■中朝首脳会談での「確約」は、あくまで「メンツ文化」の象徴 米中貿易戦争勃発かと思いきや、中国政府が譲歩する姿勢を暗示したことで、極端なリスクオフの市場センチメントが後退しているようにみえる。
当然のように、中国政府もこの手あの手で対米工作を仕掛け、次の交渉に有利なポジションを取ろうと必死だ。
金正恩北朝鮮労働党委員長の、極秘というか電撃というかの北京訪問は、対米牽制という意味合いにおいて、習近平中国国家主席にとって大きな成果を上げたと言える。
米朝首脳会談が実現されそうだが、今までの流れでそれが実現されれば、対朝貿易の90%を占め、また、原油など戦略物資をほぼ100%支援してきた中国が事実上「排除」されることになる。そうなれば、中国の「宗主国」としてのメンツは丸つぶれとなり、中国共産党や習氏の権威も大きく傷付くだろう。
「アメとムチ」を存分にほのめかし、金氏を北京に呼び出したことによって、少なくとも形式上、中国の権威は保たれたから、これが対米交渉でも有利に働くに違いない。
とはいえ、北京で発表された「北朝鮮が半島非核化確約」といった対談成果を確信する者はいないだろう。こういった「確約」は、金家の祖父の代から繰り返し破られてきたからだ。中国は「宗主国」のメンツにはこだわるものの、中国政府自体も認めたように、対北朝鮮の影響力は極めて限定的であり、確約された内容が実行される保証はない。
実際、北朝鮮が口約束どころか、正式な国際条約も平気で反故にしてきた「伝統」から考えると、中国政府の発表は、あくまで「メンツ文化」の象徴であり、実効性は極めて疑わしいものだと言える。
■米ドル/円の切り返しが行きすぎたリスクオフの後退を物語る 一方、リーダーになって以来、自国から出なかった金正恩氏の中国訪問自体は、世界で最も閉鎖的な国家の変化の兆しと受け止められ、緊張ムードが緩和されつつあることも確かである。
米中貿易戦争の可能性も、米朝交渉にからんで低下していく余地があると思われ、リスクオフの一服につながったこと自体も当然の成り行きだと思う。
このような視点から米ドル/円の下げ一服、また切り返しを見ると、一応それが「説明」できるかと思う。米株安の一服に円高進行のいったんの終焉は、共にそれまでのリスクオフの行きすぎを示唆しており、米中貿易戦争に関する「行きすぎた」懸念の後退を物語る。
米ドル/円 日足(クリックで拡大)(出所:IG証券)
経済指標では、昨年(2017年)第4四半期GDPの上方修正をはじめ、米サイドのデータはおおむね堅調、市場センチメントを支えていることも見逃せない。
■ユーロ/円、英ポンド/円、豪ドル/円はさらなる下落トレンドへ 半面、ユーロ/円の日足を見ればわかるように、3月13日(火)の一時ブレイク(緑矢印)を除き、先週(3月19日~)から今週(3月26日~)にかけて、ユーロ/円はいったん安値を更新してから切り返しを果たしているものの、総じてメインレジスタンスゾーン(黄色)に拒まれ、頭の重い構造が露呈している。
これは1月高値を起点とした下落波の進行を示唆している。
ユーロ/円 日足(クリックで拡大)(出所:IG証券)
英ポンド/円も、2016年安値から引かれたサポートラインを割り込んで以降、同ラインの回復を試してきたが、先週(3月19日~)も今週(3月26日~)も高値が同ラインの延長線の下に制限され、一転してレジスタンスラインとして意識されている。
英ポンド/円 週足(クリックで拡大)(出所:IG証券)
このような市況は、「教科書どおり」に展開されるなら、やはり1月高値からの下落が続く、という判断につながる。
豪ドル/円に至っては、3月13日(火)の頭打ち自体が、2017年11月安値の水準が新たなレジスタンスであることを示し、そこから2017年4月安値の割り込みもあって、すでに新たな下落変動レンジに入ったと見なされる。
豪ドル/円 日足(クリックで拡大)(出所:IG証券)
さらに、繰り返し指摘してきたように、日足における大型「三尊型(※)」のフォーメーションの指示どおりなら、これから78円の節目手前まで下値余地が拡大されるので、リバウンドは弱いものに留まり、また、下落トレンドが継続される公算が大きい、といった従来のシナリオが維持される。
(※編集部注:「三尊型」はチャートのパターンの1つで、天井を示す典型的な形とされている。仏像が3体並んでいるように見えるために「三尊型」と呼ばれていて、人の頭と両肩に見立てて「ヘッド&ショルダー」と呼ぶこともある)
要するに、米ドル/円はドルインデックスと同様、底打ちの兆しを露呈しているものの、主要クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)の多くはむしろ一時の下げ止まりであるとしか思えず、これからさらなる下落トレンドの継続が有力視される。
仮に、クロス円の動向がより相場全体の構造を…