【前編】流通の常識を覆す。チケミー創業者が語るNFTチケットの可能性とは
「誰から購入したかという履歴自体が新しい価値になる。それがNFTで実現できるのです」。そう語るのは、株式会社チケミー代表取締役の宮下氏です。
20歳で株式会社チケミーを創業し、わずか2年で2.2億円の資金調達を実現。日本初のNFTチケット販売プラットフォーム「TicketMe」を展開する宮下氏に、チケット業界の課題解決に向けた想いを伺いました。
宮下 大佑(みやした だいすけ) 株式会社チケミー 代表取締役
早稲田大学政治経済学部入学と同時に、アパレルを扱うECサイトを起業。事業売却したのち、イーストベンチャーズでのインターン経験を経て、2022年6月、20歳で株式会社チケミーを設立。NFTを活用した革新的なチケット販売プラットフォームの開発・運営を手掛ける。
小林 憲人(こばやし けんと) 株式会社NFTMedia 代表取締役
2006年より会社経営。エンジェル投資を行いながら新規事業開発を行う株式会社トレジャーコンテンツを創業。2021年にNFT Mediaを新規事業として立ち上げる。
「NFTビジネス活用事例100連発」著者
ジュンク堂池袋本店社会・ビジネス書週間ランキング1位獲得
運命的な出会いから始まった起業家としての第一歩
小林:まずは、宮下さんのことを初めて知る方のために、自己紹介をお願いします。
宮下:株式会社チケミーの宮下と申します。
TicketMeというサービスを運営しており、こちらは日本初のNFTチケット販売プラットフォームです。ブロックチェーン技術を中心とした新しい技術を使いながら、東宝さんやホリプロさんなど大手の事業者にサービスを提供している会社になります。
小林:チケミーを創業したのはいつ頃でしたか。
宮下:2022年の6月です。当時は20歳でした。
小林:2年で今のTicketMeを作り上げたということですね、凄いですね(笑)。起業する前は何をしていたんですか。
宮下:2021年に大学に入ったのですが、当時はちょうどコロナ禍でした。大学に通いづらい中で、一番最初に行ったのがアパレルEC運営です。あれが起業する前の社会人としての最初のステップでしたね。
小林:アルバイト経験などはなく、はじめからECサイトを作り起業したということですか。
宮下:そうですね。アルバイトの選択肢もあったかもしれませんが、それを知る前に起業する機会を貰ってしまった感じです。
小林:そんな早くから起業を意識していたきっかけとは何だったのですか。
宮下:きっかけとして一番大きいのは祖父の存在です。僕の祖父が2人とも経営者だったのもあり、起業がすごく身近な仕事でした。それで起業するのかサラリーマンになるのか色々考えていく中で、起業の占める割合が昔から多かったっていうのはあるかもしれません。
小林:では、アパレルECで起業した理由はなんですか。
宮下:僕、実は服に全く興味がないんです。見たらわかるんですけど(笑)。ただ、機会に恵まれていたことがきっかけとしては大きいです、
ある日、友達の自転車を買いに池袋に向かったときに、街であるおじさんが新品の服を500円とか700円というすごい安い価格で売っていたんですね。
なんでこんな安く仕入れられるんですか、みたいなことを詳しく聞いていく中で、これをECでやれば上手くいくのでは、という話になりました。
小林:商売をやっている人に直接聞きに行っちゃったんですね(笑)。
宮下:はい(笑)。その時のおじさんからしたら「何だこいつ」みたいな話ですけど、仲良くさせていただき、ビジネスについて色々と教えていただきました。今でも遊んだりしています。
小林:道端にそんな良いおじさんがいるんですね。
宮下:そのおじさんさんもすごい方で、2000年代の初めにECをやろうとしていたそうです。当時はインターネットの黎明期で、あんまりハマらなかったみたいですが。
そういった最先端のことにすごい興味を持って、ビジネスの種をどんどん見つけてくる方だったので、多くのことを勉強させていただきました。
「やり切る」文化で加速する成長、2年で会社規模は3倍に
小林:アパレルECは、その後どうなったんですか?
宮下:もう売却してしまっていて、流通について幅広い側面から知りたいという想いから、イーストベンチャーズ株式会社というベンチャーキャピタルにジョインしました。
小林:なるほど。アパレルECを売却した後、イーストベンチャーズ株式会社にジョイン、その後にチケミーということですね。ちなみに、ECの売却額は大体どのくらいになったのですか。
宮下:売り上げの12ヶ月分で買っていただきました。当時の大学1年生の自分としては、かなり驚きの値段でしたね。
買主の方にも喜んでもらった記憶があります。11月ぐらいに売却しましたが、その後お歳暮とお中元もいただきました。お互い良い取引をさせていただいたことで、そこで信頼を積み上げていくことが、ビジネスにおいて重要なのだと学びました。
小林:チケミーの現在の規模について教えていただけますか。去年お話させていただいたときは、従業員は確か10名前後でしたよね。
宮下:業務委託の方も含めると、現在はそのときの2倍か3倍ぐらいになってますね。
小林:めちゃめちゃ増えてる!この間WebXに行った時もチケミーのブースに人が多くいましたね。
宮下:チケミーには"やり切る"文化があるので、機会をいただいた際は、いつも全力でやらさせていただいています。
小林:両日ともブースに伺わせていただきましたが、その文化は強く感じましたね(笑)。
NFTで実現する新しいチケット流通の形
小林:チケミーが提供するサービス内容について具体的に教えていただけますか。
宮下:チケミーは、日本初のNFTチケット販売プラットフォーム「TicketMe」を提供しています。
チケットの販売プラットフォームと言うとわかりやすいかと思いますが、ここにリセールや「誰から買ったか」を価値にするところなどを、ブロックチェーン技術を用いて実現するサービスです。
小林:リセールというのは、いわゆる「二次流通」や「転売」などのことですよね。
宮下:はい。「転売」と聞くとあまり良いイメージを持たない人も多いですが、これはその流通が追えてない点や、転売屋が誰かわからない点などが原因として大きいと思っています。
これに対して、ブロックチェーン技術を用いることで、流通をしっかりと追い続けて転売屋を排除することが可能になります。本当に買いたい人と売りたい人だけをマッチングさせられる点が、TicketMe最大の強みです。
小林:「転売」というと、高額転売がニュースで取り上げられるほど問題視されているかと思います。この点についてはどうお考えですか。
宮下:高額転売の中には、「良い高額転売」と「悪い高額転売」の2種類があると思っています。
例えば、不正転売屋の人たちが100人いて、チケットを欲しい人が10人、チケットが10枚あったとします。チケットとそれを買いたい人の割合は10対10なので、本来であれば欲しい人全員が定価で買えたはずです。
ですが、ここに100人の転売屋が入ってくると倍率がさらに上がり、結果的に価格も吊り上がっていくことになります。これは明らかに防ぐべき「悪い高額転売」です。
一方で、最初から欲しい方が100人いて、チケットが1枚の場合、定価の価格だけで売買は成立していいのかという議論もあります。
その点について、定価で購入された後に高額買取のオファーが来た場合、定価とオファーの差額を一部還元する形で、売りたい人と買いたい人を繋げていくのは良い、と僕らは考えているのです。
クリエイターへの価値還元を最大化することを目指して
小林:TicketMeで取引が成立した際、マージン(手数料)などはどのように決めているんですか?
宮下:イベントの運営者が10%から90%の範囲で、還元率を設定できる仕組みにしています。
これには、チケミーのミッションでもある「クリエイターへの価値還元を最大化する」が大きく関わっています。
例えば、売上の50%が還元されるなら譲ってあげてもいいけど、10%だけなら譲らない、という方もいらっしゃるわけですね。「適正な割合がイベントごとに存在する」という仮説を持っており、その割合をイベントごとに特定することで、クリエイター・主催者の双方への価値還元を最大化できると考えています。これが僕らの目標とするところです。
市場を共に創る。競合をも歓迎するオープン戦略
小林:TicketMeを利用するメリットは、他にどんなものがありますか。
宮下:最初にも申し上げた「誰から買ったか」のロイヤリティが付加されるところです。
TicketMeでは、InstagramやXのような形でウォレットごとにマイページを作成できます。これにより、誰から買ったかという情報が価値になるのです。
従来であれば、主催者からチケットを買う流れが基本でしたが、TicketMeではさらに、主催者からアーティストのウォレットを介して買うパターンが加わります。これはブロックチェーンを活用したからこそ可能になることであり、「誰から買ったか」ということ自体が、ファンの新しい喜びのポイントになるのです。
小林:TicketMeはNFTを活用した今までの既存モデルとは異なるビジネスモデルだと思っています。今後はやはりライバルのような事業者が同じ仕組みで増えてきたりみたいなそういうのってあったりするんですかね。
宮下:明らかにあると思います。ですが、僕らからするとそれはむしろ嬉しいことです。コミュニティが広がれば、お客さんも選択肢が増えて楽しいですし、僕らとしても広がった市場の中でシェアの何%という形で確保しようと思っているので、ライバルの出現は好意的に捉えています。
小林:今はみんなで大きくしていくフェーズだよ、ということですね。とはいえ、何か自分たちのビジネスモデルを守るために、されている施策とかあったりしますか。
宮下:NFTチケットのかなり重要な部分で、「Redeemable Futures Token」に関する特許を持っています。僕らは略して"RFT"と呼んでいるのですが、日本語では「償還可能な先物トークン」という意味です。
RFTの特徴は、元々NFTとして流通していたものを償還できる点です。例えば、イベント券の場合は中に入場するためのQRコードを出す、物であれば償還するための住所の入力フォームを表示するとか。そういった償還するための動作をした瞬間に、それがSBTに変換されるという仕組みです。
小林:NFTからSBTに変わると!
宮下:これを行うことで、いわゆる二重消費問題を防ぐことができます。具体的なところで言うと、QRコードを表示した瞬間にSBTに変換されると、それ以上市場に流通できなくなるイメージです。これは排他的というよりは、他の事業者とも共有していきたい気持ちが あります。
小林:なるほど。二重消費問題を防ぐ仕組みを作ったから、これをみんなで活用しようという気持ちはある一方で、周りの部分に関しては特許で守っているのですね。
なぜブロックチェーンなのか、チケミー創業の原点とは
小林:そもそもTicketMeを立ち上げた背景と、ビジネスモデルにNFTを組み込む理由について聞かせていただけますか?
宮下:以前から流通というもの自体に着目していたことが、TicketMeの設立背景としては大きいです。
物やサービスの流通は、仕組みが変わることで大きく変わると思っています。誰が買えるかも変わるし、いくらで買えるかも変わります。売れないものが売れるようになったりとか、誰かに価値が新しく届くといった部分に大きな可能性を感じていました。
ここにNFTやブロックチェーンなどが、活かせるのではと思い、その中で最初にやるべきことがイベント券かな、ということで最初にTicketMeを立ち上げたのです。
小林:ブロックチェーンを技術に選んだのは、改ざんができないことや、流通における詳細な部分が刻まれる点などが必要だと思ったという認識であっていますか?
宮下:おっしゃる通りですが、大きく分けると理由は以下の3つになると思っております。
- スケーラビリティがある
- 所有を対外的に証明できる
- インターオペラビリティがある
それぞれ説明すると、スケーラビリティがあるというのは、誰かが遅れて参入してきてもその市場にすぐに入り込める、つまり新規登録者がこの価格で買いたいと言ったときに、その人にもすでに購入権があることになるわけです。
2つ目の所有権を対外的に証明できるというのは、ブロックチェーンはパブリックであるため、持ち主がすぐにわかります。
現実の所有で考えると、例えばこの本を持ってますと証明できるのは、僕の近くにこの本があることを認識できるからです。一方でデジタルで同じことを行うのは、これまでであれば非常に難しいこととされてきました。ですが、ブロックチェーンであればウォレットの中に格納される構造になっているため、実現が可能となります。
3つ目のインターオペラビリティは、複数のプラットフォーム間で同じ価値として認められる仕組みです。ブロックチェーンは1つの基盤に複数のサイトが立ち上がるので、流通と適性が高いと思ったのです。
小林:サービスとして広がる可能性があるという点に着目したわけですね。これらを20歳くらいで考えたということですよね。
宮下:はい、そうなりますね。
小林:なるほど、バケモノですね...(笑)。
プラットフォームビジネスの挑戦。創業期の課題と解決策
小林:チケミーを立ち上げたときに、苦労したことを教えていただけますか
宮下:プラットフォームのモデルなので、コストはかさむのに、売り上げが中々上がらない時期に苦しみました。実際のところ、コストは今も昔もほとんど変わらないんです。桁は変わらないぐらいの数字で遷移してる一方で、売り上げの桁は大きく変わりました。プラットフォームというビジネス上、覚悟していた部分はありますが、それでもやはり苦しい時期でしたね。
小林:つまり、プラットフォームとしてある程度完成するまでの開発コスト、人件費が膨らんだという認識で合っていますか?
宮下:おっしゃる通りです。確か売上原価に占める割合が80%を超えたこともありました。プラットフォームなので、最初はそういうこともあるだろうと受け入れましたね。
小林:そのコスト面はどのように解消したのですか?
宮下:初めのうちは、イーストベンチャーからの資金調達を前倒しとして充てていました。
資金調達は合計で3回行いましたが、前回は約2.2億円調達しています。TciektMe自体がプラットフォームとして完成してきたタイミングで、営業人材を採用することを目的に資金調達に踏みきったっていうところはありますね。
小林:最初は何人ぐらいでTiketMeを作っていたのですか?
宮下:最初は2人か3人ぐらいで作っていました。
小林:ここら辺の話はこれから起業する人にもありがたい情報ですね。ありがとうございます。
【次回予告】宮下氏が描く、チケット流通の未来とは?
前編では、株式会社チケミー代表取締役の宮下氏に、起業までの道のりやNFTチケットが秘める可能性についてお話を伺ってきました。
後編では、現在のチケミーについてお話しを伺っていきます。チケット流通の革新に挑み続ける宮下氏の想いを、ぜひお楽しみに。
▼後編の掲載をお見逃しなく!
公式サイト:https://nft-media.net/
X:https://x.com/NFT_Media_
YouTube:https://www.youtube.com/@nftmedia-biz
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参照元:NFT Media