ニューヨーク州議員「真実を公に」ブロックチェーン導入で選挙の透明性を図る法案を提出
選挙不正防止にブロックチェーン活用を提案
ニューヨーク州議会下院の民主党議員クライド・ヴァネル氏は2025年4月9日に、選挙の透明性向上と不正防止のため、ブロックチェーン技術の活用を検討する法案「ニューヨーク州議会法案A7716」を提出しました。
この法案は同日、州議会下院の選挙法委員会に付託され、委員会での審議を経て承認された場合は本会議で議論されます。州議会を通過した法案は上院に送られ、上院審議後に最終的に知事の決裁を受けることになります。
この法案「A7716」はニューヨーク州選挙管理委員会に対し、州情報技術局(ITS)と連携しながら、有権者登録情報や投票結果などの選挙データをブロックチェーン技術で保護する方法を1年間かけて調査・検討するよう求める内容です。
法案では、ブロックチェーン技術を「分散型で改ざんが難しく監査可能な台帳であり、暗号技術で守られた”検閲されていない真実”を提供するもの」と説明しています。将来的には選挙データの不正改変防止や透明性強化につなげることが期待されています。
「ブロックチェーン投票アプリ」活用
ブロックチェーン活用で選挙制度の信頼回復へ
ニューヨーク州で選挙制度へのブロックチェーン導入が検討される背景には、近年発生した選挙関連の不正やデータ管理上の問題によって、選挙制度への信頼が揺らいでいる現状があります。
2016年の米大統領選ではロシアによる州選挙システムへのサイバー攻撃疑惑が報じられ、同年ニューヨーク市では有権者名簿から約12万6千人分の登録データが消えていたことが発覚するなど、選挙データの信頼性への懸念が広がりました。
ヴァネル議員は透明性確保のために早くからブロックチェーンに注目しており、2018年には既に有権者登録データ管理へのブロックチェーン活用を提案する法案(A8792)を提出していました。
今回提出された法案は、この「A8792」の延長線上に位置づけられ、州全体でブロックチェーン活用の可能性を正式に調査する試みです。
「選挙×ブロックチェーン」で不正防止へ
ブロックチェーン技術を活用した選挙事例
ブロックチェーンを選挙に活用する取り組みは、米国や海外で徐々に実例が増えつつあります。
米ウェストバージニア州は2018年の中間選挙で、海外駐在軍人向けにブロックチェーン技術を使ったモバイル投票アプリを初めて試験的に導入し、144人の有権者が無事に投票を行いました。
続く2019年5月には、コロラド州デンバー市の自治体選挙でも同様のブロックチェーン投票システムがテストされており、いずれも非営利団体タスク・フィランソロピーズの支援の下で実施されています。
最近では、2025年3月にテネシー州ウィリアムソン郡の共和党党員集会でブロックチェーン(ビットコインネットワーク)上に投票結果を記録する試みも行われました。
米シンクタンクのブルッキングス研究所は「安全なモバイル投票により不正を防ぎつつ投票率を高められる上、開票作業の効率化と正確な集計も実現できる可能性がある」とブロックチェーン投票のメリットを評価しています。
一方で選挙技術の専門家からは「元のデータ自体の信頼性が確保されなければ、ブロックチェーンに記録する意義は薄い」「システムが51%攻撃(※1)やソフトウェアの脆弱性にさらされる危険性がある」などの指摘もあり、ブロックチェーンの導入が万能薬ではないとの声も挙がっています。
※1:51%攻撃とは、仮想通貨のネットワークで過半数の計算力を握ることで、取引の改ざんや二重支払いを可能にする不正行為のことです。
自治体選挙でブロックチェーン技術を活用
NY州で進む仮想通貨規制
ニューヨーク州では近年、投資家保護や犯罪防止、環境保全などの観点から、仮想通貨規制の強化が進められています。
ヴァネル議員は今年3月5日、いわゆる「ラグプル」と呼ばれる詐欺的なトークン販売など仮想通貨(暗号資産)の不正行為に刑事罰を科す州法案を提出し、仮想通貨投資家を守る法整備も進めています。
環境面では、2022年11月にプルーフ・オブ・ワーク(PoW)方式の仮想通貨マイニングの環境負荷を理由に、化石燃料を使った新規マイニング事業の許認可を2年間凍結する全米初の一時停止法を成立させました。
このようにニューヨーク州では投資家保護や環境規制など多方面から仮想通貨業界への規制を強化しており、今回のヴァネル議員による選挙分野でのブロックチェーン活用法案も、州が推進する先端技術政策の一つとして注目されています。
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Source:ニューヨーク州上院公式サイト
執筆・翻訳:BITTIMES 編集部
サムネイル:AIによる生成画像