西原宏一の「ヘッジファンドの思惑」

日銀は長期金利上昇を条件つきで容認! 米ドル/円の下値余地は徐々に拡大へ… ブログ

日銀は長期金利上昇を条件つきで容認! 米ドル/円の下値余地は徐々に拡大へ…

■4.8%ではなかったが、4.1%と米GDPは上々の結果に みなさん、こんにちは。

 7月後半の相場はまず、トランプ大統領が「(米国が)Best financial numbers on the Planet」(地球上で一番の財務指標である)とコメントしたことが話題に。

 FOX Business(米FOXニュース)によれば、トランプ大統領は周辺に、「GDP成長率が4.8%に達する」との見通しを示したと報じられていたため、7月27日(金)発表予定の米GDPとの関連がウワサされていました。

 トランプ大統領がGDPの数字にこだわるのは、前米大統領のオバマ氏が残した数字が影響しています。

 1969年からの歴代米大統領は、GDPで年率3.00%超えを達成しています。しかし、残念ながらオバマ氏は、GDPの年率3.00%超えを達成できませんでした。

(出所:Bloombergのデータを基にザイFX!編集部が作成)

 オバマ氏を意識してか、トランプ大統領は公約の1つとして、GDPの年率3.00%達成を挙げています。

 そして、7月27日(金)に発表された、2018年第2四半期速報値のGDPは、4.8%こそ達成できませんでしたが、年率換算で前期比4.1%増加と上々の数字が報道されました。

(出所:Bloombergのデータを基にザイFX!編集部が作成)

 これを踏まえて重要なのは、米中間選挙前に発表予定の第3四半期のGDPの数字。

 仮にこの数字が好調であれば、トランプ政権はGDPで年率3.00%超えを達成する可能性が高まり、中間選挙に向け、トランプ大統領率いる共和党政権に弾みがつきます。

 GDPの大幅改善は、米ドルの底固め要因となります。

■注目された日銀会合の結果はどうだった? 7月31日(火)、日銀金融政策決定会合が終了しました。

 今回の会合は、下記のような事前報道があったことで、日銀の決定に対して大きな注目が集まっていました。

日銀が金融緩和の持続性向上策を議論へ、長期金利目標の柔軟化など=関係筋

出所:ロイター

 関係筋と記載されているので、日銀のリークであると推測されたためです。

 その結果ですが、まず、以下のとおり、金融政策を微修正しました。

(1)長期金利を柔軟化(±0.1%→±0.2%)

(2)マイナス金利の適用範囲を縮小(約10兆円→約5兆円)

(3)ETF購入でTOPIX連動型を増加

 ここまではマーケットの予測どおりで、前述の記事が日銀のリークだということがわかります。

 大きな変更ではありませんが、日銀は長期金利の一定幅の上昇を容認したということであるため、円高要因です。

 ただ、日銀はもう1つ、サプライズを要因していました。

 それは、フォーワード・ガイダンスを導入したこと。

 具体的には、「2019年10月に予定されている消費税引き上げの影響による不確実性を踏まえ、当分の間極めて低い長期金利の水準を維持」するとのこと。

 結果としては、「長期に渡って低金利は続きますよ」と言っているわけです。

 今回の日銀の発表は巧妙で…
日銀会合で緩和政策の修正はあるのか? 米ドル/円の上値は113~115円で限定的に ブログ

日銀会合で緩和政策の修正はあるのか? 米ドル/円の上値は113~115円で限定的に

■トランプ大統領が米ドル高牽制、FRBの利上げに不満も… みなさん、こんにちは。

 トランプ米大統領の保護主義や関税引き上げが米ドル高を誘引し、4月以降、総じて米ドルがじり高に推移していましたが、日本時間7月20日(金)未明、その米ドル高をトランプ大統領自身が否定。

トランプ大統領 ”中国とEUは為替操作” ツイッターで批判

トランプ米大統領は20日のツイッターへの投稿で、通貨と金利を不当に低い水準に操作してきたと中国、欧州連合(EU)を批判。

アメリカのトランプ大統領は、「中国やEU=ヨーロッパ連合などは為替を操作してきた」と批判したうえで、関税の引き上げに加えて、ドル高への対応を検討する構えを示しました。

トランプ大統領は20日、ツイッターに「中国やEUなどは為替を操作し、金利を低くしている」と投稿して、中国やEUを批判したうえで、ドル高が進んでアメリカの輸出が不利になっていると強い不満を示しました。

さらに「アメリカは違法な為替操作やひどい貿易によって失われたものを取り戻すことが許されるべきだ」と続けて投稿し、貿易赤字の削減に向けて、関税の引き上げに加え、ドル高への対応を検討する構えを示しました。

また、「今、利上げをするとわれわれがしてきたすべてのことが損なわれる」とも投稿し、利上げを続けるアメリカの中央銀行、FRB=連邦準備制度理事会を引き続きけん制しました。

出所:NHK Web

 この報道の中でも触れられていますが、トランプ大統領がFRB(米連邦準備制度理事会)による利上げなどに不満を示したことも、米ドル反落の要因に上げられています。

 ただ、FRBは中央銀行として、あくまでも独立性を保っていますので、トランプ大統領がFRBに、利上げに関して不満を述べたとしても、パウエル議長の判断になんら影響はなく、それが米ドル反落の要因にはなっていないと想定しています。

 そのため、対ユーロや対豪ドルなどでは、米ドルは依然底堅い動き。

ユーロ/米ドル 日足(出所:Bloomberg)

豪ドル/米ドル 日足(出所:Bloomberg)

 ただ、米ドル/円は、まったく違う動きで、一時113円台まで反発していましたが、急反落しています。

米ドル/円 4時間足(出所:Bloomberg)

■日銀の緩和政策修正期待で米ドル/円は反落 トランプ大統領による米ドル高牽制コメントを受けても、米ドルは対円以外では、依然として底堅く推移していたため、対円でも米ドルが底堅いという見方も多数あります。

 ただ、7月20日(金)のトランプ大統領のコメント(=112.50円レベル)がきっかけで、多くの参加者は、米ドル/円のロングを早々にあきらめ、クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)のショートに戻したことが、良い判断であったことが、その日のうちに判明します。

 それは、ある報道をきっかけに米ドル/円が急反落し、時間をかけてブレイクした111円台ミドルをあっさり割り込む急落を見せたためです。

 その報道とは、日銀が緩和修正へ動く可能性があるというものでした。

 「FX&コモディティ(商品) 今週の作戦会議」などでも、何度かご紹介させていただいていますが、多くのヘッジファンドにとって、中央銀行トレードは最重要トレードとなります。

【参考記事】

●ヘッジファンドの狙いは「日銀トレード」!? ドル/円は戻り売り継続で107円台前半へ…(1月29日、西原宏一&大橋ひろこ)

 なぜなら、明確なトレンドが発生し、収益を上げやすい相場が訪れるからです。

 例を挙げると、FRBやECB(欧州中央銀行)が量的緩和を行っている期間は、それに合わせて、当該通貨である米ドルやユーロが大きく値を崩します。

 日本でも、黒田バズーカと言われる日銀の量的・質的金融緩和により、大幅な円安を引き起こしたのは、記憶に新しいところ。

 その後、FRBやECBがテーパリング(※)に向かうと、その当該通貨は、逆に大きく値を上げます。昨年(2017年)のユーロ/米ドルの反発が、その例となります。

(※編集部注:「テーパリング」とは、量的緩和政策により、進められてきた資産買い取りを徐々に減少し、最終的に購入額をゼロにしていこうとすること)

 そして、主要中央銀行で緩和修正に入っていないのは…
トランプ大統領の通商政策はドル高要因? ドル/円は111.50円メドに押し目買い継続! ブログ

トランプ大統領の通商政策はドル高要因? ドル/円は111.50円メドに押し目買い継続!

■米ドル/円が上昇した理由を再確認 みなさん、こんにちは。

 先週(7月9日~)、3年来のレジスタンス(111.50円)を超えた米ドル/円ですが、一時113円台まで到達しました。

米ドル/円 週足(出所:Bloomberg)

 米ドル/円上昇の要因については、今週公開した「FX&コモディティ(商品) 今週の作戦会議」でもご紹介しましたが、今回は、新しい材料も入れながら改めて見ていきたいと思います。

【参考記事】

●ドル/円は3年来のレジスタンスに週足雲も突破! 円売り材料多く、押し目買いで臨む(7月16日、西原宏一&大橋ひろこ)

■日本企業による巨額M&Aマネーが流入 まず、米ドル/円上昇の要因として、日本企業による巨額なM&Aがあります。

 ロイターの報道によれば、今年(2018年)上期の日本企業による海外企業のM&Aは過去最大となる13兆円と、東日本大震災後の日銀介入に匹敵する規模に。

 アイルランドの製薬大手買収に約7兆円を投じた武田薬品の影響が大きいのですが、それを除いても無視できない金額です。

【参考記事】

●武田薬品の英シャイアー7兆円大型買収の行方に注目! 巨額の英ポンド買いの噂も?(4月26日、西原宏一)

■米ドル/円はアジア通貨のプロキシーに 次に、米ドル/円がアジア通貨のプロキシー(代替)になっていることが挙げられます。

 米中貿易摩擦の拡大により、このところ中国人民元の下落が鮮明です。

米ドル/中国人民元 日足(出所:Bloomberg)

 つい2カ月前までは貿易摩擦の拡大はリスクオフを誘引し、円高要因とされました。

 それが現在はゲームチェンジャーとなっており、中国人民元の下落は米ドル/円の上昇要因となっている模様。

 つまり、中国人民元下落のプロキシー(代替)として、米ドル/円が使われているという展開です。

米ドル/円 日足(出所:Bloomberg)

 リーマンショック前までの相場では、たとえばブラジルレアルが急落すると、ブラジルレアルは流動性が薄いため、多くのマーケット参加者は、ブラジルレアルのカバーに苦戦しました。

 そこで、同じ資源国通貨である豪ドルをショートにしてヘッジをするといった手法をとっていたのです。

 それが現時点では、中国人民元の急落に対して、同じアジア通貨で流動性の高い円でヘッジするという手法が取られているとの指摘があります。

 さらに、111.50円を超えたことにより、米ドル/円の多くの…
米ドル/円は円高圧力跳ね返し112円台! 重要レジスタンス突破で流れ変わるか? ブログ

米ドル/円は円高圧力跳ね返し112円台! 重要レジスタンス突破で流れ変わるか?

■米ドル/円は112円台回復で流れが変わるか? みなさん、こんにちは。

 現在、マーケットを取り巻く環境は、リスクオフ要因に事欠きません。

 米中貿易戦争がエスカレートしていること、新興国から資金流出していること、イタリアを筆頭に欧州の政治が混沌としていることなど……。

 そのため、日本株もじり安の傾向にあり、日経平均は、今年(2018年)1月に到達した2万4000円台が、かなり遠くなってきました。

日経平均 日足(出所:Bloomberg)

 マーケットは、前回のコラムでご紹介させていいただいた「ローリング・ベア」相場が継続。

【参考記事】

●今はローリング・ベア相場。追加関税発動後に出尽くしでリスクオンを期待しすぎてはダメ(7月5日、西原宏一)

 ただ、7月11日(水)の欧米市場では、これまでにない動きが出て、マーケットの流れが変わるかどうかに注目が集まっています。

 それは、米ドル/円が112円台に到達したこと。

米ドル/円 日足(出所:Bloomberg)

 7月11日(水)の東京市場では、「米国が9月にも2,000億ドルの相当の中国製品に10%の関税をかける」との報道で、日経平均が2万2000円を割り込む展開でした。

 しかし、このステージでの米ドル/円は、日本株の下落に追随せず、下げ止まり。

 欧米市場に入ると株の下落にも関わらず、米ドル/円は反発を強め、2015年6月高値(125.68円)からのレジスタンスラインが位置する重要な節目、111.50円を上抜けると、上昇が加速。

米ドル/円 週足(出所:Bloomberg)

 7月12日(木)の東京市場での米ドル/円は、一時112.38円まで急騰しています。

米ドル/円 30分足(出所:Bloomberg)

■米ドル/円上昇の背景にあったものとは? この米ドル/円上昇は、武田薬品&シャイアーを筆頭にした旺盛な対外投資という報道がきっかけに。

【参考記事】

●武田薬品の英シャイアー7兆円大型買収の行方に注目! 巨額の英ポンド買いの噂も?(4月26日、西原宏一)

<上期の「買収玉」、総額は震災後の為替介入に匹敵>


トムソン・ロイターの集計によると、今上期の日本企業による海外企業の合併・買収(M&A)は合計13兆0079億円。これまで最大だった16年下期の8兆4701億円を大きく上回り、遡及(そきゅう)可能な80年以降で最大を記録した。政府・日銀が震災後の11年下期、断続的に実施した為替介入13兆6045億円に匹敵する規模だ。

出所:ロイター

 この海外企業の合併・買収(M&A)の13兆円という金額が、すべて円投されるわけではありませんが、東日本大震災後の2011年下期、断続的に実施された為替介入13兆6045億円に匹敵する規模だという事実は、サプライズ。

 この報道が欧州市場で流れたことをきっかけに、米ドル/円の重要なレジスタンスは決壊したことになります。

米ドル/円 週足(再掲載)(出所:Bloomberg)

 このシンプルなレジスタンスを超えたことにより、マーケットには米ドル/円でブリッシュな参加者が増えてきていますが、この流れが、一時的なものなのか継続するものなのかは、日足ではなく、今週(7月9日~)末のNY市場のクローズを確認したいところ。

米ドル/円 週足(出所:Bloomberg)

 そして、米ドル/円が続伸するためには…
今はローリング・ベア相場。追加関税発動後 に出尽くしでリスクオンを期待しすぎてはダメ ブログ

今はローリング・ベア相場。追加関税発動後 に出尽くしでリスクオンを期待しすぎてはダメ

■7月6日の米中追加関税の行方に注目 みなさん、こんにちは。

 今週(7月2日~)の注目は、なんといっても7月6日(金)の米中追加関税の行方。

【参考記事】

●難民問題のドタバタでユーロは乱高下! 対中関税第一弾発動で為替はどう動く?(7月2日、西原宏一&大橋ひろこ)

 米国は中国に対して総額500億ドル規模の輸入関税を課すと発表していて、もし発動されれば、即座に中国も同規模の報復関税を発動すると表明していました。

 以下の表は、その第1弾となる、明日(7月6日)追加関税が発動される予定の対象品目と金額です。

 米国は818品目の中国製品に対して25%の追加関税を発動する予定ですが、それに合わせて、中国も米国から輸入する農産物など545品目に対して、同じく25%の関税を適用する方針です。

 この数字に関しては、米中両国ともGDPを大きく低下させる規模ではないと指摘するエコノミストが少なくありません。

 ただ、中国側のスタンスは明確。

中国が脅しや脅迫に屈することはないだろう=商務省

中国が貿易戦争で最初に発砲することは決してないだろう

中国は米国が関税を課せば反撃せざるを得ない=商務省

出所:Bloomberg

 つまり、中国が自分から仕掛けることはありませんが、米国が輸入関税をかければ、ほぼ間違いなく中国は報復関税を課すということになります。

 そうなれば、また米国は動くことになり、呼応して中国も動くという報復合戦になる可能性が高まっているため、これまでに発表されている以上の負荷がグローバルの株にかかることになります。

■追加関税発動後に出尽くしで株は上がるのか? 本稿執筆時点(7月5日)は、米中追加関税発動前夜。

 この時点になっても、なんら事態の進展が見られないということで、明日(7月6日)に米中の輸入関税が発動される可能性が高まっています。

 結果、株にとって負荷が高まっています。

 マザーズ指数は、1000ポイントを割り込む急落。

マザーズ指数 日足(出所:Bloomberg)

 日経平均は、現時点(7月5日14時現在)で前日比210円安の2万1500円レベルで軟調に推移しています。

日経平均 日足(出所:Bloomberg)

 前回のコラムでご紹介させていただいた上海総合指数は、今週(7月2日~)も続落しており、節目の3000ポイントがかなり遠くなり、2750ポイント近辺で推移。

【参考記事】

●2018年前半の為替相場を振り返ろう! 「ローリング・ベア」で弱気相場が継続する?(6月28日、西原宏一)

上海総合指数 日足(出所:Bloomberg)

 7月6日(金)に、仮に米中両国が追加関税を発動したとすれば、その後、来週(7月9日~)は株のリバウンドを期待する向きもあります。バイ・ザ・ファクトの可能性があるというわけです。

 しかし、今回の追加関税発動で貿易問題がなにも好転するわけでもなく、報復合戦になる可能性のほうが高いため、株のリバウンドがあっても限定的だと想定しています。

 結果、株式市場はじわじわとリスクオフへ。

 今回のリスクオフマーケットで…
2018年前半の為替相場を振り返ろう! 「ローリング・ベア」で弱気相場が継続する? ブログ

2018年前半の為替相場を振り返ろう! 「ローリング・ベア」で弱気相場が継続する?

■今年前半の為替相場を振り返ると? みなさん、こんにちは。

 今週(6月25日~)の金曜日(6月29日)は月末、四半期末、半期末の節目の日となります。つまり、早いもので、今週(6月25日~)で今年(2018年)も前半戦が終了となるわけです。

 そこで、まずは、今年(2018年)前半の為替相場を振り返ってみたいと思います。

 使用するのは、対米ドルでの主要通貨のリターンを比較したグラフです。

 最初に紹介するのは、今年(2018年)の1月~2月までのリターン(騰落率)になります。

(出所:BloombergのデータよりザイFX!編集部が作成)

 主要通貨の中で、対米ドルで圧倒的な強さを見せたのが円です。

 このコラムでご紹介させていただきましたが、今年(2018年)の注目は、米ドル/円の下落。

【参考記事】

●2018年初頭に注目したいのはユーロ/円! 米中間選挙に向けて米ドル/円は105円へ(2017年12月21日、西原宏一)

 そして、ターゲットは105円としていたのですが、米ドル/円は、2月16日(金)に、早くも105.55円まで急落しました。その後、米ドル/円は、3月26日(月)に、104.56円まで続落しています。

 ユーロ/米ドルも、2月に1.25ドル台まで上昇しており、今年(2018年)3月ごろまでの米ドルは、主要通貨に対して値を下げる展開が続いていました。

米ドル/円 日足(出所:Bloomberg)

ユーロ/米ドル 日足(出所:Bloomberg)

■4月以降、急反発した米ドル相場 ところが、4月にユーロ/米ドルが方向を変えてから、相場の様相が変わります。

 次は、年初来の対米ドルのリターンです。

(出所:BloombergのデータよりザイFX!編集部が作成)

※データ取得期間は2018年年初からコラム公開日の前日、6月27日(水)まで

 円は、対米ドルでまだ上昇していますが、他の通貨は、米ドルに対して大きく値を崩しています。

 つまり、4月から、円以外の主要通貨では大幅な米ドル高が続いているというわけです。

 特に注目すべきは、資源国通貨である加ドルや豪ドル。これらの資源国通貨は、米ドルに対して大きく値を下げています。

 見方を変えれば、今年(2018年)の4月ごろまでは、「通商問題=米ドル安」という図式。

 ところが、最近は米中貿易摩擦の問題が、米中で妥協点を見出せず、貿易戦争へと進行しているといった報道が目立ちます。

写真は握手を交わすトランプ大統領と習近平国家主席。米中貿易摩擦で妥協点を見出せず、貿易戦争へと進行しているといった報道が目立つ (C)Bloomberg/Getty Images

■上海総合指数は弱気相場入り? 呼応して、上海総合指数が続落。

 前回のコラムでご紹介させていただいたように、上海総合指数は3000を割り込んで、下落が鮮明です。

【参考記事】

●17年間も続いたサポートを割れる寸前! 豪ドルはなぜヤバい?米中貿易戦争が影響?(6月21日、西原宏一)

 今週(6月25日~)に入ってからは、上海株が弱気相場入りしたといった報道が目立ちます。

弱気相場入りした上海株 貿易摩擦懸念、IPO熱気冷め

中国株式相場の下落が目立っている。上海総合指数は今週、3000や2900といった節目を相次いで割り込み、このままいけば人民元の切り下げをきっかけとした2015年夏~16年初めの「チャイナショック」後の安値(2655)すら視野に入る。米中貿易摩擦の激化懸念に加え、中国内の資金の流れの変化や新規株式公開(IPO)ブームの反動といった複合的な要因が背景にある。

 「中国株は弱気相場入りした」。中国の資産運用助言会社の巨豊投資質訊は20日付のリポートでこう指摘した。いつもは強気な中国本土の市場関係者だが、投資意欲が急速に衰えている。上海総合指数は21日に2年ぶりの安値に沈んだ。22日も続落して始まり一時2830台まで下落。1月高値からの下落率は2割を超え、欧米市場の基準でみても弱気相場の領域に足を突っ込んだ。年初来ではマイナス13%と東アジアの主要指数で「最弱」だ。

出所:日経新聞

 以下は、上海総合指数の週足チャートです。

上海総合指数 週足(出所:Bloomberg)

 今月(6月)、直近の高値から20%超急落し、確かに、上海株は弱気相場入りしたように見えます。

 調整局面入りした上海総合指数の動向は、中国経済の影響を受けやすい豪ドルに対して、ネガティブに作用します。

 加えて、前回のコラムでご紹介させていただいたように、商品市場の低迷や米国、豪州の10年債利回りと豪ドルとの相関性も相まって、今年(2018年)後半も、豪ドルを筆頭に資源国通貨の上値は重い展開が続くのではないかと考えています。

【参考記事】

●17年間も続いたサポートを割れる寸前! 豪ドルはなぜヤバい?米中貿易戦争が影響?(6月21日、西原宏一)

 商品相場や上海総合指数の下落、豪ドル/円の…
17年間も続いたサポートを割れる寸前! 豪ドルはなぜヤバい?米中貿易戦争が影響? ブログ

17年間も続いたサポートを割れる寸前! 豪ドルはなぜヤバい?米中貿易戦争が影響?

■加熱する米中貿易戦争で日米の株価は? みなさん、こんにちは。

 今週(6月18日~)の日米の株価は乱高下しました。

 6月19日(火)の東京市場では、トランプ米大統領が2000億ドル規模の中国製品に対し、10%の追加関税を課すと警告。

 新たな関税の対象になる中国製品の特定をUSTR(米国通商代表部)に指示したと伝わったことで、米中貿易戦争の激化を懸念する売りが先行し、日経平均は、一時2万2167円まで急落しました。

日経平均 日足(出所:Bloomberg)

 NYダウも、6月21日(木)まで7日続落。

NYダウ 日足(出所:Bloomberg)

 ただ、ナスダックが反発に転じると、日経平均も急反発するといったように、ボラティリティの高い状態が続いています。

 為替市場も同様。

 リスクオフ環境の中、一時109.55円まで急落していた米ドル/円ですが、当記事執筆時点で110.64円まで反発するなど、方向感のない流れになっています。

米ドル/円 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 1時間足)

■商品市場やアジア株の下落。注目は上海総合指数 一方、他市場に目を移すと、米中貿易摩擦の加熱により、代表的な商品先物指数の1つ、CRB Index(ロイター・コアコモディティCRB指数)は急落。

CRB Index 日足(出所:Bloomberg)

 新興国市場も上値の重い展開となっています。

 注目は、上海総合指数です。

 米中貿易摩擦の悪化により、6月19日(火)の上海総合指数は、前日比3.8%安の2907で引けています。これは、2016年9月以来の3000割れです。

上海総合指数 週足(出所:Bloomberg)

 一連の商品指数の下落、アジア株の反落という流れで…
初の米朝首脳会談への評価は真っ二つ!? 米中通商問題が引き続きリスク要因に! ブログ

初の米朝首脳会談への評価は真っ二つ!? 米中通商問題が引き続きリスク要因に!

■史上初の米朝首脳会談の評価は真っ二つ みなさん、こんにちは。

 6月12日(火)に行われた史上初の米朝首脳会談は、無事終了。

6月12日(火)に開催された、史上初の米朝首脳会談は無事終了。写真は握手をするトランプ大統領と金委員長 (C)Handout/Getty Images

 米朝が交わした合意文書は、トランプ大統領がコメントしたように「包括的」なものに。

 見方を変えれば、いずれの合意も具体性に乏しい一般論にとどまっているとも言え、その点に批判も挙がっています。

 この会談についての米国内の反応は、(いつもどおり)真っ二つ。

 民主党を中心とした「反トランプ派」にとって今回の会談は、トランプ大統領が中間選挙に勝つための人気取りにすぎず、さらには、ナルシストであるトランプ大統領の自己満足との意見が多数。

 一方、トランプ派から見れば、これはノーベル平和賞に匹敵するほどの快挙というわけです。

 ワシントン・ポスト(民主党色が強い)などは、「G7首脳会議ではみせなかった笑顔であり、ミサイルで脅かす独裁者にみせる笑顔ではない」と痛烈なコメントを発表。

 個人的には、米朝関係というのは、つい先日まで一触即発の状態だったわけですので、この会談をきっかけに、非核化に向けて前進したことは確かではないかと考えています。

■近い将来、北朝鮮が有望な投資先になるかを議論!? また、これに関連して驚いたのが、米国のメディアで、近い将来、北朝鮮は有望な投資先になるのかどうか? という議論が始まっていること。

 北朝鮮は鉄鉱石などの資源が豊富であり、かつ、若い世代が多いため投資先として有望ではないか? というわけです。

 反論としては、「予測不可能な独裁者のもとで誰もビジネスをしたくない」(ニューヨクタイムズ)との意見。

 まだ非核化の交渉は始まったばかりですし、非核化自体が頓挫する可能性も高い状態です。

 しかし、この状況でも、北朝鮮は有望な投資先になりうるのかどうか? という議論とシュミレーションが始まるところが、米国のすごいところだと感じた次第。

 ともあれ、米朝首脳会談は無事終了。これは、株と米ドル/円にとってポジティブ要因です。

■FOMCでは、バイ・ザ・ルーマーからのセル・ザ・ファクトに 加えて、本日(6月14日)未明、もう1つのイベントであるFOMC(米連邦公開市場委員会)が開催されました。

 FOMCは、FF金利(※)の誘導目標を1.75-2%のレンジに引き上げ。

(※編集部注:「FF金利」とは、フェデラルファンド金利のことで、FFレートとも呼ばれる。米国の政策金利)

(出所:Bloomberg)

 さらに、失業率が低下し、インフレ率が従来の見通しよりも速いペースで上昇していることから、2018年通年の利上げ予測は4回に上方修正されました。

 マーケットの反応は、FOMC前後によく散見される動きに。

 FOMC直前のマーケットは、「利上げが4回への上方修正になるのでは? というウワサ」を織り込む展開となり、一時、米ドル/円は110.84円まで反発(バイ・ザ・ルーマー)。

 その後、「利上げが4回への上方修正」という結果を受けて、米ドル/円は110円台前半に反落しました(セル・ザ・ファクト)。

米ドル/円 1時間足(出所:Bloomberg)

 また、利上げ回数の上方修正を受けて、米国株も反落しています。

NYダウ 1時間足(出所:Bloomberg)

 そして、今週(6月11日~)後半の…
米朝首脳会談など来週は重要イベント満載! 通商問題混迷の先にあるのは米ドル安か? ブログ

米朝首脳会談など来週は重要イベント満載! 通商問題混迷の先にあるのは米ドル安か?

■米朝首脳会談はじめ、来週は重要イベントが満載 みなさん、こんにちは。

 米国がトランプ政権になって以降、金融市場を揺るがすようなイベントが増えたのですが、来週(6月11日~)は、いつも以上にイベントが満載。ここで、そのうちのいくつか見ていきましょう。

● 6月10日(日)=「ソブリンマネーを導入するべきかどうかの国民投票」

 スイスでは、信用創造を中央銀行だけに限定する「ソブリンマネー」制度を導入すべきかどうかの国民投票が実施される予定となっています。

 世論調査では、賛成派が35%であるため、実現の可能性は低いのですが、Brexit(英国のEU離脱)のような例もあるので、予想外の結果に警戒しています。

 もし、可決されれば、スイスの銀行は大打撃。

● 6月12日(火)~13日(水)=FOMC(米連邦公開市場委員会)

 FRB(米連邦準備制度理事会)が、今年(2018年)2回目の利上げに向かう可能性は、ほぼ100%です。この後も利上げが続き、年4回になるかどうか?に注目。

● 6月12日(火)=米朝首脳会談

 北朝鮮の非核化と、経済制裁解除がポイントです。

 この後のイベントの詳細については、メルマガ「FXトレード戦略指令!」などに譲りますが、ほかにも、以下のようなイベントを控えています。

● 6月14日(木)=ECB(欧州中央銀行)理事会

● 6月22日(金)=OPEC(石油輸出国機構)総会

● 6月24日(日)=トルコ大統領&議会選挙

● 6月28日(木)~29日(金)=EU(欧州連合)首脳会議

【参考記事】

●下落止まらぬトルコリラ相場を天才トルコ人ストラテジストが解説! 山場は6月大統領選

 これだけイベントが連続してあると、あるイベントを消化して方向性が明確になっても、次のイベントで違う材料が出て、相場が逆行することもあるため要注意です。

 繰り返しになりますが、今年(2018年)のテーマは、ボラティリティの高止まりということは変わりません。

【参考記事】

●VIX指数急騰で低ボラティリティ相場終焉! 株暴落でも底堅いドル/円も下値余地拡大(2月8日、西原宏一)

■イタリア政局混乱よりECBの政策材料にユーロ反発 今年(2018年)はイベントが豊富で、それにより相場の方向性が逆行するというのを示したのが、今回の欧州情勢。

 前回ご紹介させていただいたように、イタリアの政局の混乱により、イタリアの対独スプレッドが極端に拡大しました。

【参考記事】

●イタリア政局混迷でユーロ/円は120円へ下げ足を速める展開! ドル/円も続落中!(5月31日、西原宏一)

 イタリア債は、想定を大きく超えて売り込まれたため、「陰の極」ともいえる相場展開の後、いったん膠着。

 ここまではマーケットの想定内ですが、その後、6月6日(水)には、欧州当局者から立て続けにタカ派的なコメントが飛び出し、ユーロは反発へ。

ユーロ/米ドル 4時間足(出所:Bloomberg)

 特に、バイトマン独連銀総裁のコメントが強烈で、「年内の債券買い入れ終了を見込む市場の期待は妥当だ」とのこと。

 イタリアの政局の混乱もあり、テーパリング(※)は遅れるとの観測も増えてきていたところに、南欧の政局の混乱は考慮せず、バイトマン総裁がタカ派的なコメントをしたわけです。

(※編集部注:「テーパリング」とは、量的緩和政策により、進められてきた資産買い取りを徐々に減少し、最終的に購入額をゼロにしていこうとすること)

 この意味においては、イタリアの同盟のサルビーニ党首がコメントしたように、そもそも、ユーロは「ドイツの通貨」であると揶揄することもできます。

【参考記事】

●イタリア政局混迷でユーロ/円は120円へ下げ足を速める展開! ドル/円も続落中!(5月31日、西原宏一)

 どちらにせよ、ユーロは、「ECB(欧州中央銀行)の政策>イタリアの政局の混乱」という図式となり、反発。

 ユーロの要因が強弱入り乱れてきたため、ユーロ/米ドルの方向は米ドルの行方にかかってきました。

ユーロ/米ドル 4時間足(出所:Bloomberg)

 一方、通商問題は…
イタリア政局混迷でユーロ/円は120円へ 下げ足を速める展開! ドル/円も続落中! ブログ

イタリア政局混迷でユーロ/円は120円へ 下げ足を速める展開! ドル/円も続落中!

■「セル・イン・メイ」をきっかけに米ドル/円は続落中 みなさん、こんにちは。

 前回コラムでご紹介させていただいたように、「5.23」という「セル・イン・メイ」をきっかけに、下落トレンドに回帰した今週(5月28日~)の米ドル/円は、急激に値を下げる展開。

【参考記事】

●トルコリラ急落をきっかけにリスクオフ! 米ドル/円急反落! ユーロ/円は123円へ…(5月24日、西原宏一)

 米ドル/円は、111.40円の高値から戻しもなく一気に、一時108.11円まで急落。

米ドル/円 日足(出所:Bloomberg)

 米ドル/円の108.00円は反発局面で節目となったレベルであるため、下落時もサポートとなり、いったん下げ止まっています。

 ただ、米ドル/円は米10年債利回りが反落過程にあるため、上値は極めて重い展開。

米長期金利(10年物国債利回り) 日足(出所:Bloomberg)

 4月の米ドル/円の反発は、米10年債利回りが、一時3.00%を超えて上昇したことが要因となっています。

 一方、2月の米ドル/円は、米10年債利回りは急騰したのですが、米国株が反落したことから、米金利の上昇より米国株の下落に連動して急落しました。

 米ドル/円は、米金利の上昇に正の相関を示すというのがマーケットの通説になっています。ただ、それには条件があります。

 株が安定して(上昇せずとも)推移し、マーケットのボラティリティが低いことです。

 見方を変えれば、米金利の下落と株価の下落が重なると、米ドル/円の下落は急激なものとなります。

 つまり、この状態は、典型的なリスクオフ相場を意味します。

 先週(5月21日~)後半からの相場は、イタリアの政局の混乱によるリスクオフ相場=「株安・債券高(利回りは低下)・円高・米ドル高」の環境下であるため、米ドル/円、クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)の下落は、急激なものとなるのです。

 円高の要因が「イタリアの政局の混乱」であるため、クロス円の下落で、もっとも急激な値動きを示しているのがユーロ/円、ということになります(先週のコラムを参照)。

【参考記事】

●トルコリラ急落をきっかけにリスクオフ! 米ドル/円急反落! ユーロ/円は123円へ…(5月24日、西原宏一)

 先週のコラムでご紹介させていただいた、イタリアの…