいぶ切り返してきた分、ベア(下落)トレンドへ復帰するには時間がかかることも容易に想定される。

 一方、米ドル/円は111円の節目を守り、底割れを回避しながら、過大となった円売りポジションの「振り落とし」を果たし、これからむしろ「身軽」になって高値に再トライしやすい環境が整いつつあるのではないかと推測される。

 このような見方や推測が正しければ…
米ドル安は投機的な動き?構造的な問題? 米ドルの運命を左右するものとは…!? ブログ

米ドル安は投機的な動き?構造的な問題? 米ドルの運命を左右するものとは…!?

■米感謝祭を挟み、米ドルは一段安に 米感謝祭を挟んで、為替市場は動いた。米ドルの一段安だ。

ドルインデックス 1時間足(出所:Bloomberg)

 薄商いに突っ込んだ投機的な動きなのか、それとも構造的な問題なのか。

 肝心なのは、前回のコラムでも強調したように、米ドルの運命を左右するのは、やはり米長期金利(米10年物国債の利回り)の動向ということだ。換言すれば、「その他は二の次」という見方が、重要である。

【参考記事】

●米ドル高値トライ「三度目の正直」は失敗なのか? 米長期金利から真相を読み解く!(2017年11月17日、陳満咲杜)

 実際、米ドルのユーロ、円、英ポンドなどの主要通貨に対する値動きと、米長期金利との相関性は、1990年代以降でもっとも高い水準にある、という統計が算出されているほどだ。

 ゆえに、11月FOMC(米連邦公開市場委員会)におけるインフレ見通しの懸念、米税収改革案審議の遅れ、また、日銀早期「出口」戦略模索などの材料は、変動率は拡大させるものの、メイントレンドを決定するには至らないはずだ。米ドルの高安を決定するのはあくまで米長期金利であることを再度提言しておきたい。

■米ドル全体の反落が許容範囲であると考える2つの理由 最近の米ドル全体の強弱は、米長期金利の低下とほぼ連動しているから、今週(11月20日~)のドルインデックスの続落は「理屈どおり」だと思う。したがって、米ドルの反落自体はサプライズではなく、また、米ドル全体の反落があっても、なお許容範囲だと言える。

 許容範囲にあるという結論は、以下の2つの視点において証左されよう。

 まずは米ドル/円と米長期金利との比較だ。

米ドル/円VS米長期金利(10年物国債利回り) 週足(出所:Bloomberg)

 比較チャートが示しているように、両者は2016年7月からほぼ連動して動いてきた。目先の米ドル/円の「深押し」も、米長期金利の反落とほぼ連動しており、これからも関連性を深めていくだろうと推測される。

 もう1つは、ドルインデックスの代わりに、ユーロ/米ドルの週足チャートを確認しておきたい。なにしろ、ユーロ/米ドルはほぼドルインデックスと逆相関の関係にあるから、チャート上のポイントや示唆が逆の意味合いでほぼ同じだ。

 ユーロ/米ドルは9月高値から先々週(11月6日~)安値まで反落してきたものの、先々週(11月6日~)の陽線引けを皮切りに反騰してきた。

ユーロ/米ドル 週足(クリックで拡大)(出所:FXブロードネット)

 今週(11月20日~)も陽線引けの公算が高く、そうなれば、連続3週の上昇を果たすから、ブル(上昇)トレンドへ復帰する印象が強いのも事実である。

 換言すれば、ドルインデックスがベア(下落)トレンドへ復帰する恐れがあるから、市場関係者は米ドルのロングに躊躇している状況が示唆される。

■週足では、米ドルの上昇基調を確認できない こういったセンチメントにつながるファンダメンタルズ上の材料以外に、やはりテクニカル上のポイントによるところも大きかった。

 先々週(11月6日~)のユーロ/米ドルの安値は、GMMAの長期移動平均線グループ(ピンク)を意識しているように見え、また、2015年8月最終週の週足や2016年5月最初週の週足のローソク足が示した「上ひげ」の部分にいったん突っ込んだものの、その後反騰してきたから、元メインレジスタンスゾーンがサポートゾーンと化した、という見方につながる。

ユーロ/米ドル 週足(クリックで拡大)

(出所:FXブロードネット)

 要するに、週足ではユーロ/米ドルのベアトレンドを確認できないから、米ドル全体におけるブル基調も確認できないわけだ。

 ブル基調を確認できないなら、米ドルを「押し目買い」するのではなく、「戻り売り」の方へ回るのも「理屈に合う」判断と言える。

 さらに、ウォール街が総じて米ドルに対する弱気見通しを…
米ドル高値トライ「三度目の正直」は失敗 なのか? 米長期金利から真相を読み解く! ブログ

米ドル高値トライ「三度目の正直」は失敗 なのか? 米長期金利から真相を読み解く!

■米ドル高予想に試練! 株の反騰についていかず! 米ドル高の予想は、目先試練にさらされている。ドルインデックスは93前半の水準に逆戻り、米サイドの材料に反応しなくなってきたところも、頭の重い印象を助長してる。

ドルインデックス 日足(出所:Bloomberg)

 米下院での税制改革法案可決が伝えられ、昨日(11月16日)の米国株の反騰に日経平均も追随しているが、執筆中の現時点の米ドルは、軟調に推移している。

 米ドル/円は、日経平均の反騰についていかないばかりか、逆に反落しているから、背離する傾向すらみられる。

米ドル/円 VS 日経平均 日足(出所:Bloomberg)

 市場関係者は、上院による税制改革法案審議の難航を予想しているから、米ドルのロングを躊躇している、といった解釈が多く聞こえてくるが、株式市場のパフォーマンスは同じ理由で解釈しにくい。よって、あくまで適当な言い訳であろう。

 米ドル全体、特に米ドル/円の値動きは、米長期金利との連動性から考えるべきだと思う。

■米長期金利の上昇なしでは本格的な米ドル高になれない 米長期金利(10年物国債の利回り)は、10月末の2.477%から一時、2.304%まで下落、執筆中の現時点では2.354%の水準に留まっている。さらに、日足に照らして考えると、三尊型(※)というフォーメーションの可能性も見られ、それが指し示すとおりに動くなら、米金利は低下傾向にあると思われる。

(※編集部注:「三尊型」はチャートのパターンの1つで、天井を示す典型的な形とされている。仏像が3体並んでいるように見えるために「三尊型」と呼ばれていて、人の頭と両肩に見立てて「ヘッド&ショルダー」と呼ぶこともある)

米長期金利(10年物国債の利回り) 日足(出所:Bloomberg)

 ゆえに、日本株が11月9日(木)まで大幅上昇していた中、米ドル/円の上値が重かったことや、その後、米ドル/円が相応の下落を果たした市況は「納得」できる。

 米利上げ観測がくすぶる中、米長期金利の上昇なしでは本格的な米ドル高の構造になれず、市場関係者は総じて疑心暗鬼の心理状況であるからだ。

 この意味では、米ドル/円は一時7月高値をブレイクし、11月6日(月)にて114円台後半まで迫ったものの、その後、一転して反落、一時112円台前半まで落ちていることも「仕方がない」と思われる。

 だから、冒頭で述べたように、米株も日経平均も反騰しているが、米ドル全体や米ドル/円はついていかずにいる。場合によっては、株高に米ドルはついていけず、株安の時のみ米ドル/円がつられて下落、といった印象さえ受ける。

 換言すれば、株高が米ドル/円に連動しなかったので、これからの米ドル/円の動向も、株式市場ではなく、米長期金利の方がカギとなろう。

■米長期金利と米ドル/円の値動きを比較してみると… 米長期金利は、10月末にいったん5月、7月高値を更新したものの、その後一転して反落してきたため、高値更新自体が「フォールス」、すなわち「ダマシ」であった可能性がある。

米長期金利(10年物国債の利回り) 日足(出所:Bloomberg)

 米ドル/円で検証すると、やはりいったん5月、7月高値更新を果たしてから反落し、同じく「フォールス・ブレイクアウト」の疑いが持たれている。

米ドル円 日足(出所:Bloomberg)

 米ドル高の継続を「三度目の正直」と期待していたところ、「二度あることは三度ある」になるリスクが浮上し、9月安値を起点とした米ドル高・円安も結局115円の大台を超えられずに終わってしまうのだろうか、と多くのロング筋が自問し始めたのではないだろうか。

 米10年物国債利回りの値動きがカギとなるなら…