陳満咲杜の「マーケットをズバリ裏読み」

いよいよ運命のFOMC! 米利下げが実施されたらドル安? ドル高? ブログ

いよいよ運命のFOMC! 米利下げが実施されたらドル安? ドル高?

■相場は正常なセンチメントに戻りつつある 昨年(2018年)後半からつい最近まで、巷とウォール街(素人とプロのたとえ)の見方が妙に合致していたところがある。1つは米国株が「バブル」だから反落してくるということ、もう1つは米ドルが「割高」なので早晩売られるということだ。最近になって、この2つの見方は共に怪しくなり、相場は正常なセンチメントに戻りつつあるかと思う。

 では、正常なセンチメントとは何か。それも一言では片付けられないが、筆者の経験で言えば、おおむね以下のような結論に達するかと思う。

 まず、巷の見方はおおむねまとまっているが、ウォール街はというと、ほぼバラバラでまとまっていないケースが多い。次に、往々にして両者が相場の転換点において相反している場合が多い。最後に、いわゆる専門家の間の見方の相違が、往々にして程度の問題どころではなく、まったく対立するものが多い。

 要するに、不確実性の上に成り立つ相場のことなので、市場参加者全員の見方がバラバラで、また、どれが本音でどれが建前か、そして、ポジショントークなのかどうかもよくわからない時こそ、正常である。

 逆に全員が上か下と決め、論調や見通しが同様であれば同様であるほど正常ではない、と思ったほうが無難だ。足元は、正常な状態に戻りつつあるかとみる。

 何しろ、あれだけ「トップアウトだ」、「ブル(上昇)相場の終焉だ」と異口同声に言われた米株市場は、続伸してまた史上最高値を更新した。

NYダウ 日足(出所:Bloomberg)

 さらに、米利下げで米ドル安を確実視する風潮が主流だったような雰囲気の中、昨日(7月25日)、ユーロ/米ドルは一時、2019年年初来安値を更新し、2017年6月以来の安値を付けたから、米ドルは売られるのではなく買われつつあり、ドルインデックスも98の節目に再接近、近々2019年年初来高値を更新していく可能性を示唆しているから、異口同声でいられなくなったわけだ。

ユーロ/米ドル 日足(出所:Bloomberg)

ドルインデックス 日足(出所:Bloomberg)

 いずれにせよ、相場は正常化しつつあり、また、これからさらに方向感が出やすいタイミングに差し掛かっているとみる。

 昨日(2019年7月25日)、ECB(欧州中央銀行)は…
市場心理の割に米ドル/円は底堅い。 利下げ実行で調整下落終了の公算大 ブログ

市場心理の割に米ドル/円は底堅い。 利下げ実行で調整下落終了の公算大

■利下げが確定したら調整下落は終了する? 市場センチメントは、目先なお米利下げ観測やその下げ幅に関する憶測に支配されている。昨日(7月18日)の市況の反落も、その表れだろう。

 FRB(米連邦準備制度理事会)のクラリダ副議長やニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁はそろって、米経済を支援するため迅速に行動すべきだとの見解を示したため、米ドル全体が急速に売られ、合意なしのブレグジットが懸念される英ポンドさえ、対米ドルで切り返しを果たしたほどだ。

米ドルVS世界の通貨 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 1時間足)

 もっとも、前回のコラムでも強調していたように、市場センチメントの変化は速く、惑わされないように気をつけないと市場の本質を見誤る恐れがあるから、今回も然り。

【参考記事】

●「米利下げ後に円高が進む説」への懐疑。円高ピークを示唆する2つのフォーメーション(2019年7月12日、陳満咲杜)

 今月(7月)の利下げが確実視される以上、市場センチメントの変化がもたらした値動きの波乱があっても長く続かないかと思われる。利下げが確定したら、元の軌道に戻っていく公算が高いから、今一度ポイントを押さえておきたい。

■米ドル/円の軟調は「二番底」形成途中の可能性大 米ドル/円が昨日(7月18日)、107円台前半にトライしたのも「規則正しい」と言えるだろう。というのも、利下げ幅に関する憶測の高まりで、米長期金利(米10年物国債利回り)がまた反落してきたからだ。これまでのコラムでも述べてきたように、最近は米ドル/円の値動きと米長期金利の連動性が高く、これはむしろ当然の成り行きである。

 しかし、利下げで米ドル/円の反落があっても、6月安値を割り込むかどうかは定かではない。また、2019年年初来安値を割り込むかどうかについて、断定的な言い方は誰にもできないが、可能性としては小さいのではないかとみる。

 米長期金利の低下が、すでに歴史的な「売られすぎ」の領域に入ったことはこの前の本コラムで指摘したとおりであり、仮に50pipsの利下げがあっても、また、これから連続した利下げがあっても、その大半がすでに織り込まれているから、米長期金利の安値更新は容易ではなく、また、仮に再度安値更新があっても下値余地限定の公算が高い。

【参考記事】

●「米利下げ後に円高が進む説」への懐疑。円高ピークを示唆する2つのフォーメーション(2019年7月12日、陳満咲杜)

 ゆえに、当面は米長期金利との連動があっても米ドル/円は下値余地限定のはずであり、米国株のブル(上昇)基調から考えて、リスクオフ云々も見当違いの公算が高く、目先の米ドル/円の軟調は、下値追いより、「二番底」を形成している途中の可能性が大きい。

米ドル/円 日足(出所:Bloomberg)

 もちろん、目先のトレンドを修正するには、「きっかけ」を待たなければならないが、往々にして材料が相場の構造を後追う形で発生するケースは多いから、その「きっかけ」の想定がすぐできなくてもあまり心配しなくてよいはずだ。

■状況の割には米ドル/円は「底堅い」という印象さえある リスクオフの観測に基づく円高予測は、今に始まったものではなく、2019年年初来急落時にも盛んに聞こえてきた。

 しかし、2019年年初の段階においては、米中貿易協議については楽観的だった上、利下げ観測も浮上していなかった。だから、米ドルを押し下げる材料が噴出し、市場センチメントもかなり悪化した中で足元のレートをみれば、米ドル/円は実に「底堅い」との印象さえ得られるのではないかと思う。

 なにしろ、「理屈どおり」の値動きなら、米ドル/円はすでに104円台、さらに100円の大台にトライしてもおかしくないはずだ。

 リスクオフの円高という見通しの多くは、米国株の頭打ち、またベア(下落)トレンドへの展開を予想の根拠にしていた。しかし、米国株はブル基調を維持、また、米株三大指数がそろって高値更新と、むしろ一段と強気を増している。こういった「前提条件」の消失にもかかわらず、リスクオフの円高予想にこだわる論調には、やはり「落とし穴」ありと見るべきではないかと思う。

 FRBのハト派観測の高まりが米国株の支えとなり…
「米利下げ後に円高が進む説」への懐疑。 円高ピークを示唆する2つのフォーメーション ブログ

「米利下げ後に円高が進む説」への懐疑。 円高ピークを示唆する2つのフォーメーション

■重要なのは、市場センチメントに惑わされないこと 前回のコラムでは、米長期金利の底打ちや反騰の可能性を強調した。

【参考記事】

●米長期金利の低下はすでに限界で下値は限定的。ドル/円は「きっかけ待ち」の段階か(2019年7月5日、陳満咲杜)

 先週末(2019年7月5日)に発表された、想定より良かった米雇用統計を受け、その兆しはすでに出ており、米長期金利(米10年物国債の利回り) は一時2.14%台に乗せた。

米長期金利(米10年物国債の利回り) 日足(出所:Bloomberg)

 マーケットの心はそもそも秋の空。6月米雇用統計を受け、50bpsの利下げといった過激な予想はいったん後退したものの、一昨日(7月10日)のFRB(米連邦準備制度理事会)議長の議会証言が「ハト派」と見なされ、そのような観測がまた巻き戻された。

 いずれにせよ、マーケットのセンチメントは移り変わりやすく、材料に大きく左右されるのも常態なので、今さらサプライズ云々と言うものではなかろう。

 重要なのは、市場センチメントに惑わされず、相場の内部構造に従うことだ。米国株の史上最高値更新が続いている現状では、リスクオフ云々の言説に左右されず、冷静かつ常識的に考えれば、おのずと答えが出てくるのではないかと思う。

■リスクオフを理由に円高を主張するのは現実的でない 本コラムでも取り上げたように、米国が11年も続く景気拡大サイクルにある中で、米長期金利が2008年年末時点の水準よりも下回っていたことはやはり行きすぎであろう。

【参考記事】

●リーマンショック時より低い米長期金利は行き過ぎ! 米ドル/円の反発はこれからだ(2019年6月28日、陳満咲杜)

 こういった認識や考え方は、いわゆる常識の範囲でおのずと得られるものだから、別にエコノミスト、あるいはアナリストの解釈を聞かなくてもできるはずだ。

 そして、米株三大指数がバラバラで、そろって高値更新ができていないうちは、米株高の可能性を疑い、リスクオフの可能性を警戒するのは仕方がないが、三大指数がそろって史上最高値を更新し続ける現在、なお、リスクオフ云々で米長期金利の一段の低下、また、円高の可能性を主張するのは、やはり現実的ではないと思う。

■利下げ幅は大半織り込み済みで市場は反応せず? さらに、市場センチメントに流されないように注意しなければならない。

 今月(7月)、米利下げがあること自体には懸念がない。相場が波乱含みになりやすいのは利下げ幅に関する憶測や思惑に関してだろう。だが、重要なのはそこではないと思う。利下げ幅がどうであれ、重要なのは相場がその大半を織り込んだかどうかにあるはずだ。

 結論から申し上げると、利下げ自体はもちろん、利下げ幅の可能性に関しても相場はその大半を織り込んでいる公算が大きい。

 相場は常に将来を見据えて値段を形成していくから、あらゆる推測や思惑を織り込み、また、先駆けて反応している。実際、利下げが実施されたあとは、利下げ幅がどうであれ、相場が事後的に反応してくることはないだろう。

 ゆえに、米利下げ後、一段と円高が進むといった論調に、筆者は懐疑的だ。仮に利下げ後、一段と円高が進む市況が見られる場合、それはきっと新しい材料の浮上など別の要素で動かされたのであって、現時点の材料を改めて反映したものではないはずだ。この意味では、円高のピークはすでに過ぎた可能性が大きいかとみる。

 もちろん、今月(7月)、利下げが実施されると、次回の利下げ時期や利下げ幅に関する論議や推測がまた市場センチメントを支配し、さらに円高をもたらす可能性はある。

 しかし、よく考えてみればわかるように、そもそも市場は年内2、3回の利下げありといった思惑を織り込んだ上で今のレートを形成しているから、やはり、次回の利下げに関する思惑で大幅に円高の余地が拡大するとは限らない。

■円高ピークを示唆する2つのフォーメーション たびたび指摘してきように、米株高が「ホンモノ」で、かつ継続されているうちは、リスクオフの円高があっても上値限定なので、円高のピークがすぎたか、近づいているという可能性を無視できない。

 米ドル/円は、6月安値から波乱含みながら切り返しを継続している。足元の日足では、2つのフォーメーションの形成可能性について注意を喚起したい。

 1つは、4月高値を起点とした全下落波が「下落ウェッジ」を形成していたが、7月からその上放れを果たしていること。

 もう1つは6月25日(火)安値を「ヘッド」と見なし、6月5日(水)前後の安値や7月3日(水)安値を「ショルダー」とみる場合、「ヘッド&ショルダーズ・ボトム(※)」(三尊底)を形成しているようにみえることだ。

(※編集部注:「ヘッド&ショルダーズ・ボトム」とはチャートのパターンの1つで、大底を示す典型的な形とされている。「三尊底」とも呼ばれる。また、「三尊底」の逆で、天井を示す典型的な形が「ヘッド&ショルダーズ」(三尊型))

米ドル/円 日足(出所:FXブロードネット)

 さらに、細かく見ていくとわかるように…
米長期金利の低下はすでに限界で下値は 限定的。ドル/円は「きっかけ待ち」の段階か ブログ

米長期金利の低下はすでに限界で下値は 限定的。ドル/円は「きっかけ待ち」の段階か

■米国株は中長期的に上昇し続けるだろう 米株三大指数はそろって史上最高値を再更新した(ナスダック総合指数は終値ベース)。利下げ期待で買われたと解釈されているが、構造上の強さは6月7日(金)の本コラムにて指摘済みだった。最新の状況に照らして、もう1回確認してみよう。

【参考記事】

●FRBの「君子豹変」は一番のリスクに対する先手!ドル/円は年初来安値更新しない?(2019年6月7日、陳満咲杜)

 以前のコラムですでに述べているように、三大指数はともに「ヘッド&ショルダーズ・ボトム(※)」のフォーメーションを示している。目先の上放れもあって、それは一段と成立しやすく、また、これから上値余地を一層拡大していくのではないかと思われる。

(※編集部注:「ヘッド&ショルダーズ・ボトム」とはチャートのパターンの1つで、大底を示す典型的な形とされている。「三尊底」とも呼ばれる。また、「三尊底」の逆で、天井を示す典型的な形が「ヘッド&ショルダーズ」(三尊型))

NYダウ 週足(出所:Bloomberg)

S&P500 週足(出所:Bloomberg)

ナスダック 週足(出所:Bloomberg)

 もちろん、材料次第で反落し、高値波乱になったり、場合によっては途中でまた大きな調整があってもおかしくないが、中長期スパンにおける強気構造は不変であることを再度強調しておきたい。

 以前にも強調したように、米株三大指数の高値更新のタイミングがばらばらだったから、一時、NYダウの出遅れを根拠にして米株トップアウトを主張する論調もあったが、ロジック的には間違いであった。足元の市況は、その誤りを指摘しているようにみえる。

■日経平均は情けない。円高と消費税増税が圧迫 反面、日経平均は「情けない」。足元かろうじて200日移動平均線(200日線)を回復した程度で、2018年高値どころか、4月高値の更新さえ果たしていない。

日経平均 日足(出所:Bloomberg)

 日経平均の出遅れ自体、単純な現象ではないが、最も重要なのは、やはり円高と消費税増税による圧迫感がもたらした結果である、ということではないかと思う。

 消費税増税によるセンチメント上の圧力は無視できない。そして、そうだとしても、円高の進行がより現実的な圧力だと見られる。

 たびたび指摘してきたように、足元の円高はリスクオフの表れ云々ではなく、米長期金利の急落がもたらした現象として認識すべきで、米株の歴史的な高値更新が続いている中、リスクオフ云々と言うのはナンセンスだ。

■米長期金利の急落はクライマックスの段階とみる 実際、米中首脳会談後、米長期金利(10年国債利回り)は一段と低下してきた。米長期金利の急落は、すでに「クライマックス」の段階にあると思われるが、やはり、「事実の買戻し」を待っているようで、「事実の買戻し」なしでは本格的な底打ちのサインを形成しない可能性がある。

米長期金利(10年国債利回り) 日足(出所:Bloomberg)

 「事実の買い戻し」というと、やはり米利下げの実施を指す。米長期金利の急落が米利下げ観測を織り込もうとする結果であれば、ここまで進行している金利の下落は「噂の売り」であり、また、利下げ実施が近づくにつれ、底打ちのサインを形成していく可能性も高まるだろう。

 利下げが確実視されている以上、足元の値動きは、ほぼすべての予想を織り込んでいるから、利下げが実施される前後において「事実の買戻し」も確実視されるわけだ。

 もっとも、目先の米長期金利の急落は典型的な「オーバーシュート」の結果であり、2008年年末時より低い水準にあること自体、「行きすぎ」を示唆することは、前回のコラムで指摘したとおりだ。

【参考記事】

●リーマンショック時より低い米長期金利は行き過ぎ! 米ドル/円の反発はこれからだ(2019年6月28日、陳満咲杜)

 米利下げは2019年内1回ではなく、2、3回、また1回50pipsなど「過激」な予想まで織り込んでいるとも思われるだけに、米長期金利の低下はすでに限界に近いことを再度強調しておきたい。

 したがって、日銀政策の限界に対する焦躁感もあって…
リーマンショック時より低い米長期金利は 行き過ぎ! 米ドル/円の反発はこれからだ ブログ

リーマンショック時より低い米長期金利は 行き過ぎ! 米ドル/円の反発はこれからだ

■米中対立で暗い雰囲気だったマーケット。足元では冷静に 本稿執筆時点でG20(20カ国・地域首脳会合)は進行中。米中首脳会談の結果を待っている間、相場は一進一退を繰り返す。

世界が注目する米中首脳会談は2019年6月29日(土)11時30分から大阪市で行われる予定だ。写真は2017年11月の米中首脳会談時のもの (C)Bloomberg/Getty Images

 米中「一時休戦」と伝わるなか、「ミセス・ワタナベ」らの円売りポジションが膨らんでいると報道されているが、市場センチメントはおおむね懐疑的だと思う。

 米中対立の深刻化に鑑み、今回の首脳会談が合意なしとなる可能性をマーケットは冷静に織り込んでいるとも思われる。

 長期化、深刻化の様子を見せる米中対立は1回の首脳会談で片付けられないという考え方は正常であり、また正しい。

 半面、首脳会談さえ実施されないといった極端にネガティブな考え方の後退で、足元の相場も正常化されつつあるかと思う。

【参考記事】

●リスクオフの円高はナンセンス! 中国中央TVの映画は米中首脳会談実施のサイン!?(6月21日、陳満咲杜)

●2011年から2015年の強気相場が再び!?米ドル/円は長期で考えれば逆張りの好機!(6月14日、陳満咲杜)

 なにしろ、米中軋轢ばかりに目が向き、いかにもリーマンショックの再来のような暗い見通しが一時、市場センチメントを支配していたから、足元のほうがより現実的、より冷静な雰囲気だと感じる。

■「ミセス・ワタナベ」の逆張りはレンジ相場で成功してきた したがって、日本の個人投資家が円売りポジションを積み上げたからといって、仮に今回の米中首脳会談で合意がなかったとしても大したショックにはならず、急速な円高にもならないかとみる。

 そもそも、個人投資家の多くは米中合意に関する期待感で円売りを仕掛けたのではなく、値ごろ感による判断だと推測される。このような個人投資家の動きは、大きなレンジ相場において十分に成果を上げてきた経緯があり、これは見逃せない。

 最近の好例はやはり、今回10連休となったゴールデンウィーク前に「ミセス・ワタナベ」が取った行動であろう。

 10連休中に円が買われるという「ジンクス」が効いていたかどうかは定かではないが、日本の個人投資家の多くは円買いポジションを積み上げていた。

 10連休中は大きな値動きがなかったが、連休明け後の円高進行で「ミセス・ワタナベ」は勝利を収め、「値ごろ感」による逆張りが成功していた経緯があった。

 詰まるところ、「ミセス・ワタナベ」は逆張りが好きで、だからこそ大きなレンジ相場において成果を発揮しやすい。

 ゆえに、足元もレンジ相場であり、そのレンジの下限が近付いているなら、今回も「ミセス・ワタナベ」の判断は正しい、ということになるから、個人投資家の逆張り行動パターン自体、必ずしも失敗とは言い切れない。

■米ドル/円の107円割れが円高のクライマックスだった可能性 一方、プロたちの行動は主にCFTC(米商品先物取引委員会)による統計でうかがえるが、レバレッジ系ファンドの円のネットロングは6月18日(火)時点で8454枚に過ぎず、これから増やしていく余地が大きいと思われる。

 逆説的に言うと、あんなに暗い見通しがあふれていたにもかかわらず、いわゆるプロたちは円買いに積極的になりきれなかったのは、やはり何かほかの理由(わけ)があったに違いない。

 いずれにせよ、プロたちの行動の原因や理由は往々にして事後でないとわからない。現時点であれこれ言っても仕方がないから、相場のことは相場に聞くしかない。

 日米安保条約破棄やFRB(米連邦準備制度理事会)議長降格といったトランプ米大統領の問題発言で、米ドル/円は一時、107円の節目を割り込んだ。

 筆者が繰り返し指摘してきたように、米ドル/円の107円割れが年初の急落時と同様に「オーバーシュート」の状況をもたらしたのなら、円高の「クライマックス」もすでに過ぎた可能性がある。

【参考記事】

●2011年から2015年の強気相場が再び!? 米ドル/円は長期で考えれば逆張りの好機!(6月14日、陳満咲杜)

●トランプの対メキシコ関税ツイートで株もドル/円も下落。でも、これならかわいい方!?(5月31日、陳満咲杜)

米ドル/円 日足(出所:TradingView)

 ここからはやはり、年初来安値の更新の有無がもっともわかりやすいバロメーターになるのではないかと思う。

 もうひとつ、重要な推測は…
リスクオフの円高はナンセンス! 中国中央 TVの映画は米中首脳会談実施のサイン!? ブログ

リスクオフの円高はナンセンス! 中国中央 TVの映画は米中首脳会談実施のサイン!?

■米株高と円高、どちらが「ホンモノ」? FOMC後、米ドル/円は大幅下落、目先、107円台前半にトライしている。一方、米国株は強気トレンドを維持、S&P500は史上最高値を更新した。株と為替市場のパフォーマンスは、「ダイバージェンス」しているようにみえる。

米ドル/円 4時間足(出所:Bloomberg)

S&P500 4時間足(出所:Bloomberg)

 もっとも、米国株と米ドル/円の相関性をもって「ダイバージェンス」を言うつもりはない。米ドル/円の下落は、7月FOMCでの米利下げや、米国の対イラン軍事行動の可能性を織り込む値動きとされるが、基本は米長期金利の急落につられた側面が大きいだろう。

 米長期金利(米10年物国債の利回り)が2%近辺まで下げているから、日米金利差の縮小に反応し、米ドル/円の下値打診も当然視されるかと思われる。

米長期金利(米10年物国債の利回り) 日足(出所:Bloomberg)

 しかし、利下げ観測の高まりで米国株の高値更新が確認されているなら、少なくとも「リスクオフの円高」云々はナンセンスであろう。本来、米株高はリスク選好の結果と解釈されがちなので、リスクオンなら米ドル/円も下値打診し続けるような状況ではなかろう。

 要するに、米株高か、それとも円高か、どちらが「ホンモノ」であるかという問題だ。「ダイバージェンス」という言葉の意味はそこにある。

 つまるところ、日米金利差の縮小に反応する米ドル/円の下値打診自体は、理屈上理解できるが、米株高が「ホンモノ」なら、このような「ダイバージェンス」はあっても長くは続かない。

 米株高自体が「ニセモノ」なら、米ドル/円の下値トライが「正当化」され、これから米国株の下落とともにさらなる安値を更新していくと推測される。

■ナスダックやNYダウもこれから高値更新していく公算大 本コラムで繰り返し指摘してきたように、米国株の強気構造が周期の長いブル(上昇)トレンドを支え、今なおその途上である。だから、S&P500に追随し、ナスダックやNYダウもこれから高値更新していくと思う。

【参考記事】

●FRBの「君子豹変」は一番のリスクに対する先手! ドル/円は年初来安値更新しない?(2019年6月7日、陳満咲杜)

ナスダック 日足(出所:Bloomberg)

NYダウ 日足(出所:Bloomberg)

 米三大指数のうち、S&P500やナスダックは2019年4月末において、いったん史上最高値を更新し、NYダウのみ更新に至らなかったから、それをもって米国株「トップアウト」の兆しだとする向きもあったが、結果的にそれは間違いだったのではないかとみる。

 なぜなら、昨日(6月20日)のS&P500の高値再更新自体が、米国株の強気構造を再度証明し、これから、NYダウ、ナスダックの順番で高値再更新の可能性が高まりつつあるからだ。

 ちなみに、現在のNYダウはすでに4月高値を更新しており、前回(4月末)はそれ以前の高値を更新するに至らなかった分、今回はナスダックより先に高値更新を果たせるかと思われる。構造上、4月高値更新を果たしたNYダウの史上最高値再更新は必至で、ここから高値更新しないで失速する局面は考えにくい。

 いずれにせよ、利下げによる株高効果があっても…
2011年から2015年の強気相場が再び!? 米ドル/円は長期で考えれば逆張りの好機! ブログ

2011年から2015年の強気相場が再び!? 米ドル/円は長期で考えれば逆張りの好機!

■香港や中東で不安の気配も、米ドル円は108円割り込まず 香港での大規模デモに続き、昨日(6月14日)はホルムズ海峡で日本などのタンカーが攻撃され、中東も不安の気配を漂わせている。

【参考記事】

●香港のデモ拡大が新たな不安要素に! 米ドル/円は104円台に向けての下落過程(6月13日、西原宏一)

 しかし、円のパフォーマンスは限定的だった。

 主要クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)のうち、安値を更新したのは豪ドル/円だったが、豪ドル/米ドルの下落につれた側面が大きかったと言える。

 なにより、米ドル/円は昨日(6月14日)、小動きに留まり、また108円の関門を割り込んでいなかった。

豪ドル/円 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:豪ドル/円 1時間足)

米ドル/円 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 1時間足)

■トランプ氏の「脅し」が習近平氏には逆効果に!? 大阪で開催される予定のG20(20か国・地域首脳会合)に習近平中国国家主席が参加するかどうかさえわからず、トランプ米大統領との会談も今のところ見送りとされる公算が大きい。

 習近平氏のG20参加または会談がなければ、3000億ドル分の追加関税引き上げを直ちに実施するという、トランプ氏の「脅し」が逆効果をもたらしたようだ。

大阪で開催予定のG20に習近平中国国家主席が参加するかどうかはわからない状況。習近平氏のG20参加または会談がなければ、3000億ドル分の追加関税引き上げを直ちに実施するという、トランプ米大統領の「脅し」が逆効果をもたらしたようだ。写真は2017年11月の米中首脳会談時のもの (C)Bloomberg/Getty Images

 以前のコラムでも指摘したように、習近平氏は大国のリーダーというイメージ演出に腐心してきた。

【参考記事】

●米中協議は何らかの形で合意する公算大!? 米ドル/円はすでに底打ちした可能性も(5月17日、陳満咲杜)

 このまま来日すれば、対米妥協、またトランプ氏の「脅し」が効いた結果と見られ、明らかに「メンツ」をつぶされることになるから、トランプ氏の言動で米中対立の深刻さが一段と増したに違いない。

 その上、中露同盟の可能性、香港の司法独立問題、また、台湾問題への影響など目先の材料が噴出。米中対立関係は、まさに危機一髪の状態にあるのも明白である。

■本格的なリスクオフでないなら、ベア相場からブル相場へ? 言いたいことは、明白だ。

 米中対立自体は、もはや従来の貿易戦争の枠組みから、はみ出しており、米中貿易摩擦が本格化した昨年(2018年)3月末より、はるかに深刻である。

【参考記事】

●中国の自業自得で米中全面対決の冷戦へ! リスクオフムードはクロス円で顕著(2018年3月23日、陳満咲杜)

 しかし、それでも米ドル/円は目先108円台をキープしている。果たして「リスクオフの円高」と呼んでいいのだろうか。さらに、本格的なリスクオフになっているかどうかには疑問符が付く。

 なにしろ、昨年(2018年)3月末の米ドル/円の安値は104.64円だった。また、2019年年初の急落では一時104.80円前後(※)の下値を記録していた。

(※編集部注:フラッシュクラッシュが発生した2019年1月3日(木)の米ドル/円の安値は出所により大きく異なる)

 ちなみに、2019年年初の時点では米中貿易協議がうまくいくだろうという楽観的な観測が主流だったので、目先、深刻な状況にある米中関係に鑑みると、米ドル/円のレートは本来105円割れ、いや、100円の心理的大台へのトライがあってもおかしくないだろう。

米ドル/円 週足(出所:TradingView)

 では、マーケットが間違ったのだろうか。それとも、マーケットは後になって目先の状況を織り込んでくるのだろうか。

 もちろん、答えはノーである。

 マーケットは、「買われ過ぎ」や「売られ過ぎ」といった材料に「過激」に反応するケースが多いが、材料の深刻さに気付かず、後になって反応してくる前例は寡聞にして聞いたことはない。

 だからこそ、目先の米ドル/円のレートや値幅が限定されていること自体が、ひとつ大きなサインと見なせるはずだ。

 マーケットの内部構造は、あらゆる材料を織り込んでいることにほかならず、本格的なリスクオフの傾向を示していないなら、ベア相場は続かず、これからブル相場へ復帰する公算が大きいと推測される。

 ブル構造の根本は、2011年安値75.55円を起点とした…
FRBの「君子豹変」は一番のリスクに対する 先手!ドル/円は年初来安値更新しない? ブログ

FRBの「君子豹変」は一番のリスクに対する 先手!ドル/円は年初来安値更新しない?

■市場の焦点は米利下げで、暗い見通しが多い マーケットの焦点は米利下げの可能性やその回数にあるだろう。利下げは景気後退を暗示し、米国株も先駆けて下落してくるのではないかと、巷では暗い見通しが多いようだ。

NYダウ 日足(出所:Bloomberg)

 当然のように、米ドル安の見通しも多くなり、米ドルの頭打ちを景気後退のサインとして解釈する論調まで聞こえる。

 しかし、FRB(米連邦準備制度理事会)議長が利下げの可能性を示唆する前に、米ドル高一服の兆しがすでに出ていたから、米利下げ見通しの高まりで米ドルが反落してきた、といった見方は、間違いとは言い切れないものの、少なくとも「後解釈」の疑いがある。

 実際、5月24日(金)の本コラムの最後でも指摘したように、そもそも米ドルの対極となるユーロは、いったん底打ちのサインを点灯していたから、米ドル全体の上昇一服も当然の成り行きと見なされ、米利下げ観測の高まりは、その「後付け」の材料として効いてきた、という見方もできる。

【参考記事】

●なぜ、2008年安値を境に米ドル安の時代は終わったのか? リーマンショックの再来は?(2019年5月24日、陳満咲杜)

ユーロ/米ドル 日足(出所:Bloomberg)

 より重要なのは、利下げの可能性やその回数に関する予想は、目先の米長期金利に織り込まれたはずなので、利下げがあるから米長期金利が下げ続けるとは限らないということだ。

 また、利下げがあるから、米国株はベア(下落)トレンドへ転換するだろう、あるいは米景気が後退するだろうといった発想も怪しい。

 実際、FRB議長の示唆以降、米国株はむしろ連続して反騰してきたから、利下げが株式市場を支える側面を無視できない。

NYダウ 日足(出所:Bloomberg)

■FRBの「君子豹変」は米中対立長期化対策 米国の景気拡大期が間もなく10年となり、間違いなく史上最長を記録する。そのうち、FRBが利下げを敢行すれば、世界でもっとも柔軟性をもって景気対策を行う中銀となり、景気を支えていく可能性は大きいだろう。マーケットはすでにFRBの姿勢を評価しており、米株高を通じて景気拡大期がさらに拡張される可能性も、無視できないだろう。

 というのは、たった半年で、従来の利上げのスタンスから一転して利下げを暗示というFRBの「君子豹変」は、ほかでもない、一番のリスク要素とみられる米中貿易戦争や米中対立の長期化に先手を打った判断だと思われる。

 マーケットはその姿勢を評価し、また安心感を覚えるから、まず米国株のブルトレンド継続をもってセンチメントの改善をはかり、その後、景気拡張につながるだろうとも推測される。

 本コラムで何回も指摘したように、米国株はブル(上昇)構造を…
トランプの対メキシコ関税ツイートで株も ドル/円も下落。でも、これならかわいい方!? ブログ

トランプの対メキシコ関税ツイートで株も ドル/円も下落。でも、これならかわいい方!?

■米中対立激化の中、新たな火種は対メキシコ! 米中対立は激化し、解決の糸口も見つけられていないように見える中、トランプ米大統領は新たな火種をバラ撒いてきた。今度は対メキシコだ。2019年6月10日(月)から、メキシコからの輸入品に5%の関税をかけ、また、「不法移民の流入が止まるまで」それを継続的に上げていくと、トランプ氏は東京時間今朝(5月31日)未明にツイートした。

On June 10th, the United States will impose a 5% Tariff on all goods coming into our Country from Mexico, until such time as illegal migrants coming through Mexico, and into our Country, STOP. The Tariff will gradually increase until the Illegal Immigration problem is remedied,..

— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) 2019年5月30日 米株式市場取引終了(30日)後の時間帯だったが、このツイートは先物市場やその後オープンした東京市場にインパクトを与え、メキシコペソには2%超の下落をもたらした。当然のように、いわゆる「リスクオフの円高」傾向も見られた。

米ドル/メキシコペソ 1時間足 

 (出所:Bloomberg)

世界の通貨VS円 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 1時間足)

 ところが、少なくとも執筆中の現時点までにおいては、その度合いは驚くほど限定的である。なにしろ、米ドル/円は109円の節目割れはあったものの、目先なお108円台後半に留まっているからだ。

米ドル/円 日足(出所:Bloomberg)

 次に何を言い出すかまったく予測できないトランプ氏の言動は、本来、市場最大の不確実性となり、マーケットは大きく波乱になってもおかしくないところだが、日経平均を含め、下落はしても昨年(2019年)年末までの急落とは比べものにならない程度に留まっている。

■米ドル/円の下値は極めて限定的だった もっとも、本日(5月31日)のメキシコの件より、米中対立の激化がより大きなテーマであった。来日中のトランプ氏が示唆したように、当面、中国と和解する余地がなさそうで(中国が折れてくれる期待が薄い)、米中対立の長期化も避けられない情勢だ。

 日米株の反落は、そのリスクを織りこんだ結果と見なされ、本来、さらに大きな下落につながっていてもおかしくなかった。明日から6月なので、米国の対中関税引き上げが正式に実施される。中国側も関税引き上げやレアアース禁輸などの措置が想定されるなか、リスクオフの流れがより鮮明になっているはずだ。

 というのは、少なくとも今朝、トランプ氏による対メキシコ政策のツイートがされるまで、米ドル/円は109円の節目をキープしていた。新世紀の冷戦だとか、文明の対決とまで言われている米中対立の深刻さは決して無視できるものではないにもかかわらず、米ドル/円の下値は極めて限定的だったとみる。

米ドル/円 日足(出所:Bloomberg)

 米ドル/円の軟調は、多くの不透明要因や不安定要素を織り込んでいるとはいえ、従来の「リスクオフ」の視点ではやはり説明しきれない側面が大きいと思う。

 さらに、今朝のトランプ氏のツイートでわかるように、トランプ氏は中国のみならず、「米国益を損なう」あらゆる国に同時にケンカを売る意向を示している。

 ツイートでの政策発表自体は今さら驚かないものの、米中対立さえ油断できない情勢のなか、トランプ氏は「勝手」に新たな軋轢を起こしているから、従来の視点ではむしろ米ドル/円の「底割れ」がない方がおかしいだろう。が、少なくとも本コラムを書き始めた時点では、米ドル/円は109円の節目を割り込んでいなかった。

 109円の節目自体が大きなポイントを示すかどうかは別にして、4月高値の112.41円から5月13日(月)安値の109.02円まで、最大339pipsの下落幅しか作れず、意外に小さかったというか、米ドル/円は驚くほど底堅かったと言える。

米ドル/円 日足(出所:Bloomberg)

 もちろん、執筆中の現時点で、米ドル/円はすでに…
なぜ、2008年安値を境に米ドル安の時代は 終わったのか? リーマンショックの再来は? ブログ

なぜ、2008年安値を境に米ドル安の時代は 終わったのか? リーマンショックの再来は?

■ドルインデックスは早ければ夏場にでも100打診か 筆者はかねてより、米ドル全面高の構造を指摘してきた。昨日(5月24日)のドルインデックスの高値更新は、その一環と見なされる。そして、さらなる上昇余地が生まれ、早ければ夏場にでも、心理的大台である100の打診を覚悟すべきであろう。

ドルインデックス 日足(出所:Bloomberg)

 米ドル高に懐疑的な論調も多いが、主に米利上げサイクルの終焉やトランプ政権の米ドル高牽制といったロジックに基づいている模様だ。

 しかし、歴史に照らして考えると、米利上げサイクルが終了した後でも米ドル高が続き、また、米政府の意向と関係なく、為替市場のトレンドは形成されてきたから、こういったロジックに大した裏付けはないと思う。

■一口に「16年サイクル」と言っても、数え方で変わってしまう さらに、米ドル高に否定的な見方の多くは、テクニカル的な根拠としてサイクル論を持ち出すケースが多い。一番影響力のある仮説はいわゆる為替市場における16年サイクルの存在だ。

 もっとも、筆者自身も16年サイクルを重視し、また、サイクル自体をまったく否定しないが、戦後一貫して継続されてきた米ドル安のトレンドは2008年の最安値を境にすでに転換された公算が大きい。

ドルインデックス 月足(出所:Bloomberg)

 したがって、サイクル自体が16年の周期をもって繰り返されても、サイクルの位相が違ってくる可能性も大きいから、従来の「米ドル安の期間や値幅は、米ドル高の期間や値幅に比べ長く、また大きい」という特徴も「米ドル高の期間や値幅は、米ドル安の期間や値幅に比べ長く、また大きい」にチェンジされたはずだとみる。

 その上、サイクルの数え方も単純ではない。実際のところ、今回の16年サイクルは、ドルインデックスが付けた2008年の「史上最安値」ではなく、2011年安値から数えなければならない。

 その理屈や前述のサイクルの位相などに関する説明は、かなり文字数が必要なのでここではいったん省略するが(本コラムにて今度詳説する予定)、結論から申し上げると、2011年安値を起点とした米ドルの上昇波は、もしかしたら10年も続くかもしれないから、2020年や2021年まで基本的に米ドル高のトレンドが続くとみるべきだ。

 要するに、米ドル高の可能性自体も市場構造に基づいているから、ファンダメンタルズに関する安易な解釈で見誤るべきではない。

■なぜ、2008年安値を境に米ドル安の時代が終わったのか? 筆者の考え方は、多くの反論や批判を招く可能性が大きいことを承知しているが、根幹的な部分についてまず説明しておきたい。重要なのは、「なぜ、2008年安値を境に米ドル安の時代が終わったのか」ということであり、ここにすべてが集約されると思う。

 周知のとおり、2008年はリーマンショックが発生し、世界景気を大きく後退させ、また、経済環境を大きく攪乱した。

 米国発の危機はあっという間に世界的に広がり、米ドル安が最初進行したものの、直ぐ底打ちを果たし、その後、リバウンドしてきた。ここが重要なポイントであることをまず覚えておいていただきたい。

ドルインデックス 月足(出所:Bloomberg)

 危機に対応すべく、FRB(米連邦準備制度理事会)は前例のない大規模QE、すなわち金融緩和を3回も実施してきた。

 統計はいろいろあるが、一般的にはその期間は2008年11月~2014年10月までとされ、QE1は1兆7250億ドル、QE2は6000億ドル、また、QE3も約6000億ドルだった。足した総額は天文学的桁数となり、もちろん、米建国史上最大の「お金のバラマキ」だった。

 実際には、金融緩和自体がそのままお金の印刷ではないが、一般庶民の感覚では、お金を印刷してばらまくということとして理解されやすく、またその理解自体も大した間違いではない。

 ここがまた重要なところだが、米史上前例のない大規模な米ドルバラマキがあっても、米ドルの価格は上下変動したものの、結局、2008年安値を割らなかった。

ドルインデックス 月足(出所:Bloomberg)

 ドルインデックスは2008年3月にて安値を付けており、それは米QE実施前だった。3回の大規模QEの実施があっても、その安値を更新しなかったこと自体、歴史的な安値が形成されたことを証明したわけだ。

 ゆえに、その後、ドルインデックスは大きく反騰、2017年年初にて、いったん高値を付けたわけだが、あくまで途中の高値と見なされ、16年サイクルにおけるトップではなかった可能性は大きい。

ドルインデックス 月足(出所:Bloomberg)

 なにしろ、天文学的な桁数のお金をばらまいても米ドルは底割れしなかったのだから、2008年安値が歴史的な底として認識されるべきだ。

 「リーマンショックの再来」は、2008年以降、盛んに指摘されてきたが、まったくハズレであった。仮に再来があったとして、また、米QEがあったとしても、2008年~2014年のような大規模なQEを実施できるかどうかは、かなり疑問だ。

 そもそも米国経済は極めて柔軟性を持ち、また過去の過ちを学習し、同じ轍を踏まない完全性が備わっているから、リーマンショックのような危機の安易な再来もないだろう。

 いずれにせよ、強調したいのは…