今井雅人の「どうする? どうなる? 日本経済、世界経済」

北朝鮮有事への懸念と米ドル安政策表明で ドル/円は105円程度まで下落の可能性十分 ブログ

北朝鮮有事への懸念と米ドル安政策表明で ドル/円は105円程度まで下落の可能性十分

■米国のシリア攻撃と北朝鮮への強硬姿勢について ここのところ、トランプ政権の一連の言動に市場が混乱しています。

 まず、最初のきっかけはシリアへの爆撃でした。シリアのアサド政権が化学兵器を使ったのではないかということに対して、米国軍がシリアを爆撃しました。国連決議も経ない、いきなりの攻撃であり、世界中に衝撃が走りました。

 さらに、北朝鮮に対しても強硬な姿勢を示しています。こちらは、具体的な案件があったわけではないですが、最近も行われているミサイルの発射などをきっかけに、トランプ政権は北朝鮮に対して、強硬姿勢を見せているのです。

 まず、朝鮮半島近海に原子力空母、カール・ビンソンを派遣。その上で、中国に対して、中国が具体的な行動に出なければ、単独で北朝鮮を攻撃することも辞さないことを伝えました。

 シリアに対して電撃攻撃を行ったことで、トランプ政権の北朝鮮に対する武力攻撃が現実味を帯びてきているため、市場も敏感に反応しています。

北朝鮮に対して、強硬姿勢を見せている米トランプ政権は、朝鮮半島近海に原子力空母、カール・ビンソンを派遣。有事への緊張が高まる (C)U.S. Navy/Getty Images

■北朝鮮有事への懸念から、市場は円買いの反応 かつては、近隣の北朝鮮への有事ということであれば、円安・米ドル高になるところでしたが、最近は、逆の反応をするようになっています。

 すなわち、有事になると経常収支黒字国の通貨が買われるという相関です。そのため、円買いという反応になっています。

米ドル/円 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 4時間足)

 トランプ政権のマティス国防長官やティラーソン国務長官は、かなりの強硬派であることが最近の言動で明らかになっており、シリアへの攻撃に反対したバノン主席戦略官を更迭する動きも出てきています。

 この問題は、深刻に捉えておいた方が良いでしょう。

シリアへの攻撃に反対したとされるバノン主席戦略官。更迭の動きもあるとか…。トランプ政権で重要なポストを担ってきたが、これでお役御免となるのかどうか… (C)Bloomberg/Getty Images

■日米経済対話を前に、先制パンチを食らわせた!? 次に、4月12日(水)に、WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)のインタビューの中で、トランプ米大統領が米ドル相場について発言したことを挙げておきます。内容は、以下のとおりです。

「米ドルは強くなり過ぎていると思う。これはある程度、私のせいでもある。人々が私を信頼しているからだ。しかし、これは痛手となっている。最終的に痛手となる。米ドルが強く、他国が自国通貨を切り下げている状況で競争するのは極めて難しい」

 この時期に、こうした発言が出てきたのは決して偶然ではありません。

 まず、先日、米中首脳会談が行われました。そこでは米中間の貿易不均衡がテーマとなり、これから100日間で、この問題をどう解決するかを検討していくことが合意されました。

 トランプ米大統領は、さすがに中国を「為替操作国」に認定することは避けましたが、それでも中国人民元安に対して何らかのくさびを打ちたいという意図があったのでしょう。

 加えて、トランプ米大統領は「OTHER NATIONS」と、複数の国が自国通貨の切り下げをしていると批判しています。

 当然、日本もその中に含まれていると推察できます。折りしも、4月18日(火)からは、日米経済対話が始まります。その前に、先制パンチを食らわせたということでしょう。

 1月20日(金)に大統領に就任して以来…
なぜ、こんなに米ドルの上値は重たいの? 米ドル/円、近いうちに110円を割り込むか ブログ

なぜ、こんなに米ドルの上値は重たいの? 米ドル/円、近いうちに110円を割り込むか

■米ドル/円は、まだ下落する可能性が高いと考える理由 先週(3月27日~)のIMM(国際通貨先物市場)の通貨先物ポジション状況を見て、やや驚かされました。

 米ドル/円が、110円台にまで米ドル安・円高が進んでいるにもかかわらず、投機筋の米ドル/円のポジションは、まだ、かなりのドルロングだということであります。

IMM(国際通貨先物市場)のポジション状況(詳しくはこちら → 経済指標/金利:シカゴIMM通貨先物ポジションの推移)

 その前の週(3月20日~)に比べれば、たしかにその金額は減少しています。しかし、同じ110円台で推移していた2016年の4月、5月は、逆にかなりのドルショートになっていたことと比べると、非常に対照的です。

【参考記事】

●原油価格反転による安定感は一時的。米ドル/円は戻りのメドを慎重に見極めたい(2016年4月21日、今井雅人)

 このポジションを見る限り、米ドル/円は、まだ下落の可能性が高いと考えておいた方が良いのではないかと、思ってしまいます。

米ドル/円 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)

■ADP雇用統計の好結果に反応するも、勢い続かず ちょうど、このことを示唆するような動きが4月5日(水)にありました。

 毎月、米雇用統計の前に発表される、民間会社が調査しているADP雇用統計の結果が発表されました。

 3月分に関して、予想では前月比18.5万人の増加であったところが、26.3万人の増加という結果となり、米ドル/円も、一時111.50円近辺にまで急騰。しかし、その勢いはまったく長続きせずに反落しています。

■FOMC議事録後も、米ドルの上値は重たかった そして、その後、日本時間の未明、0.25%の利上げを実施した時のFOMC(米連邦公開市場委員会)議事録(3月14日-15日分)が発表されました。

 そこでは、「大部分の参加者は、FF金利(※)の漸進的な上昇が継続すると予想し、FOMCの再投資政策の変更が年内に適切になる可能性が高いと判断した」と記されています。

(※編集部注:「FF金利」とは、フェデラルファンド金利のことで、FFレートとも呼ばれる。米国の政策金利)

 つまりこれから、徐々にではありますが、政策金利が上昇していき、それと同時に、現在、約4兆5000億ドルあるFRB(米連邦準備制度理事会)のバランスシートの縮小開始につながるような政策変更が、年内に行われる可能性が高いと言っているのです。

 英語で「テーパリング」と呼ばれているものです。これも金融引き締めですので、普通に考えれば米ドル高に反応するはずです。

 事実、瞬間的には米ドル高となりましたが、それも続かず、結局、110円台前半にまで反落する展開となっています。非常に米ドルの上値が重い、という印象だけが残った相場展開でした。

米ドル/円 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 1時間足)

 こうした動きになっている一番の背景は…
利上げでも米ドル安の衝撃。自慢はするが トランプ政権は結局、何も前に進んでいない ブログ

利上げでも米ドル安の衝撃。自慢はするが トランプ政権は結局、何も前に進んでいない

■2カ月経っても前に進んでいないトランプ政権 トランプ政権が誕生して2カ月以上が経過しました。この間のトランプ政権はどうであったでしょうか?

 まず、イスラム諸国からの入国を制限した大統領令は、2度にわたり裁判所からNOを突きつけられました。今度、トランプ米大統領がどう対応するのか、まったくわからない状態になっています。

 次に、オバマケア(医療保険制度改革)の廃止と代替法案。これも、先週末、3月24日(金)に米下院で法案の採決が予定されていたにもかかわらず、土壇場になって一部共和党保守派の反対で可決に必要な票がまとめきれずに、採決自体を中止して頓挫しています。

 来週(4月3日~)、再チャレンジがあるようですが、予断を許さない状況です。

トランプ政権誕生から2カ月が経過。イスラム諸国からの入国を制限する大統領令は裁判所に差し止めされ、オバマケア代替法案の採決は撤回される事態に… (C)Chip Somodevilla/Getty images

【参考記事】

●トランプ政権への不安がドル/円の重し!? たとえ戻りがあっても、頭は重くなりそう(3月23日、今井雅人)

 トランプ米大統領は、過去のどの大統領よりも迅速な行動をしていると自慢していますが、結局、何も前に進んでいません。

■大規模なインフラ整備や減税も具体的な形見えず… さらには、市場がもっとも期待していた、大規模なインフラ整備や減税。これも、まったく具体的な形がいまだに見えてきていません。

 外交的にはG20(20カ国・地域財務大臣・中央銀行総裁会議)の場で、反保護主義の文言などを削除させましたが、これもトランプ政権のわがままと否定的に捉えられています。

 結局のところ、まだ何もうまくいっていないどころか、混乱させているだけという状況になってしまっています。

 さらに言えば、為替政策についても、まったく発信がありません。おそらく、頭の中の整理ができていないのでありましょう。

【参考記事】

●「本当にやるの!?」 トランプ氏に市場困惑! 日米首脳会談で、まともな理屈は通じるか(2月2日、今井雅人)

●日米首脳会談最大の注目は為替の議論があるかないか。米ドル/円は110円まで下落も(2月9日、今井雅人)

 こういう状況を反映して、米ドル相場は…
トランプ政権への不安がドル/円の重し!? たとえ戻りがあっても、頭は重くなりそう ブログ

トランプ政権への不安がドル/円の重し!? たとえ戻りがあっても、頭は重くなりそう

■特段、米ドルを買う材料がないまま調整が続く 先週(3月13日~)は、15日(水)のFOMC(米連邦公開市場委員会)後から米ドルロングのポジション調整が急速に行われました。

米ドルVS世界の通貨 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 4時間足)

 前回のコラムで指摘したように、「本来であれば、金利引き上げの方向性がはっきりしてきているわけであるから、もう少し米ドル高レベルでの推移となっていなければつじつまが合わない」との違和感は変わらず持ち続けています。

【参考記事】

●米利上げ実施。なのにドルは全面安に! 神経質な動きの原因は、トランプ大統領?(3月16日、今井雅人)

 しかし、やはり何度もお伝えしているとおり、市場はトランプ政権の行方にまだまだ確信が持てず、「特段、米ドルを買っていく材料がない」まま、米長期金利の動向についてまわるように、米ドル/円は連日、上値を切り下げる動きが続いています。

米ドル/円 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)

米長期金利(米10年債利回り) 日足(出所:Bloomberg)

■G20や日米財務相会談は市場のテーマとしては材料不足 3月17日(金)~18日(土)にはG20(20カ国・地域財務大臣・中央銀行総裁会議)が独バーデン=バーデンで開催されましたが、コミットされた声明文は大方の予想どおりの結果。

 簡単にまとめれば、為替に関する文言は一言一句、前回の中国成都で行われたG20から変更はなく、為替レートに対して何ら問題提起されていないことがわかりました。

 そのかわり、米国の要請で前回まで盛り込まれていた「我々はあらゆる形態の保護主義に対抗する」との文言が削除されたと同時に、「我々は、経済成長の追求にあたって、過度の世界的不均衡を縮小し、更なる包摂性及び公正を促進し、格差を削除するために努力する」という文言が付け加えられました。

 「自由貿易」から「貿易不均衡是正」へと焦点が移された形となりましたが、あくまでも「経済成長追求」のためという理由づけとなっており、表面的には「米国のため」という一国の主張ではないという配慮も施されています。

 同時に開催された日米財務相会談でも、「為替の急変は世界経済の安定に悪影響を与えるとの考えで一致した」ことが表明されましたが、そもそも「無秩序な動きではない為替市場」に注文をつけるワケもなく、こちらもまた「市場のテーマ」とするには材料不足だったといえます。

 そんななか、米下院では本日…
米利上げ実施。なのにドルは全面安に! 神経質な動きの原因は、トランプ大統領? ブログ

米利上げ実施。なのにドルは全面安に! 神経質な動きの原因は、トランプ大統領?

■予想どおり! 米雇用統計を経て利上げ条件は整った 前回のコラムでは、米雇用統計で「予想どおり、あるいは予想を上回る結果となった場合、3月の利上げはほぼ確実になってくると思います。個人的には強い数字が出ることを期待していて、3月15日(水)には利上げが実施されると考えています」とお伝えしました。

【参考記事】

●米ドル/円115円近辺には、何があるのか!?3月米FOMCで利上げ実施でも冷静な対応を(3月9日、今井雅人)

 3月10日(金)に発表された2月の米雇用統計は、平均時給こそ予想を下回ったものの、非農業部門雇用者数や失業率は、いずれも予想を上回る強い結果となり、米雇用市場の力強さを裏付ける形となりました。

 市場の反応は、これまでの米ドル買いの利食い売りという相場展開となりましたが、3月FOMC(米連邦公開市場委員会)での利上げの条件は整いました。

■0.25%利上げ! 米ドルはもう一段買われるはずだが… そして、日本時間3月16日(木)午前3時に発表されたFOMC声明文では、予想どおり、FF金利(※)の誘導目標を0.75%-1.00%へ、0.25%引き上げることを決定しました。


(※編集部注:「FF金利」とは、フェデラルファンド金利のことで、FFレートとも呼ばれる。米国の政策金利)

※FRB発表のデータより、ザイFX!編集部が作成

 インフレに対する見通しも強めに修正しているほか、金利の今後の引き上げペースも、前回までの「only gradual」から「gradual」としています。イエレンFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、会見で「あまり深い意味はない」との認識を示してはいますが、明らかに「金利引き上げペース」が、これまでよりもアップしていることがわかります。

 また、声明文の文言こそ前回までと一言一句、同じ表現となりましたが、「満期保有資産の再投資」について、「方針変更の協議を開始したが、結論は得られなかった」ということも、イエレンFRB議長が自ら説明しました。

 これらは、いずれも「利上げ」と「資産圧縮」という「金融政策の正常化」に向けた動きが本格的に始まったことを意味しており、本来であれば、米ドルがもう一段と買われていなければならない状況です。

■利上げされたのに、なぜ米ドルは売られたのか? しかし、市場は米ドルの全面安と米長期金利の大幅な低下という反応を示しました。

米ドルVS世界の通貨 1時間足

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 1時間足)

米長期金利(米10年債利回り) 1時間足(出所:Bloomberg)

 0.25%の利上げが100%織り込まれていたことは周知の事実でしたが、直前になって、声明文と同時発表される「経済・金利見通し」において、FOMC(米連邦公開市場委員会)メンバー全員のFF金利予想が「年内4回」に上方修正されるのではないか?といった憶測が台頭しました。

 前回、2016年12月時点では、2017年末の予想中央値が1.375%(0.25%ずつ年3回の利上げ)であったことから、もしそうであるならば一気に1.625%まで上昇していることになるはずです。

 そこまでは上がっていなくても、少なくとも何らかの上方修正が行われるのではないか?といった予想が高まっていたことは事実です。

 しかし、3月16日(木)午前3時に公表された数字は、2017年末が1.375%、2018年末も2.125%。前回の中央値のままであることが分かると、前のめりになっていた市場は、一気に米ドル売り、米債買い戻しの動きに走ることになりました。

【参考記事】

●FOMC金利見通し引き上げでドル急上昇!過熱感がない相場はなかなか止まらない(2016年12月15日、今井雅人)

 アジア市場に入ってからは…
米ドル/円115円近辺には、何があるのか!? 3月米FOMCで利上げ実施でも冷静な対応を ブログ

米ドル/円115円近辺には、何があるのか!? 3月米FOMCで利上げ実施でも冷静な対応を

■「強い米ドル」か? 「短期的な米ドル高牽制」か? 為替市場の動きは、非常に鈍い状況が続いています。

 以前にも当コラムで説明しましたが、米国の経済済状況を考えれば、もっと米ドル高になってもおかしくないのですが、やはりトランプ政権の為替政策が、「強い米ドル」を志向していくのか、または通商問題に焦点を置いて「短期的な米ドル高牽制」を強めていくのか、まだよくわからないということが、米ドルの重しとなっているのだと考えられます。

【参考記事】

●米国追加利上げ可能性がググっと高まる! なのに、米ドルを買いきれないのはなぜ?(3月2日、今井雅人)

●利上げ期待高まって上昇した米ドル/円。けれど、115円手前で失速した理由とは?(2月16日、今井雅人)

米ドル/円 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 4時間足)

■市場の注目は、3月FOMCでの利上げの有無 そうした環境下ですので、なかなか大きな動きを期待しづらいのですが、それでも、米国の利上げがいつあるのか?という点には、市場の注目がはっきりと集まってきています。

 具体的に言えば、来週の3月14日(火)-15日(水)にFOMC(米連邦公開市場委員会)が開催されますが、そこで利上げがあるかどうかということが焦点となっているのです。

 イエレンFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、3月3日(金)の講演で、「直近の経済指標が良ければ、3月利上げはあり得る」というニュアンスの発言をしています。

 そうなると、明日3月10日(金)の米雇用統計2月分の結果が非常に重要になってきます。

■期待が高まる米雇用統計! 好結果なら3月利上げは確実か 3月8日(水)に発表された、民間会社が調査している米ADP全国雇用者数2月分は前月比29.8万人増加と、市場予想の18.9万人を上回る結果となりました。これは、2014年4月以来の大幅な増加です。

 これで、3月10日(金)の米雇用統計の数字も、良いものが出てくるのではないか?という期待が高まっています。

米ADP全国雇用者数の推移(出所:Bloomberg)

 ちなみに、3月10日(金)の米雇用統計2月分は、現時点では失業率が4.7%、非農業部門就業者数が前月比20.0万人の増加という予想です。予想どおり、あるいは予想を上回る結果となった場合、3月の利上げはほぼ確実になってくると思います。

 個人的には強い数字が出ることを期待していて、3月15日(水)には利上げが実施されると考えています。FF金利先物(※)から算出される3月FOMCでの利上げ確率も、とうとう100%となりました。

(※編集部注:「FF金利先物」とは、米国の政策金利であるFF(フェデラル・ファンド)金利を参照するデリバティブ商品。米国の金融政策に関する市場見通しの参考指標とされる)

※Bloombergのデータより、ザイFX!編集部が作成

 しかし、もしそうであったとしても…
米国追加利上げ可能性がググっと高まる! なのに、米ドルを買いきれないのはなぜ? ブログ

米国追加利上げ可能性がググっと高まる! なのに、米ドルを買いきれないのはなぜ?

■米国の追加利上げ可能性が、ググっと高まった いよいよ、米国の追加利上げの可能性が高まってきました。

 これまで、ダドリー・ニューヨーク連銀総裁やウィリアムズ・サンフランシスコ連銀総裁をはじめとするFRB(米連邦準備制度理事会)の関係者が利上げに関して前向きな発言をしてきましたが、本日3月2日(木)早朝には、FOMC(米連邦公開市場委員会)メンバーの中でも、もっともハト派として知られているFRBのブレイナード理事が、講演で米国の利上げに関して「すぐに適切になりそうだ」と発言しました。

ハト派として知られているFRBのブレイナード理事。米国の利上げについて「すぐに適切になりそうだ」などと発言し、ますます米利上げ期待が高まってきた!(C)Bloomberg/Getty images

 もう少し詳しく言うと、「前進が続くと想定すると、追加的な緩和を解除し、緩やかな道筋をたどり続けることがすぐに適切になりそうだ」と指摘。

 「我々は完全雇用に近付いており、インフレは我々の目標に緩やかに向かっている。海外の経済成長は足元が固まりつつあり、見通しへのリスクは過去に見られていたような均衡に近い」と説明したわけです。

 これで、3月14日(火)~15日(水)に行われるFOMCで0.25%の利上げを実施する可能性が、相当、高くなってきました。

■米国の雇用状況を見ると、利上げ余地は大きい もともと、米国の雇用状況はリーマンショックで大幅に悪化していましたが、現在は普通の景気状況の時の水準に戻っています。

※Bloombergのデータより、ザイFX!編集部が作成

 大体、5%程度の失業率の時は、米国の政策金利は4~5%程度はありました。それが現在は、0.50%-0.75%。まだまだ、金融はかなり緩んでいる状態ですので、利上げの余地は大きくあります。

※FRB発表のデータより、ザイFX!編集部が作成

■消費者物価指数は、目標値2%を上回ってきた また、消費者物価指数は上昇傾向にあり、目標値の2%を上回ってきています。

【参考記事】

●利上げ期待高まって上昇した米ドル/円。けれど、115円手前で失速した理由とは?(2月16日、今井雅人)

※Bloombergのデータより、ザイFX!編集部が作成

 FRB、FOMCの役目は、法律で「物価を安定させること」と「雇用を拡大させること」の2つと定められています。

 物価が上昇してきて、雇用はすでに拡大しているのではあれば、当然、利上げしていくということになるわけですから、ごく自然の流れでしょう。

 また、3月1日(水)には…
早ければ3月? 近い将来の米利上げは 確かだが、米ドル/円は目先レンジ相場か ブログ

早ければ3月? 近い将来の米利上げは 確かだが、米ドル/円は目先レンジ相場か

■米ドル/円は115円のオプションが壁になった 先週のコラムでは、「どうやら、米ドル/円の115.00円に大量のオプションがあって、短期筋が買い仕掛けをしたのをブロックしてしまい、買い手が投げさせられてしまったということのようです。2月17日(金)には、このオプションもかなり行使期限が来るようですので、その後、米ドルが上昇する可能性は高いのかなと考えています」と見通しをお伝えしました

【参考記事】

●利上げ期待高まって上昇した米ドル/円。けれど、115円手前で失速した理由とは?(2月16日、今井雅人)

 しかし、オプションの行使期限が到来した17日(金)には、米国の3連休を控えたNY勢から、ロングポジションの調整売りが断続的に持ち込まれ、結局、米ドル/円は112.619円まで値を下げる結果となってしまいました。 

2月17日(金)の米ドル/円 15分足(出所:Bloomberg)

 米ドル/円は15日(水)に115.00円をトライしましたが、最近では最大級ともいえるドルコールオプションの存在が、いくら強い米指標が出ようとも、いくら米長期金利が上昇しようとも、そして、いくら米ドル/円を買おうとも、まだまだリスク嗜好が高まっていない現状の為替市場において、開けることができない頑丈な蓋となってしまったわけです。

米ドル/円 4時間足(出所:Bloomberg)

■FOMCメンバーは3月利上げの可能性を示唆 この目先のロングポジションによって、週末の17日(金)までポジション調整を余儀なくされることになりました。

 そんな状況のなか、今週(2月20日~)、米国の3連休明けの21日(火)、東京市場では注目される動きがみられました。

 朝方から米ドル/円に「本邦実需勢」の「腰を据えた買い」が断続的に観測されるなか、ハーカー米フィラデルフィア連銀総裁の「3月利上げは排除しない」との発言が飛び込んでくると、連休明けの短期投機筋も買い出動。

 下押しらしい下押しもないまま、米長期金利の上昇とともに、日経平均と米ドル/円の買いが続くことになりました。

2月21日(火)東京時間の米ドル/円 5分足(出所:Bloomberg)

2月21日(火)の日経平均 5分足(出所:Bloomberg)

 ハーカー総裁といえば、今年のFOMC(米連邦公開市場委員会)投票メンバーのなかでも「タカ派」で知られていますが、市場では「具体的な時期に言及したことはサプライズ」との声も聞かれています。

 しかしながら、市場の3月FOMCでの…
利上げ期待高まって上昇した米ドル/円。 けれど、115円手前で失速した理由とは? ブログ

利上げ期待高まって上昇した米ドル/円。 けれど、115円手前で失速した理由とは?

■日米首脳会談で為替政策は先送り、まずは一安心 注目された日米首脳会談ですが、とりあえず問題を先送りして、為替政策についても今後、両金融当局、つまり、財務省同士で話し合いをしようということで、いったん落ち着きました。まずは一安心というところでしょうか。

日米首脳会談では具体的な問題に関する言及はなく、為替政策は今後、両国の財務相をトップに議論することが決まった (C)Chip Somodevilla/Getty Images

【参考記事】

●日米首脳会談最大の注目は為替の議論があるかないか。米ドル/円は110円まで下落も(2月9日、今井雅人)

 ただ、ムニューチン新米財務長官は、長期的には米ドル高が望ましいが、短期的には現在の米ドルの水準は高すぎるという認識をすでに示しています。3月に麻生財務大臣と初会談をする予定となっているので、そこでの議論に注目をしておきたいと思います。

米財務長官に任命されたムニューチン氏は、短期的な米ドルの水準は高すぎるとのスタンス。3月の麻生財務大臣との初会談が注目される (C)Bloomberg/Getty Images

【参考記事】

●「米ドル高の弊害」へ言及があれば一気にセンチメント逆転か。「その時」を警戒せよ!(2016年12月1日、今井雅人)

■イエレン議長の発言は利上げが早まることを示唆? さて、目先の政治的なリスクがとりあえず先送りされた状況の中で、その後は米国の景気状況、金融政策に注目が移っています。

 一番の注目は「米国がいつ利上げをするのか? 今年、何回の利上げを実施するのか?」という点です。その点を占うのに重要な発言が今週ありました。

 14日(火)、上院銀行委員会で開催された半期に一度の議会報告の中で、イエレンFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、「FOMC(米連邦公開市場委員会)会合はまったく予断を持たずに協議する」とした上で、「緩和解除を長く待ち過ぎるのは賢明ではない。待ち過ぎればFOMCは最終的に急速なペースで、利上げを迫られる可能性があり、金融市場を混乱させ、経済を景気後退に追いやるリスクが生じる恐れがある」と発言をしました。

 この発言を市場は、利上げが早まることを示唆しているのではないかと受け取り、米ドルが上昇しました。

米ドルVS世界の通貨 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 1時間足)

 15日(水)も、重要な経済指標が…
日米首脳会談最大の注目は為替の議論が あるかないか。米ドル/円は110円まで下落も ブログ

日米首脳会談最大の注目は為替の議論が あるかないか。米ドル/円は110円まで下落も

■いよいよ日米首脳会談、為替の動きを占うビッグイベント 今日は2月9日(木)。いよいよ明日10日(金)は日米首脳会談です。今後の金融市場、特に為替市場の動きを占うビッグイベントです。

 当初、トランプ氏の経済政策は米国への資金還流を促し、さらにインフレ傾向になって米金利も上昇していくことから、米ドル高に向かうという見方が市場でも大半を占めるようになっていました。

トランプ氏の経済政策で、為替は米ドル高に向かうとの見方が大半を占めるようになっていたが… (C)Chip Somodevilla/Getty Images

 しかし、その後、トランプ米大統領本人や政権幹部から、日本は通貨安誘導をしているとか、現在の米ドルは高すぎるとか、あるいは今後、日米の二国間通商交渉を行い、その中に為替条項を入れるとか、円高圧力がかかるような発言が相次いで飛び出しました。

 そのことで市場の雰囲気が一変して、米ドル/円も一時、111円台半ばまで米ドル安・円高が進行しています。

米ドル/円 4時間足(出所:Bloomberg)

■為替の話が出なければ、米ドル/円は上昇しそう さて、日米首脳会談の結果はどうなるか?

 最大の注目点は、為替相場についての議論がなされるかどうかということです。

 このテーマが持ち出された場合、トランプ米大統領は日本側がどんな説明をしても、納得することはないでしょう。

 しかし、日本側が為替以外の点でトランプ米大統領を満足させるような経済パッケージを示せれば、今回は為替の話はしないようにするという姿勢に変わる可能性はあります。もし、為替の話が出なければ、会談後に米ドル/円はある程度、上昇する公算が高いと考えています。

米ドル/円 日足(出所:Bloomberg)

【参考記事】

●「本当にやるの!?」 トランプ氏に市場困惑! 日米首脳会談で、まともな理屈は通じるか(2月2日、今井雅人)

 しかし、すべてはトランプ米大統領次第…