今井雅人の「どうする? どうなる? 日本経済、世界経済」

「本当にやるの!?」 トランプ氏に市場困惑! 日米首脳会談で、まともな理屈は通じるか ブログ

「本当にやるの!?」 トランプ氏に市場困惑! 日米首脳会談で、まともな理屈は通じるか

■トランプ米大統領が、アベノミクスの「第1の矢」を批判 トランプ米大統領のやることに金融市場も困惑し、相場も非常にわかりにくくなっています。1月31日(火)、トランプ米大統領は、製薬業界の幹部との会合の中で、次のように発言しました。

 「他国は、通貨やマネーサプライ、通貨の切り下げを利用し、我々を出し抜いている。中国や日本がこの数年でやってきたことを見てみろ。彼らは金融市場を利用している」

 日本は2011年11月以来、為替介入をしていないので、日本がこの数年でやってきたことというのは、日銀の金融緩和であることは明白です。

 つまり、トランプ米大統領は、日本は金融緩和を使って円安誘導をしてきたと、まさにアベノミクスの「第1の矢」そのものを批判したワケです。

 この発言によって、米ドル/円では112.082円まで米ドル安・円高が進みました。

米ドル/円 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 1時間足)

■大統領になれば紳士的!? 淡い期待はもろくも崩れる… しかし、これは実は選挙前から彼が言ってきたことなので、本当は驚くような話ではありません。

 ですが、多くの人は、「トランプ氏は大統領になったら、もう少し紳士的になるのではないか」という淡い期待を抱いていました。その期待が、もろくも崩れています。

大統領になる前のトランプ氏。立候補を表明し、大統領選を戦っている時から、いろいろと物議をカモす過激発言をしてきた。大統領になれば…なんて淡い期待は、もう崩れている (C)Chip Somodevilla/Getty Images

 難民やイスラム教徒の米国への入国制限などは、「本当にやるんだ」と世界中の人々を驚かせています。今回の為替に対する発言も、その驚きから市場が反応しているということでしょう。

■米国に言われる筋合いはない! 日米首脳会談に注目! ただ、現実は少し違います。

 大胆な金融緩和は、実は米国もやってきました。FOMC(米連邦公開市場委員会)はQE1(量的緩和策第1弾)からQE3(量的緩和策第3弾)まで大幅な金融緩和を実施してきました。

 したがって、米国に言われる筋合いはありません。

 このことを安倍総理が、しっかりトランプ米大統領にわかってもらえるのかが今後の焦点です。まずは、2月10日(金)の日米首脳会談。そこでの会談内容に注目しておきたいです。

 ただ、相手はトランプ米大統領です。まともな理屈が通用するのか? 想像ができません。予断を持たずに、よく様子を見ておくことです。

 さて、1月31日(火)-2月1日(水)にFOMCが…
市場はリスクオンでNYダウは2万ドル台! 米ドル/円の上昇再開を阻む原因は何か? ブログ

市場はリスクオンでNYダウは2万ドル台! 米ドル/円の上昇再開を阻む原因は何か?

■「つまらない」雰囲気が蔓延。トランプ大統領の就任演説 前回のコラムでは、「トランプ氏が正式に米大統領に就任する。彼がどういう政策を実際に進めるのか、就任式のスピーチに注目しておきたい。就任当日にいくつか大統領令を発表する予定なので、この内容にも注目しておきたい」と述べました。

【参考記事】

●トランプ氏が「トンデモ発言」なく大統領就任式を終えたら、来週からドル高期待!(1月20日、今井雅人)

 実際の演説では「貿易、税制、移民、外交のあらゆる面で米国民に恩恵を与える政策を行う」などと発言したものの、悪く言えば、選挙期間中に叫んでいた保護主義の姿勢をそのまま繰り返して演説しただけのような形となってしまいました。

就任式で演説するトランプ米大統領。保護主義の姿勢をそのまま繰り返す内容で、悪く言うと「つまらない」演説に… (C)Alex Wong/Getty Images

 アンチメディアの大統領を前にして、メディアが自ら賞賛するはずもなく、「何とも煮え切らない」、ひと言で言えば「つまらない」雰囲気が蔓延してしまったのは言うまでもありません。

■公式サイトでの基本政策発表&スペイン語訳サイト削除 また、ホワイトハウスは政権の交代を受けて、公式サイト上で「TPP(環太平洋連携協定)からの撤退」、「NAFTA(北米自由貿易協定)再交渉」、「全ての税区分での引き下げ」、「年4%成長を目指し、10年間で2500万人の新規雇用」の基本政策を発表。

 同時にスペイン語訳のサイトを削除するといったオマケまで付いた形となりました。

■一時、行き過ぎた保護主義への懸念が高まったが… 週明けの1月23日(月)にもトランプ米大統領は、「極めて大規模な減税や規制緩和を実行すると同時に、大規模な国境税を課す」ことを改めて表明しましたが、ムニューチン次期米財務長官が議会に宛てた書簡で、「過度に強い米ドルは短期的にはマイナス」であるとの見解を示していたことが判明しました。

 市場は新政権に対する「行き過ぎた保護主義」などへの懸念を高めることになり、米ドル/円は、一時112.527円まで下落したほか、米長期金利も低下幅を広げることになりました。

米ドル/円 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 4時間足)

■市場は、インフラ投資や規制緩和の動きにリスクオンで反応 ただ、そんな懸念も短命に終わります。

 1月24日(火)には、トランプ米大統領が「カナダと米国を結ぶキーストーンXLパイプラインとダコタ・アクセス・パイプライン推進計画」の大統領令にサインしたことがわかると、一気に株価が上昇。米長期金利も急上昇することになりました。

 なお、パイプラインは、米国産の鉄鋼のみを使うことが条件付けられたほか、数万人の新規雇用が生まれることも表明されています。

米10年物国債利回り(米長期金利) 1時間足(出所:Bloomberg)

 トランプ米大統領は、昨日1月25日(水)も「メキシコ国境での壁建造」の大統領令に署名。「保護主義」と表裏一体ではあるものの、実際の「インフラ投資」や「規制緩和」といった政策に動きが出てきたことで、市場は一転して「リスクオン」の動きとなりました。

 ダウ平均は、ついに2万ドルの大台を突破。史上最高値を更新しました。

NYダウ 日足(出所:Bloomberg)

 しかしながら米ドル/円は…
トランプ氏が「トンデモ発言」なく大統領 就任式を終えたら、来週からドル高期待! ブログ

トランプ氏が「トンデモ発言」なく大統領 就任式を終えたら、来週からドル高期待!

■トランプ氏の米ドル高牽制発言で、米ドル安に 今週(1月16日~)は、アジア太平洋議員フォーラム(APPF)への出席のため、1月19日(木)まで海外におりましたので、当レポートの公開が1日遅れました。申し訳ありません。

 約1週間の海外出張の間に、相場は大きく乱高下しました。

 前半は、先週(1月9日~)からの流れで米ドル安が進行する展開となりました。

 特に、1月17日(火)に変動幅が大きくなり、米ドル/円は、一時112円台にまで下落しました。原因は、トランプ氏が新聞社のインタビューで「米ドルは高すぎる」という発言をしたことです。

 これは中国人民元に対しての話だったのですが、全体的に米ドル安政策を取るのではないか、という観測が広がったために、米ドル全面安の展開となりました。

米ドル/円 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 1時間足)

■ドルロングポジションの調整売りが出た ただ、これはきっかけであって、やはりドルロングポジションが溜まり過ぎていたために、トランプ氏の大統領就任までに、ドルロングの調整売りが出たということだと思っています。

 これは、IMM(国際通貨先物市場)のポジション動向を見れば、はっきりとわかります。

【参考記事】

●調整は続くか…。ドル/円が120円や125円水準へ上昇するために必要なこととは?(1月5日、今井雅人)

●残念な記者会見でドル/円は114円台へ!次はトランプ次期大統領の就任演説に注目(1月19日、今井雅人)

 おそらく、今週末に発表される1月17日(火)時点での統計では、かなりドルロングが減っているのではないでしょうか。

IMM(国際通貨先物市場)のポジション状況(米ドル/円)(詳しくはこちら → 経済指標/金利:シカゴIMM通貨先物ポジションの推移)

■次期米財務長官いわく、米ドルは一時的に高過ぎる水準 さて、本日1月20日(金)にトランプ氏が正式に米大統領に就任します。彼がどういう政策を実際に進めるのか、就任式のスピーチに注目しておきたいと思います。

 就任当日にいくつか大統領令を発表する予定なので、この内容にも注目しておきたいと思います。

 ところで、問題の為替政策でありますが、1月19日(木)に行われた次期米財務長官、スティーブン・ムニューチン氏の承認公聴会での発言で、かなり、はっきりしてきました。

 彼の発言を簡単に要約すれば、「米国にとって長期的な米ドル高は望ましいが、今の米ドルは一時的に高過ぎる水準にまできている、という認識を持っている」ということです。

 ですから、いっそうの米ドル高に対する警戒発言はこれからも出てくるとは思いますが、極端なことはしてこなさそうであるということでしょう。

次期財務長官に指名されているスティーブン・ムニューチン氏。 米証券大手、ゴールドマン・サックスの出身。トランプ政権の金融政策におけるキーマンになりそう。今後、もっと経済ニュースにも登場してきそうなので、しっかり名前と顔を覚えておきましょう! (C)Bloomberg/Getty Images

 その認識の上で、現状の…
残念な記者会見でドル/円は114円台へ! 次はトランプ次期大統領の就任演説に注目 ブログ

残念な記者会見でドル/円は114円台へ! 次はトランプ次期大統領の就任演説に注目

■記者会見での発言内容は、期待を裏切るものだった 1月11日(水)は、「トランプリスク」を改めて思い知らされる1日となりました。

 米大統領選挙に勝利したあと、ツイッターでしか自分の主張を表してこなかったトランプ次期米大統領が、初めて記者会見をするということで市場関係者の注目は頂点に達していました。

 しかし、発言内容は期待を大きく裏切るものとなりました。

■トランプ氏が具体的に言及したこととは? 一番の落胆は、彼が経済政策に関して、ほとんど何も語らなかったということです。

 トランプ氏は、米国に雇用を生み出す大統領になると主張していましたが、具体的に言及したことといえば、「オバマケアの廃止とそれに伴う代替案を提出する」ということと、「米国から海外に出て行く企業に対して、国境税をかける」ということだけでした。

 まさに心配されていたとおり、保護主義の側面が強く表れている内容でした。

 大統領選挙で勝利した日の演説は非常に落ち着いていて、大統領としての風格すら感じさせていましたが、1月11日(水)の会見は中身がないだけでなく、極めて感情的。

 マスコミへの攻撃的な面だけが目立つ、非常に印象の悪い会見となってしまいました。

記者会見中のトランプ氏。注目の経済政策については、ほとんど何も語られず…。一部マスコミと感情的なやりとりも…。写真の顔もちょっと怖いです… (C)Spencer Platt/Getty Images

米大統領選の勝利演説をするトランプ氏。たしかに、記者会見の写真と比べると、この時は落ち着いていて、大統領としての風格も漂っているかも…? (C)Scott Olson/Getty Images

■記者会見を受けて、米ドル/円は114.248円まで急落! 当然のことながら、発言に期待して記者会見直前まで米ドルを買っていた市場は失望し、米ドルの投げ売りが起きました。

 最新のIMM(国際通貨先物市場)通貨先物ポジション(1月3日時点)を見ても、対米ドルでの円ショートポジションが86,764枚と、まだかなりのドルロングポジションが残っています。その影響で下げ幅も、かなり大きなものとなってしまいました。

IMM(国際通貨先物市場)のポジション状況(米ドル/円)(詳しくはこちら → 経済指標/金利:シカゴIMM通貨先物ポジションの推移)

 米ドル/円は、目先の下値メドとして意識されていた1月6日(金)の安値115.072円を下回ると、ストップロスを巻き込む形で下げ足を速め、一時114.248円まで急落しています。

米ドル/円 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 1時間足)

 そして、次は…
調整は続くか…。ドル/円が120円や125円 水準へ上昇するために必要なこととは? ブログ

調整は続くか…。ドル/円が120円や125円 水準へ上昇するために必要なこととは?

■米ドル/円は、2016年12月15日の高値を上抜けられず… 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。

 お正月休暇も終わり、2017年の取引が始まっています。米ドル/円は、年末のNY市場で116円台から117円台まで買い戻されて2016年の取引を終えました。

 年始も年末の勢いを受け継ぐ形で、1月3日(火)から米ドル買いが先行。12月米ISM製造業景気指数や11月米建設支出などが市場予想を大幅に上回る強い数字となったこともあり、一時118.607円まで値を上げる場面もみられました。

 しかし、2016年12月15日(木)の戻り高値として意識されていた118.663円を上抜けられないとなると、その後は、戻り売りに押される展開となりました。

米ドル/円 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 4時間足)

■利上げされた2016年12月のFOMC議事録は複雑!? そんななか、1月4日(水)のNY市場では、FOMC(米連邦公開市場委員会)議事要旨(2016年12月13-14日分)が公表されました。

【参考記事】

●FOMC金利見通し引き上げでドル急上昇! 過熱感がない相場はなかなか止まらない(2016年12月15日、今井雅人)


※FRB発表のデータより、ザイFX!編集部が作成

 2016年中で唯一、利上げが行われた会合だっただけに市場の注目が集まったワケですが、議事要旨では、「トランプ政権が大型減税などを行った場合には、より速いペースの利上げが必要となる可能性」に言及していることが判明したほか、「多くのメンバーが拡大的な財政政策によって成長が弾ける上向きのリスク」を認識していることもわかりました。

 ただ、「トランプ政権の政策を判断するにはまだ時期尚早であり、見通しにどれほどの影響があるのかを見極める必要がある」との慎重な姿勢を崩していないことも明らかになっています。

 また、声明文では言及されていませんでしたが、「さらなる米ドル高が下向きのリスク」であると指摘する向きもありました。

 市場では、「予想よりは少しタカ派的」との声が大勢を占めていますが、米長期金利が上下に二転三転するような不安定な動きとなったことからもわかるように、反応はかなり複雑なものとなりました。

 そして、本日1月5日(木)のアジア市場では…
2017年の為替相場も基本はドル高継続! ドル/円は125円を目指す動きが見られるか ブログ

2017年の為替相場も基本はドル高継続! ドル/円は125円を目指す動きが見られるか

■トランプラリーで激しい展開! 2017年の相場はどうなる? 2016年の後半は、トランプラリーで激しい相場展開となりました。ここまでのラリーになるとは、正直、私も予想していなかったので、かなり驚きました。

【参考記事】

●トランプ大統領誕生で暴落後に株高・円安へ! だが、トレンドを作ると考えるのは早計!?(11月10日、今井雅人)

 この流れを受けて、2017年はどんな相場展開になるのかを考えてみたいと思います。それを考えるにあたっては、なぜここまでのラリーが起きたか?ということを考えておく必要があります。

■激しいラリーの背景に何があったのか? 1つは、ポジションが偏っていたということが挙げられます。

 特に米国の債券市場では、ここ数年の長期的な金利低下傾向の中、巨大なロングポジションが溜まっていました。それが、一気にあぶりだされたということが大きかったです。

米10年物国債利回り(米長期金利)(出所:Bloomberg)

 しかし、それ以上に大きかったのは、実は米国の景気が回復基調にしっかりと乗ってきているということではないでしょうか?

■2016年12月のFOMCで1年ぶりの利上げ! その背景は? 2016年12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、1年ぶりに政策金利が0.25%引き上げられました。

【参考記事】

●FOMC金利見通し引き上げでドル急上昇! 過熱感がない相場はなかなか止まらない(12月15日、今井雅人)

※FRB発表のデータより、ザイFX!編集部が作成

 そして、同時に発表された「経済・金利見通し」では、2017年末の政策金利に関して2016年9月の時点では、メンバー全員の平均が0.25%の利上げを2回予想するという結果となっていましたが、今回は、それが3回の利上げに上方修正されました。その背景を考えてみます。

 まず、雇用環境の改善です。

 米国の失業率はリーマンショックの影響で、一時10%を超えるまでに悪化しました。しかし、その後、徐々に改善し、直近の2016年11月の失業率は4.6%にまで低下しました。

 米国の過去の失業率の推移を見ると、4%台というのは堅調な景気状況における正常値です。したがって、もはや超低金利政策を取る環境からは、脱していると言って良いでしょう。

米雇用統計(失業率)(詳しくはこちら → 経済指標/金利:米国主要経済指標の推移)

■住宅系指数や景況感も回復傾向に 2つめは、実体経済です。

 最近の住宅関連指標を見てみると、新築住宅販売も中古住宅販売も非常に堅調に推移しています。同様に価格も堅調です。

(詳しくはこちら → 経済指標/金利:米国主要経済指標の推移)

(詳しくはこちら → 経済指標/金利:米国主要経済指標の推移)

 また、景況感も悪くありません。ISM製造業、非製造業では、いずれも景況感が回復してきています。

ISM製造業景況指数 (出所:Bloomberg)

ISM非製造業景況指数 (出所:Bloomberg)

■景気と物価の堅調さがトランプラリーの背景に 3つめは、物価です。

 消費者物価指数の前年同月比の推移を見てみると、ここ数カ月は上昇傾向が鮮明になってきて、直近は1.7%になっています。また消費者物価指数コアの方は、2%を超えた水準で高止まりしています。

 こうした景気、物価の堅調さがFOMCのメンバーを強気にさせているワケです。そして、トランプラリーは、まさに、こうした背景があったからこそ起きたのであります。

 さて、常識的に考えれば…
FOMC金利見通し引き上げでドル急上昇! 過熱感がない相場はなかなか止まらない ブログ

FOMC金利見通し引き上げでドル急上昇! 過熱感がない相場はなかなか止まらない

■1年ぶりの米利上げ。利上げ自体は予想どおり 12月14日(水)、FOMC(米連邦公開市場委員会)は、政策金利を0.25%引き上げ、FF金利(※)の誘導目標を0.50-0.75%とすることを決定しました。

(※編集部注:「FF金利」とは、フェデラルファンド金利のことで、FFレートとも呼ばれる。米国の政策金利)

 利上げは2015年の12月以来、1年ぶりのこととなります。

【参考記事】

●ドル/円120円~121円台はなぜ買いなの? 安易な新興国通貨への投資は止めよう!(2015年12月17日、今井雅人)

※FRB発表のデータより、ザイFX!編集部が作成

 今回の決定は、全員一致。これは、ほぼ予想されていたことですので、さほど驚きはありませんでした。

■2017年の利上げ予想回数が2回から3回へ! むしろポイントは、2017年以降の利上げのペースがどうなるか?ということでしたが、同時に発表されたFOMCメンバー全員による「経済・金利見通し」では、2017年末の適切な金利水準の中央値が、9月の1.125%から1.375%に引き上げられました。

 これは、利上げの予想回数が3回ということで、2016年9月時点での2回からペースが速まったことを意味しています。

 これに市場は反応して、米ドルが急上昇したという展開でした。

米ドルVS世界の通貨 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 1時間足)

 最近の米国の経済指標を見ると、失業率も4.6%と平常時に戻ってきており、また、その他の指標もかなり良好です。物価上昇率も、堅調になってきています。

米雇用統計(失業率)(詳しくはこちら → 経済指標/金利:米国主要経済指標の推移)

 イエレンFRB(米連邦準備制度理事会)議長も、2017年の利上げ予想が3回となったことについて、定例記者会見の中で、「底堅い雇用増やインフレの加速、さらにトランプ氏の政策に伴い予想される影響を背景としている」との認識を示しています。

■米国経済が上昇サイクルに入ったからこそのラリー 米国は、リーマンショックの影響によって超低金利政策を続けてきましたが、ようやく普通の状態に戻る軌道に乗ってきたということでしょう。

 いずれ、他の先進国もそういう状況が訪れるでしょうが、まずは米国が先行していくことになります。そうなれば、その期間は米ドル高になりやすいというのは当然のことです。

 今回の米ドル高は、トランプ氏の大統領選挙での勝利から始まっていますが、元々、米国経済が上昇サイクルに入っていたからこそ、これだけのラリーが起きているということなのでしょう。

 この点を少し甘く見ていたと反省しています。

【参考記事】

●トランプ大統領誕生で暴落後に株高・円安へ! だが、トレンドを作ると考えるのは早計!?(11月10日、今井雅人)

 一方、日本では…
米長期金利上昇の背景に国債の投売り! 米ドル/円が、著しく上昇したのはなぜ? ブログ

米長期金利上昇の背景に国債の投売り! 米ドル/円が、著しく上昇したのはなぜ?

■NYダウは史上最高値更新だが、金利や為替はちょっと違う 12月7日(水)もまたNYダウは急騰し、連日、史上最高値を更新し続けています。

NYダウ 日足(出所:CQG)

 米国の株式市場は、依然としてトランプ氏に対する期待を持ち続けているようです。しかし、金利、為替は少し違う反応となってきています。

 そもそも、今回の米大統領選挙後、もっとも大きな動きをしてきたのは、米国長期金利の市場です。

【参考記事】

●トランプ大統領誕生で暴落後に株高・円安へ! だが、トレンドを作ると考えるのは早計!?(11月10日、今井雅人)

●トランプ相場で「米国買い」状態だがすべて憶測による値動き。崩れる局面あるかも…(11月17日、今井雅人)

●米ドル/円の連騰を演出しているのは誰? 上値メドは? 感謝祭明けたら空気一変か(11月24日、今井雅人)

■世界の投資家は、莫大な米国債買いをしていた 米国の長期金利は、ここ3年間、長期的な下落トレンドを作ってきました。2015年の終わりにFOMC(米連邦公開市場委員会)が政策金利の引き上げを実施しても、その傾向は変わりませんでした。

【参考記事】

●ドル/円120円~121円台はなぜ買いなの? 安易な新興国通貨への投資は止めよう!(2015年12月17日、今井雅人)

米長期金利(米10年債利回り) 週足(出所:CQG)

 こうした傾向を作ってきたのは、基本的に、世界的なディスインフレ(※)の流れの中でのヘッジファンドなどを中心とした投資家の米国債券買いです。

(※編集部注:「ディスインフレ」とは、ディスインフレーションの略で、物価上昇率が低下し、インフレーション(インフレ)が収束した状態のこと)

 つまり、世界の投資家は、莫大な金額の米国債券のロングポジションを持っていたと言うことです。

■米長期金利が上昇した背景にある米国債の投げ売り そういう状況の中、トランプ氏が減税と大規模な財政出動を宣言しました。これは、明らかにインフレ政策です。

 これがきっかけとなって、米国債券の投げ売りが起きました。それが、米国の長期金利の急上昇の背景です。

 2016年半ばから見ると、米国の長期金利は1%も上昇しています。かなりのポジション整理が行われてきたとみて良いでしょう。

 だからこそ、長期金利は一服してきているのだと思います。

米長期金利(米10年債利回り) 日足(出所:CQG)

■米ドルの上昇度合いがもっとも顕著だったのは、対円 為替相場も同様です。

 米ドル相場が、米国の長期金利の動向に大きな影響を受けることは、一般的によく知られています。

 今回も長期金利の上昇とともに、米ドルが上昇しました。しかし、米ドルの上昇度合いは、通貨によって異なっています。

 米ドルの上昇が著しいのは、言うまでもなく対円です。

米ドル/円 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)

 では、なぜそうなったか?

 それは、もちろんリスクオンになると円安になる傾向があることは、1つの要因です。

 しかし、それ以上に…
「米ドル高の弊害」へ言及があれば一気に センチメント逆転か。「その時」を警戒せよ! ブログ

「米ドル高の弊害」へ言及があれば一気に センチメント逆転か。「その時」を警戒せよ!

■感謝祭明けの変化を「本邦実需勢の買い」が下支え 前回のコラムで私は、「感謝祭明けの市場、つまり来週(11月28日~)からの市場が、休日前とは雰囲気が一転して変化してしまうということも、可能性として準備しておかなければならない」とお伝えしました。

【参考記事】

●米ドル/円の連騰を演出しているのは誰?上値メドは? 感謝祭明けたら空気一変か(11月24日、今井雅人)

 実際、感謝祭の休暇明けとなった11月28日(月)は、アジア時間から売りが強まる展開に。一時、111.358円まで大きく売り込まれる場面も見られました。しかし、その後は、月末に向けて「本邦実需勢の買い」などが目立つと、再び上値を試す展開となりました。

 市場では、「年金資金など長期的な資金のリバランスの買いがかなり持ち込まれたのではないか」との声も聞かれており、こういったしっかりとした実弾が感謝祭明けの、まさにセンチメントが変わろうとしていた局面を下支えすることになりました。

米ドル/円 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 4時間足)

■OPECでは、日量120万バレル減産で合意 また、昨日11月30日(水)には、OPEC(石油輸出国機構)定例総会が開催されましたが、前日の物別れとも思われた状況から一転。「日量120万バレルの減産」で合意しました。

 WTI原油先物価格が急騰したほか、米長期金利や夜間取引の日経平均先物の大幅な上昇を受けて、米ドル/円も上値を試す展開となりました。

【参考記事】

●OPEC原油「減産」合意でリスクオンだが、とりあえず影響は一時的とみる理由は?(9月29日、今井雅人)

WTI原油先物 1時間足(出所:CQG)

■強い経済指標結果も重なり、米ドル/円は114円台へ! さらに、11月29日(火)の予想を上回る7-9月期米GDP改定値に加えて、30日(水)の11月ADP全米雇用報告や11月米シカゴPMIも予想を大幅に上回る強い結果となりました。

 極めつけに、ロンドン時間16時(日本時間:午前1時)ロンドンフィキシングで月末に絡むまとまった規模の米ドル買いが持ち込まれると、米ドル/円は、一気に114.54円まで買い上げられました。

 本日12月1日(木)も、朝方、一時114.829円まで上昇。高値を更新しています。

米ドル/円 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 1時間足)

 昨日11月30日(水)は…
米ドル/円の連騰を演出しているのは誰? 上値メドは? 感謝祭明けたら空気一変か ブログ

米ドル/円の連騰を演出しているのは誰? 上値メドは? 感謝祭明けたら空気一変か

■約1円程度の下押しに留まり、米ドル/円上昇 前回のコラムで、私はこの「トランプ相場」について、「今の段階では、どうしてもこれが、持続可能な本格的な買い相場だと思えない。憶測で動いている相場なので、崩れる局面もあるのではないか。こから一層の米ドル高が、すぐに来るとは考えづらい。押し目をじっと待つ時期ではないか」とお伝えしました。

【参考記事】

●トランプ相場で「米国買い」状態だがすべて憶測による値動き。崩れる局面あるかも…(11月24日、今井雅人)

 実際、米ドル/円は、先週(11月14日~)末には110円台後半にまで上昇。

 今週(11月21日~)に入ってからは、21日(月)に111円台前半で上げ止まる兆しを見せ、22日(火)早朝に起きた福島県沖地震による津波警報の発令をきっかけに、一気に売り仕掛けられる場面も見られたものの、結局110.27円までと、約1円程度の下押しに留まりました。

 そして、その日のNY市場では、再び111円台前半まで買い戻されるといった底堅い動きとなったのです。

米ドル/円 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 4時間足)

■米ドル/円は、ついに113円台まで上昇 11月23日(水)は、勤労感謝の日で東京市場が休場だったにもかかわらず、米ドル/円は海外市場で急騰。

 10月米耐久財受注が前月比4.8%と市場予想の1.7%を大幅に上回る強い数字となったことから、米10年債利回りが2.4147%まで急上昇したことを受けて、一時112.975円まで買い上げられました。

 本日11月24日(木)も、欧州時間に一時113.386円まで買われています(※)。

(編集部注:11月24日(木)、米ドル/円は当コラム公開準備中に、一時113円台半ばあたりまで上昇した)

米長期金利(米10年債利回り) 1時間足(出所:CQG)

米ドル/円 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 1時間足)

 果たして、この米ドル/円の連騰は誰が演出して…