量子コンピューターは仮想通貨の脅威となるのか?量子耐性に取り組むプロジェクトも
量子チップ「Willow」が仮想通貨業界でも話題に
Google(グーグル)の量子AIチームが2024年12月9日に新しい量子コンピューターチップであるWillow(ウィロー)を発表したことを受けて、仮想通貨業界では「量子コンピューターは仮想通貨の脅威になるか」という話題が注目を集めています。
Willow(ウィロー)は、30年近く追求されてきた重要な課題である「量子エラー訂正」の課題を解決した最新の量子コンピューターチップであるとのことで、現在最速のスーパーコンピューターでは10の25乗年(宇宙の歴史よりもはるかに長い時間)かかる複雑な演算計算を5分未満で完了できると説明されています。
ビットコイン(BTC)などの仮想通貨では暗号化技術が活用されていますが、量子コンピューターは複雑な計算を超高速で実行できる計算能力を備えているため、仮想通貨やブロックチェーンの暗号化技術も短時間で解読できる可能性があり、既存プロジェクトの多くが重要な課題に直面する可能性があると懸念されています。
量子コンピューターが暗号資産にもたらす脅威とは?
「量子コンピューターは仮想通貨の脅威になるか」という議論は数年前から行われていて、2019年には世界で初めて”量子コンピュータの商用化”を発表したIBMの関係者たちが「量子コンピュータが仮想通貨のウォレットや秘密鍵・公開鍵に深刻な影響をもたらす可能性がある」と警告しています。
具体的には「量子コンピュータは将来的に公開鍵から秘密鍵をリバースエンジニアリング(*1)できるようになる」と指摘されていて、当時の報告では「現在公開されているブロックチェーンのうち少なくとも半分が影響を受ける可能性がある」とも説明されていました。
(*1)リバースエンジニアリング:完成したソフトウェアやハードウェアの構造を分析して、構造・製造方法・動作・ソースコードなどの技術情報を明らかにすること。
秘密鍵はウォレットの管理・使用を可能にする非常に重要な鍵であり、ブロックチェーンエクスプローラーを利用すれば「どの公開鍵が多くの資産を保有しているか」を簡単に調べることができるため、公開鍵から秘密鍵を解析できるようになった場合には、大量の仮想通貨が盗まれる可能性があると懸念されています。
また、量子コンピューターの脅威については早急な対応が必要であることも指摘されていて「今日送信されている暗号化されたデータも、傍受・保存された上で将来的に変更され、後で量子コンピュータの影響を受ける可能性がある」とも説明されています。
IBM研究者たちの指摘
差し迫った脅威ではないとする意見も
「量子コンピュータが仮想通貨にもたらす脅威」については様々な意見がありますが、一部では「現時点の量子コンピューターの性能でビットコインの暗号技術を破るのは不可能で、脅威が現実的になるまでには5〜10年、さらには数十年かかる可能性がある」解いた意見も出ています。
これは、ビットコインの暗号技術であるECDSA(楕円曲線暗号を用いたデジタル署名アルゴリズム)やSHA-256(電子署名に使われるハッシュ関数)などの安全性が高いためであり、現在の量子コンピューターでこれらの暗号技術を破ることはできないため、”脅威が実現するのは数十年先”と指摘する意見や報道が多数確認されています。
また、量子コンピューターが脅威をもたらすのは仮想通貨だけでなく、以下のような様々な分野にも脅威をもたらす可能性があるため、実用化に伴い何らかの対応が取られる可能性を期待する声も出ています。
- 金融セキュリティ
オンラインバンキングの暗号化通信の解読、クレジットカード情報の不正取得、電子署名や認証システムの破壊など - 政府や軍の機密通信情報
政府の機密情報や軍事通信の解読、国家安全保障に関連する暗号技術の無力化など - 医療データ
電子カルテや医療機器のデータ保護技術の脆弱性、個人情報や医療機密の漏洩など - IoT・スマートデバイス
デバイス間の通信の暗号化解除、スマートホームや自動運転車のシステム乗っ取りなど - インターネット全般
HTTPSやVPNの暗号化技術の無効化、電子メールやチャットアプリの暗号通信の解読など - 電力・インフラ
スマートグリッドやエネルギー管理システムの乗っ取り、サイバー攻撃による社会インフラの停止など - 知的財産保護
特許や研究データの盗難、機密アルゴリズムや専有技術の公開など - クラウドストレージ
暗号化されたデータの復号、クラウド環境での情報漏洩リスクの増加 - AI・機械学習
人工知能(AI)や機械学習における学習モデルの逆解析や破壊
対策を行う仮想通貨プロジェクトも
量子コンピューターの脅威は定期的に仮想通貨業界で指摘されていますが、現在は既に複数の仮想通貨プロジェクトが量子コンピュータの潜在的脅威に備えるための準備を行なっています。
カルダノ(Cardano/ADA)は、量子耐性を備えたブロックチェーンとして早い時期から注目されていた仮想通貨プロジェクトの1つで、2020年に実施されたShelleyへのアップグレードにも「耐量子コンピューター電子署名方式」の項目が含まれていました。
具体的には、一度しか使用できない署名技術である「ワンショット署名」など複数のアプローチが報告されていて、カルダノ創設者であるチャールズ・ホスキンソン氏も、カルダノの量子耐性について「安心してください。ちゃんと計画があります」とコメントしています。
I got you. We have a plan
— Charles Hoskinson (@IOHK_Charles) December 9, 2024
【Sprout】
仮想通貨の量子耐性について、当初予想していたよりも早く心配する必要があるかもしれませんねチャールズはどう思いますか?
【ホスキンソン氏】
安心してください。ちゃんと計画があります。
また、シバイヌ(ShibaInu/SHIB)との提携でも注目を集めた暗号技術企業「ZAMA」のCEOであるランド・ヒンディ氏は、ZAMAの暗号化技術である完全準同型暗号(FHE)が量子耐性を備えていることを語っています。
完全準同型暗号(FHE)は、データを復号化することなく暗号化されたままの状態で処理できる技術であり、現在開発が進められているSHIB関連のレイヤー3ブロックチェーンでもFHEが活用されると報告されています。
Good thing FHE is quantum resistant then https://t.co/Pp8hCp54M6
— Rand Hindi (@randhindi) December 10, 2024
FHEが量子耐性を持っているのは幸いですね。
ビットコインの開発者コミュニティでも量子耐性を持つ暗号方式への移行が議論されており、イーサリアムの共同創設者であるヴィタリック・ブテリン氏も量子コンピューターのリスクを軽減する方法を3月に提案しているため、今後は各プロジェクトで量子コンピューターの脅威に対処するための変更が行われていくことになると予想されます。
量子コンピューターの一般普及は複数の仮想通貨やブロックチェーンに深刻な問題をもたらす可能性がありますが、開発者やプロジェクトはすでにその対策に乗り出しているため、これらの取り組みは仮想通貨の安全性をさらに強化して進化し続けるための重要な一歩になると期待されます。
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執筆・翻訳:BITTIMES 編集部
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