今井雅人の「どうする? どうなる? 日本経済、世界経済」

NYダウ急落は下落相場の始まりではない!? 想定どおり調整のドル/円は111円台を買い ブログ

NYダウ急落は下落相場の始まりではない!? 想定どおり調整のドル/円は111円台を買い

■NYダウ急落は一方的な上昇の反動 10月10日(水)、米国の株式市場が総崩れとなりました。

 NYダウは、前日比831.83ドル安の25598.74ドルと、大幅な下落のまま引けを迎えています。

NYダウ 日足(出所:Bloomberg)

 下落を誘引する直接的な材料が、あったわけではありません。端的に言えば、今までの強気相場の調整です。

 NYダウは、7月頃から、ほぼ一方的な上昇を続けてきて、直近では史上最高値を更新していました。その反動が今、出ているということです。

■金利上昇が株の下落要因であることを確認 こうした調整が起きている原因として考えられるのが、米国の長期金利の動向と、トランプ米大統領が進めてきている、他国との関税競争への懸念です。

 米国の10年物国債の利回りは、今年(2018年)のこれまでの高値圏であった3.1%台を、完全に上に抜けてきています。

米長期金利(米10年債利回り) 日足(出所:Bloomberg)

 米国の経済状況が好調であることが、長期金利上昇の要因であることは当然のことであり、金利水準が高くなってきていることで、米ドル高になる効果も、ここのところ出てきていました。

米ドルVS世界の通貨 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 日足)

 しかし、一方で、あまり金利が高くなり過ぎると、企業収益の圧迫要因になってくるという、マイナスの面もあります。

 経済状況が好調なことを背景に、株式市場が好調だったのでありますが、好調な経済を背景にした金利上昇が、逆に株式市場の下落要因になるという両面を持っているということが、今回の株式市場の動きから、改めて確認されました。

■米中貿易摩擦の影響は第4四半期に表面化!? もう1つの原因が、関税問題です。

 トランプ米大統領の通商交渉に関しては、これまで何度も取り上げてきました。本当の影響が出てくるのは、これからです。

【参考記事】

●雲を上抜けた米ドル/円は113円を目指す! 対中関税第3弾発動でも市場はリスクオン?(9月21日、今井雅人)

●市場に影響与えそうな2つの懸念事項とは? 米ドル/円は110~113円程度のレンジ相場に(9月6日、今井雅人)

 トランプ米大統領は、3度にわたって、中国への追加関税措置を講じてきました。

 その第3弾の対象となる輸入品の総額は、2000億ドルという、これまでで最大の金額になっていますが、9月24日(月)から、10%の関税措置がスタートしています。

 その影響が本格的に出てくるのは、今年(2018年)の第4四半期(10月~12月)の企業業績からでしょう。

米国はすでに計2500億ドル相当の中国からの輸入品に関税措置を発動している。その影響が第4四半期の企業業績に出てきそうだというのが、今井氏の考えだ。写真は2017年11月の米中首脳会談時のもの (C)Bloomberg/Getty Images

 株式アナリストの中にも、第4四半期の業績悪化を懸念する声が、これから出てくるかもしれないので、今後、注意しておきたいと思います。

 ところで、今回の急落が、今後の下落相場の始まりの端緒となるとは…
米ドル/円は短期的に買われ過ぎている! でも、当面は米ドル高。押し目買い方針で ブログ

米ドル/円は短期的に買われ過ぎている! でも、当面は米ドル高。押し目買い方針で

■米10年物国債利回りは2011年以来の水準へ上昇! 足元で、米国の長期金利が上昇しています。

 10月3日(水)には、米国の10年物国債の利回りが、これまでなかなか超えられなかった、5月18日(金)の3.1261%を上に抜けて、2011年以来の高水準となりました。

米10年物国債利回り 月足(出所:Bloomberg)

 また、30年物国債の利回りも3.3706%と、こちらも2014年以来の高水準となっています。

米30年物国債利回り 月足(出所:Bloomberg)

 そのきっかけとなったのは、9月分のISM非製造業景況指数の総合指数が、予想値をはるかに上回る61.6という高い結果となったことでした。これは、実に21年ぶりの高水準でした。

※ISMのデータを基にザイFX!が作成

■さらなる米利上げペースの加速が意識される!? 先日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、政策金利の0.25%の引き上げが決定され、FF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標は、2.00~2.25%となりました。

 米国はすでに、先進国でもっとも高い水準の政策金利となっていますが、各国との差が、さらに開くことになりました。

【参考記事】

●米国と他の先進国の金利差は今後も拡大。米ドル/円は押し目買いのチャンス狙い!(9月27日、今井雅人)

※日本の政策金利は短期政策金利の値を掲載

※FRB、各国の中央銀行のデータを基にザイFX!が作成

 また、その先の予想としては、今年(2018年)12月に、さらに0.25%、来年(2019年)は3回、2020年は1回の利上げが予想され、それでいったん、利上げも終了ということになっています。

 この先、今回のISMのような強い数字が出てくれば、「さらなる利上げペースの加速か」という見方も出てくるでしょう。

■マクロ環境、金利環境に素直に反応した相場展開へ こうした環境下で、米ドル高になってきていますが、マクロ環境、金利環境に素直に反応した相場展開になってきたということです。

米ドルVS世界の通貨 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 日足)

 そして、その素直な流れを作っているのが、その他のリスク要因への不安感の低下ということです。

 米中の通商交渉は、米国が3度目の追加関税措置を実施しましたが、今のところ、目に見えるほどの影響は出ていません。もちろん、今後の展開については予断を許さないのですが、今すぐに、市場に影響が出るような状況ではないことは、はっきりしてきています。

【参考記事】

●雲を上抜けた米ドル/円は113円を目指す! 対中関税第3弾発動でも市場はリスクオン?(9月21日、今井雅人)

 もう1つのリスク要因であった新興国通貨の下落、あるいは新興国経済の不安定化に関しては…
米国と他の先進国の金利差は今後も拡大。 米ドル/円は押し目買いのチャンス狙い! ブログ

米国と他の先進国の金利差は今後も拡大。 米ドル/円は押し目買いのチャンス狙い!

■リスクオンの株高・円安が継続 ここ1週間で、日経平均は堅調に推移し、一時、2万4000円の大台に乗せる動きを見せています。

日経平均 日足(出所:Bloomberg)

 為替市場でも、全体的に円安傾向が続いています。

世界の通貨VS円 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 日足)

 その背景になるのが、ここのところのリスクオンムードの高まりです。

 これに関しては、前回、前々回の当コラムで紹介してきましたが、その流れは依然として、継続しているということです。

【参考記事】

●雲を上抜けた米ドル/円は113円を目指す! 対中関税第3弾発動でも市場はリスクオン?(9月21日、今井雅人)

●トルコ政策金利発表などの不安乗り切れば米ドル/円は「雲」を上抜け、113円が視野に(9月13日、今井雅人)

■米国の利上げは米ドルに有利な材料 足元の環境を、少し整理してみます。

 9月25日(火)~26日(水)に、米国ではFOMC(米連邦公開市場委員会)が開催され、市場の予想どおり、政策金利の0.25%引き上げが決定しました。

 これで、政策金利であるFF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標は、2.00%~2.25%となりました。

※FF金利誘導目標の上限を掲載

※FRBのデータを基にザイFX!が作成

 米国は、先進国で唯一、政策金利の引き上げを継続してきており、他の先進国との金利差は、ますます拡大したことになります。

※日本の政策金利は短期政策金利の値を掲載

※FRB、各国の中央銀行のデータを基にザイFX!が作成

 これは、明らかに米ドルにとっては有利な材料です。

■金利差を背景にした米ドル買いはさらに優勢に そして、同時に公表されたメンバー全員による今後の見通しでは、年内(恐らく12月)にもう1回、そして来年(2019年)にあと3回の利上げを実施することが示唆されています。

2018年9月FOMCで示されたドットチャート(出所:FRB)

 また、今回から、現在の金融政策を「緩和的」と呼ぶことをやめました。つまり今後、ますます先進国との金利差は拡大していく可能性が高まったということです。

 とくに、日本は当面、利上げが実施される見通しがまったくない国であり、米ドル/円を考えてみると、金利差を背景にした米ドル買いというのは、中期的にはさらに優勢になっていく環境が整ったといえます。

 2つ目は、日米の通商交渉の行方です。今週(9月24日~)、安倍総理と…
雲を上抜けた米ドル/円は113円を目指す! 対中関税第3弾発動でも市場はリスクオン? ブログ

雲を上抜けた米ドル/円は113円を目指す! 対中関税第3弾発動でも市場はリスクオン?

■NYダウが史上最高値を更新! 今週(9月17日~)に入って、NYダウなどが米国の株式市場で、史上最高値を更新しています。

NYダウ 日足(出所:Bloomberg)

 世界の金融市場を取り巻く環境には、不安定要因がいくつかあるものの、そんな中でも、金融市場は強気相場が続いています。

■株高の背景には先進国の景気安定 そのベースにあるのは、やはり米国を中心に、先進国の景気が好調であるということでしょう。

 米国は雇用環境が急速に改善し、なかなか低迷から抜け出せなかった賃金にも、ようやく上昇傾向が見られるようになってきました。

※米労働省労働統計局のデータを基にザイFX!が作成

 FOMC(米連邦公開市場委員会)は、継続的に政策金利を引き上げてきましたが、それをこなして米国経済は、依然として好調です。

 さらに、日本をはじめ、欧州各国なども、基本的に景気は安定しています。

■いつ貿易戦争に突入してもおかしくないのに… さて、一方の不安定要因に目を向けてみます。

 まず、トランプ米大統領は中国に対して、2000億ドル相当の輸入品に追加関税を課すことを明らかにしました。これで3度目です。

 関税はまず、9月24日(月)から10%、来年(2019年)からは25%の課税となります。

 また、中国の出方次第では、さらなる関税措置を講じ、中国からの輸入品全額に対して、課税をすることも検討していると、トランプ大統領は発言しています。

 普通に考えれば、貿易戦争に突入していってもおかしくない事態ではありますが、市場の反応は鈍いです。

米中の関税の掛け合いは貿易戦争に突入していってもおかしくない事態なのに、市場の反応は限定的。市場は、すでに3度目の措置で慣れてしまったこと、これまでも結局、金融市場が崩れなかったことが原因か。写真は2017年11月の米中首脳会談時のもの (C)Bloomberg/Getty Images

 それは、今回の措置が3度目で慣れてきてしまっていること。これまで、2度の課税措置においても、金融市場が結局、崩れなかったことが背景にあります。

■当面、米中貿易戦争は市場に大きな影響を与えずか また、ムニューシン米財務長官を中心に、水面下で中国と交渉が続けられていますが、米国も中国も、自国経済だけでなく、世界経済全体を壊すようなことはしないと楽観している面もあるでしょう。

米国がムニューシン米財務長官を中心に水面下で中国と交渉を続けていることが、米国と中国が自国経済だけでなく、世界経済全体を壊すようなことはしないという楽観的な見方を生んでいるというのが今井氏の考え (C)Bloomberg/Getty Images

 1度目と2度目のときは、短期的にリスクオフになる局面もありましたが、今はもう、そういう反応をする参加者がいなくなってしまいました。

 たしかに、中期的にはまだ不安材料ではありますが、当面は、大きな影響はなさそうな状況になってきたということです。

 2点目の不安定要因は、新興国経済への不安です。先日、トルコ中銀は…
トルコ政策金利発表などの不安乗り切れば 米ドル/円は「雲」を上抜け、113円が視野に ブログ

トルコ政策金利発表などの不安乗り切れば 米ドル/円は「雲」を上抜け、113円が視野に

■金融市場に方向感が出ない原因とは? 先週(9月3日~)から今週(9月10日~)にかけて、金融市場では、特に何か状況が変わったことはなく、相変わらず株式市場、為替市場ともに方向感を失った展開が続いています。

 方向感を出せない大きな原因は、いくつかの不確定要因があるからだということは、前回のコラムで紹介したとおりです。

【参考記事】

●市場に影響与えそうな2つの懸念事項とは?米ドル/円は110~113円程度のレンジ相場に(9月6日、今井雅人)

 そのうちの1つである米中の通商交渉に、少し前進が見られているので、まずは、それについて考えてみます。

■米中合意ならリスクオン! 摩擦回避に向けて新提案 今週(9月10日~)、米政府は、一段の経済摩擦を回避するために、中国に対して新たな通商交渉を提案したことを、クドローNEC(国家経済会議)委員長が明らかにしました。

 交渉は、ムニューシン米財務長官が主導して行っているようです。

米政府は、中国に対して新たな通商交渉の提案を行ったと公表。主導しているのはムニューシン米財務長官だそうだ。双方譲らぬ関税合戦が、いったいいつまで続くのか…?と思われた米中貿易戦争だが、ようやく収束に向けて舵が切られたのか? (C)Bloomberg/Getty Images

 トランプ米大統領は、中国に対して2000億ドルに加えて、さらに2670億ドルにおよぶ追加の関税措置を講じようとしているという報道があり、市場は非常に神経質になっていました。

 そこに、こういう発言が出てきたことが、市場にとっては明るい材料です。

 この通商交渉も、どこかで決着をしなければいけないのは当然のことではありますが、米中がお互いに一歩も譲らない状況が続いており、先行きがまったく見通せない状況にありました。

 しかし、米国側から交渉を持ちかけていることで、何らかの合意がなされる可能性が出てきました。

 仮に、何らかの合意がなされれば、金融市場は好感し、株式市場にもプラスの影響が出るでしょうし、為替市場はリスクオンで円安の方向に向かうでしょう。

NYダウ 日足(出所:Bloomberg)

世界の通貨VS円 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 日足)

■次のターゲットは日本! その時は円売りのチャンスと考える NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉では、米国とカナダの2国間協議が大詰めにきていると、トランプ米大統領が明らかにしています。これも合意がなされれば、金融市場にとってはプラス材料となるでしょう。

 ただ、1点気をつけておかなければいけないのは、EU(欧州連合)との交渉が新しいステージに入り、中国やNAFTAとの交渉にメドが立つと、次は間違いなく、日本がターゲットになるということです。

 すでにトランプ米大統領は、日本に対して牽制球を投げてきています。

 次に日本との交渉が本格化すれば、そのときは、一時的に円高になる可能性があります。

 しかし、その局面は、絶好の円売りのチャンスになるのではないかと考えています。

米ドル/円 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)


 さて、今週(9月10日~)、日本の半導体大手ルネサスエレクトロニクスが…
市場に影響与えそうな2つの懸念事項とは? 米ドル/円は110~113円程度のレンジ相場に ブログ

市場に影響与えそうな2つの懸念事項とは? 米ドル/円は110~113円程度のレンジ相場に

■金融市場に2つの懸念事項がある 現在の金融市場で、今後の動向に大きく影響を与える可能性がある懸念事項が2つあります。

 1つ目は、トランプ米大統領の通商交渉です。現在、トランプ米大統領が各国、地域に対して、関税等について厳しい要求を突きつけているのは、周知のとおりです。その状況を、簡単におさらいしてみます。

 日本に対しては、2国間での貿易協議が開始されましたが、今のところ、具体的なものは何も出てきていません。今後の動向に注視しておく必要があります。

金融市場に大きな影響を与えそうな懸念事項の1つが、トランプ大統領の通商交渉。8月には日米通商協議が開催されたが、今のところ、具体的なものは何も出てきていない。写真は2018年4月の日米首脳会談時のもの (C)Joe Raedle/Getty Images

■米国とカナダの溝は埋まらない状況… 次に、対EU(欧州連合)です。こちらは、自動車を除く工業製品の関税撤廃、米国産大豆、LNG(液化天然ガス)の対EU輸出に関して、交渉を開始することになりました。

 自動車を除いたと言う点がポイントで、とりあえず、深刻な対立は避けることができそうな状況となっています。

 次に、NAFTA(北米自由貿易協定)。米国は、メキシコとは合意にたどり着いたものの、カナダとは依然として、溝が埋まらないままです。米国としては、今月(9月)中に片をつけたいと考えているようですが、カナダ側は慎重な姿勢を崩していません。

 昨日(9月5日)から再協議が再開されていますが、今後、交渉が難航すれば、金融市場にも影響が出てくる可能性があります。

■対中国で2000億ドル相当の追加関税発動が間近に!? そして、もっとも注目されるのは、対中国です。

 これまで、2度にわたって中国に対して関税措置を講じてきましたが、トランプ大統領は3度目の措置を講じようとしていると報じられています。

 今回は、2000億ドル相当の中国製品に対する関税措置を、9月6日(木)中にも発表するのでないかと言われています。さらなる措置が講じられると、益々、貿易戦争に突入する可能性が出てくるので、その動向からは目が離せません。

【参考記事】

●米国の対中関税第3弾が今週にも発動!? 米ドル安に誘導したいトランプはどう動く?(9月3日、西原宏一&大橋ひろこ)

●米中間選挙前の米ドル/円は下がりやすい! 2000億ドルの対中関税は米国にも悪影響!?(9月4日、バカラ村)

トランプ大統領は早ければ9月6日(木)中にも中国に対して2000億ドル規模の追加関税発動を発表するのではと言われている。そうなると、益々、貿易戦争に突入していくことになりそう… (C)Bloomberg/Getty Images

 ただし、3度目ということで、これまでの2回よりは、金融市場は冷静に対応するでしょう。

■アルゼンチンは政策金利60%でも通貨安が止まらない 2つ目の懸念事項は、新興国での通貨下落です。

 米国の利上げによって新興国から資金が流出し、新興国通貨が下落する(米ドル高)という展開が続いていますが、ここにきて、その流れがさらに鮮明になってきています。

 アルゼンチンは、アルゼンチンペソの急落を止めるために、8月30日(木)に政策金利を45%から60%に引き上げました。

※アルゼンチン中央銀行のデータを基にザイFX!が作成

 しかし、アルゼンチンペソの下落は、歯止めがかからない状況にあります。

米ドル/アルゼンチンペソ 日足(出所:Bloomberg)

 トルコは、エルドアン大統領が中央銀行に利上げをさせないように…
ポンドやユーロが今後も上昇する可能性は 低い!? 米ドル/円はジリジリと113円へ! ブログ

ポンドやユーロが今後も上昇する可能性は 低い!? 米ドル/円はジリジリと113円へ!

■何があった? 英ポンドが急激な上昇! 今週(8月27日~)、外国為替市場の中で、1番大きな動きを見せたのは、英ポンドでした。

 英ポンド相場は、これまでEU(欧州連合)離脱において、非常に厳しい状況をもたらすのではないかという不安感が広がっていたことで、下落傾向を続けてきました。

英ポンド/米ドル 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/米ドル 日足)

 しかし、今週(8月27日~)、英ポンドは各通貨に対して、急激な上昇を見せています。

 そのきっかけとなったのが、EUのバルニエ主席交渉官の発言でした。

 バルニエ氏は8月29日(水)に、ドイツのマース外相との会談後、「他のどの第三国とも交わしたことがないような相互関係を、英国に提供する用意がある」とし、また、「英国の譲れない一線は尊重する」と発言しました。

 この発言を受けて、EU離脱への不安感がかなり払拭され、英ポンドは一気に上昇しました。

英ポンド/米ドル 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/米ドル 1時間足)

英ポンド/円 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/円 1時間足)

■ショートカバーが一巡すれば上昇止まりそう ただ、これは、市場環境によるところが、1番の原因のようです。

 先週末の8月24日(金)に発表された、8月21日(火)時点のIMM(国際通貨先物市場)における非商業ベースのポジション動向では、英ポンド/米ドル、つまり、米ドルに対する英ポンドのポジションが7万2338枚の売り越しと、大幅なショート(売り)に傾いていました。

IMM(国際通貨先物市場)のポジション状況(英ポンド/米ドル)8月21日時点(詳しくはこちら → 経済指標/金利:シカゴIMM通貨先物ポジションの推移)

 そうしたところに、バルニエ主席交渉官の発言が出たので、ショートカバーの材料に使われたという面が大きいと思います。

 バルニエ主席交渉官の発言をもってして、英国のEU離脱への不安感が解消するわけではないでしょうから、ショートカバーが一巡すれば、英ポンドの上昇は止まるでしょう。

■NAFTA再交渉は合意に近づく。米ドルにはプラスに さて、次にトランプ米大統領の動向です。

 トランプ米大統領は、NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉において、メキシコと大筋合意したと発言しました。そして、その後、カナダともほぼ、合意に近づいているという話も出てきています。

 報道から見ると、おそらくNAFTAの再交渉は、まとまる方向に向かう可能性が高くなってきました。これは、米ドルにとってはプラス材料です。

米ドルVS世界の通貨 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 日足)

 心配なのは、中国との関税問題です。米中の貿易戦争は現在…
トルコリラショックは今後期待できない!? 米ドルが下がれば買い拾う方針を継続! ブログ

トルコリラショックは今後期待できない!? 米ドルが下がれば買い拾う方針を継続!

■幸か不幸か、トルコリラ相場は小休止 前回のコラムでお伝えしたトルコ情勢は、まだまだ流動的です。

 8月21日(火)から24日(金)まで、トルコは「犠牲祭」の祝日で、市場が休場となっています。

【参考記事】

●トルコの危機脱出は付け焼き刃では無理!? 欧州通貨に対してドル高を予想する理由は?(8月16日、今井雅人)

●FX会社が警戒するトルコの「犠牲祭」とは? 日本発のトルコリラショック再開はある!?

 そのため、幸か不幸か、否応なく市場は小休止を余儀なくされているといったところです。

 トルコリラ/円も、一時15円台まで急落したものの、今週(8月20日~)に入ってからは、18円を挟んだ落ち着いた動きとなっています。

トルコリラ/円 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:トルコリラ/円 4時間足)

■もうトルコリラショックに期待しないほうが良い!? トルコの金融当局は、国内銀行による海外銀行とのスワップ、スポット、フォワード取引を、銀行資本の25%以内に制限しました。

 また、実際のレポ(資金供給)を、政策金利にあたる1週間物レポ金利の17.75%ではなく、それよりも高い金利である後期流動性金利などに近い金利で実施するといった「ステルス介入」を実施していますが、やはり、根本的な解決となる可能性は低いです。

【参考記事】

●トルコ中銀が150bpの裏口利上げを実施!? 犠牲祭で小動きも、トルコリラは底堅い!(8月22日、エミン・ユルマズ)

●利上げしたのにまた別の金利を利上げ!? 3種類?4種類? 複雑なトルコ政策金利を解説

 そうは言っても、トルコリラの暴落を招いた日本のリアルマネーの投げ売りなども沈静化しており、市場に「どうしても売らなければならない」ようなポジションもあまり無い模様です。

 そうであるならば、トルコリラの暴落といった「トルコリラショック」は、今後、あまり期待しないほうが良いのかもしれません。

トルコリラ/円 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:トルコリラ/円 日足)

■相変わらずお騒がせなトランプ大統領 ところで、今週(8月20日~)は、トランプ米大統領に週明けから振り回されることになりました。

 20日(月)のNY市場で、「トランプ米大統領は週末の献金支援者との集いで、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長を批判した」と報道されたほか、その後に行われた一部通信社とのインタビューで、FRBの利上げに対して「気に入らない」と発言。

 パウエルFRB議長に対しても、「低金利政策をとっていない。私をもっと助けるべきだ」と、苦言を呈しました。

FRBの利上げを「気に入らない」として、パウエルFRB議長にも苦言を呈したトランプ大統領。相変わらず市場を振り回している… (C)Chip Somodevilla/Getty Images

 また、翌日の21日(火)には、NY市場がクローズする間際になって、トランプ米大統領の元顧問弁護士であったマイケル・コーエン氏が、司法取引に応じて証言し、「ある候補者の指示で選挙法に違反した」ことを認めました。

 これは、トランプ米大統領の不倫相手二人に対する口止め料の支払いを指しており、市場では海外勢を中心に、米ドル/円が売り仕掛けられたのは言うまでもありません。

米ドル/円 1時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 1時間足)

 ただ、米ドル/円は21日(火)の早朝に…
トルコの危機脱出は付け焼き刃では無理!? 欧州通貨に対してドル高を予想する理由は? ブログ

トルコの危機脱出は付け焼き刃では無理!? 欧州通貨に対してドル高を予想する理由は?

■さらなるリスクオフの動きに警戒 現在の金融市場を取り巻く環境は複雑です。

 米国は、段階的に政策金利を引き上げ、先進国でもっとも金利が高い通貨となりました。

 当然、これは米ドル高要因です。

【参考記事】

●金利環境を見れば当面、米国が一人勝ち!? 本邦M&A活況で米ドル高・円安相場に!(6月15日、今井雅人)

※日本の政策金利は日本銀行が金融市場調節方針とする短期政策金利の値を掲載

※FRB、各国の中央銀行のデータを基にザイFX!が作成

 米国の景気もしっかりしており、通常であれば、株価も堅調に推移するはずです。

 ところが、トランプ米大統領の強引な通商交渉、関税措置などが、各国からの関税の報復措置を招き、世界的に貿易戦争が起きかねない状況を招いています。

 特に、米国と中国の関係は、かなり悪化しています。今後の波乱要因であることは、間違いありません。

 こうした動きは、世界経済の停滞を引き起こし、リスクオフの動きを誘発しています。

世界の通貨VS円 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 日足)

 まだ、市場の反応は本格的なものではありませんが、今後の展開次第では、さらなるリスクオフの動きが起きる可能性もあります。

■米国人牧師解放は市場のカンフル剤になるか? さらに、ここにきて、トルコの金融市場で混乱が起きています。

 元々、トルコは経常赤字と高インフレという、2つの問題を抱えています。

 そのため、トルコリラは何年もの間、ずっと下落し続けてきました。

トルコリラ/円 月足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:トルコリラ/円 月足)

 そこに、政治問題も絡んできました。米国との衝突です。

 米国は、2016年のクーデター未遂に絡んで軟禁状態にある米国人牧師、ブランソン氏などの解放をトルコに求めています。しかし、トルコのエルドアン大統領は、強硬な姿勢を崩していません。

 米国のサンダース報道官は、「ブランソン氏が解放されても関税措置は解除されない。関税措置は国家安全保障に絡んでいる。ただ、制裁措置はブランソン氏を含む、米国が不当に身柄を拘束されていると認識する人々の解放に関連して導入されており、解放されれば解除を検討する」と述べており、解放が実現すれば、ある程度、市場は好感するでしょう。

【参考記事】

●トルコ人ストラテジストが分析! 牧師釈放は近そう。ならばトルコリラ/円は19円まで反発(8月15日、エミン・ユルマズ)

●トランプ砲がトルコショックに追い打ち! 米国株が崩れると、リスクオフ加速も…!?(8月13日、西原宏一&大橋ひろこ)

トルコリラ/円 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:トルコリラ/円 日足)

 しかし、事態はそれほど単純ではありません。前述のとおり…
ドル買い方針。ユーロ/ドルの売りに妙味!? 過去最安値更新のトルコリラは底が見えず? ブログ

ドル買い方針。ユーロ/ドルの売りに妙味!? 過去最安値更新のトルコリラは底が見えず?

■FFRは初日が終了。漠然とした懸念は続くか まずは、市場が注目しているFFR(日米通商協議)の状況です。8月9日(木)に初日を終えた段階ですが、まだ具体的なものは何も出てきていません。

 中国に対して、あれだけ強行に出ているトランプ米大統領であるので、楽観はできないものの、いきなり極端な制裁措置を実施してくる可能性は低いと考えています。

【参考記事】

●日米通商交渉は怖くない!? 米国側が強硬で円高が来れば絶好の買い場!(8月3日、今井雅人)

 ただ、当面は、市場に漠然とした懸念は蔓延し続けるでしょう。

■110円台維持なら112円台へ向かう動きに期待できそう そういう状況を反映して、米ドル/円は頭が重いです。

米ドル/円 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)

 日本人投資家の買い注文は、断続的に入ってはいるものの、上昇させるほどの力はありません。

 110円台をしっかり維持できれば、いずれ、徐々に112円に向かって動き出す展開も期待できると考えています。

■米ドル/円以外に気になる動きが… ところで、米ドル/円は方向感がなくなってきていますが、そのほかの通貨では、少し気になる動きが出てきています。

 まずは、英ポンドです。

 現在、EU(欧州連合)離脱に向けて協議が行われていますが、それはあまり、うまくいっていません。

 正直に言って、イギリス人の多くは、この決断は間違っていたと後悔しているのではないでしょうか。

 しかし、もう引き返せない状況に陥ってしまっていることで、英ポンドに売りが集中しているということです。

英ポンド/米ドル 日足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/米ドル 日足)

 英ポンド/米ドルは、1.28ドル台と、約1年ぶりの安値をつけていますが、ここを切ってしまうと、チャート的には1.25ドル台が視野に入ってきます。

英ポンド/米ドル 週足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/米ドル 週足)

■ユーロ/米ドルは1.15ドル割れで一気に急落も 次に、ユーロです。

 米国は、着実に利上げを実施している一方で、ECB(欧州中央銀行)は、金融緩和政策からの転換に二の足を踏んでいます。

 この対照的な金融政策の違いが相場に反映され、ユーロ/米ドルは頭が重いです。

 基本的には、米ドル高の流れの中にあるということでしょう。

 ユーロ/米ドルも、今のところオプション関係の買いが集中しているなどの理由で、1.1500ドルのレベルを守っていますが、ここを下に抜けると、一気に英ポンド/米ドルのような急落をする可能性があると考えています(※)。

(※編集部注:本記事の寄稿後、8月10日(金)の東京時間にユーロ/米ドルは一時、1.1440ドル付近まで下落した)

ユーロ/米ドル 週足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 週足)

■利上げ時期が先延ばしされてNZドルが急落 3つ目は、NZドルです。

 RBNZ(ニュージーランド準備銀行[ニュージーランドの中央銀行])のオア総裁は、減速する経済の「帆に風を送り続ける」と表明した上で、「成長が一段と弱含む場合には、対応する用意がある」と語りました。

 また、これより先にRBNZは声明文で、「2020年までは、政策金利を現在の1.75%に据え置く」との見解を示しています。

 利上げがかなり遠のいたということで、当然のようにNZドルは下落しています。

NZドル/米ドル 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:NZドル/米ドル 4時間足)

NZドル/円 4時間足(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:NZドル/円 4時間足)

 最後に、トルコリラです。トルコの金融当局は…