1枚のアートが数千万円。ガーナのスラム街のために絵を描く長坂真護がNFTアートを始める理由

そのアートには数千万円の値がつき、フランクミュラーとのコラボレーションやバーニーズ ニューヨーク銀座本店、日本橋三越本店にて展示会が開かれ、TBSの番組でも特集される、そんな破竹の勢いの画家の存在をご存じだろうか。彼の名はMAGOさんこと長坂真護(ながさかまご)さん。驚くべきは、そのアートの売上の大半を西アフリカ、ガーナの電子ゴミ問題を改善するための事業に使っているということだ。

アフリカのガーナに日本を含む先進国が捨てた電子廃棄物の集まるアグボグブロシーというエリアがある。そこには日々の生活費を得るために有毒なガスを吸いながらゴミの山をかき分け、プラスチックに包まれた電子廃棄物を燃やすスラム街の青年たちがいる。彼らの多くは有毒ガスによって30代で亡くなってしまうのが現状だと言われる。

MAGOさんは雑誌「Forbes」で1人の子どもがゴミ山でゴミを持っている写真を見た事がきっかけでガーナの電子ゴミの問題に興味を持ち、その際アグボグブロシーを訪れた。

ガーナのゴミを掻き分けながら歩く子どもたち

そこで目にした光景に愕然とし、アートで先進国にこの惨状を伝え、支援をしようと決意し、ガーナのゴミを使ったアートを始めた。アートの売上は10億円を超え、現在はガーナにガスマスクを贈り、私立学校を建て、美術館を造り、雇用も生んでいる。

そのMAGOさんがいよいよNFT(※1)アートのプロジェクトを開始するというのを聞きつけた編集部は、早速話を聞いた。

※1 NFTの説明についてはこちらをご覧ください。

-今回、なぜNFTアートを販売しようと考えられたのですか?

そもそも昨年の時点はNFTアートを創ろう、とは全く考えていませんでした。なぜなら、僕自身がNFTに関して自身の目指す方向に合致すると思えなかったからです。

しかし、色々と話を聞くうちにNFTの概念が「あ!そういうことなのね!」と腑に落ちて。
これはもしかしたらやりたい事ができるかもしれない、と思うようになっていたんです。

そのタイミングで弊社のスタッフも増えて、夏までに予定されていた大きな展覧会が先方都合でキャンセルとなり時間ができて、NFTプロデューサーであるDiamondさんにも出会って。昨年からNFTを一緒にやりませんか、という引き合いはそれこそ何十件も頂いていたのですが、全てお断りしていました。ただ、Diamondさんだけは他の方とは違い、「こういう事をしよう」と具体的に事細かに話してくれたんです。ギークっぽいというか、オタクっぽかったんですね(笑)僕はオタクが世の中を変えると思ってて。僕も絵のオタクなんで。そういう人と一緒に世界を創っていきたいっていう気持ちがあったので、このメンバーでプロジェクトチームを作ってNFTアートをやろう、ということになりました。

-NFTアートをMAGOさんはどう捉えられているのですか?

僕の中では、バーチャルリアリティーでのNFTアートであろうが、現実社会のリアルアートであろうが、結果として創造しようとしているものは全く同じだと感じています。

現実世界における先進国って、結局世界中から超高濃度のエネルギー、具体的に言うと人、物、金を集めまくって発展していて、後進国というのはそのエネルギーを吸い取られた国。だから後進国が貧困国になるっていう相対的な関係なんですよ。

僕はそれがイヤで先進国でアートを売って、そのお金の大半を後進国であるガーナに使っているんです。

作品名 真実の湖 Ⅱ

で、NFTも使い方次第で同じ事ができるわけです。NFTっていう概念を、アフリカ(ガーナ)発で現実社会の先進国に持って行く。

プロデューサーたちと話をしていると、NFTアートにはビジョンがあって、大義があって、そこにコミュニティができて、そして初めて人の気持ちが動いて、コレクションしたくなって、お金が動く。そうやってインターネット上でのムーブメントが起きると。こう聞かされた時に、リアルアートの世界とリンクしたんです。

これ、リアルもバーチャルも関係ないなと。結局人が気持ちを、魂を込めて、エネルギーが動くんだと。実物があるのか、ないのか、それくらいの差しかないなと思いました。

じゃあやってみないと結果は出ないので僕らのやりたいNFTアートをやってみましょうと。

-そのやりたいNFTアートというのが、今回のMAGO Mintという事でしょうか。どのようなNFTプロジェクトなのですか?

はい、そうです。まず大切なのは、NFTプロジェクトとしてMAGO Mintっていうキーワードでブランド化をしてはいるものの、リアルアートによる取り組みと手段が異なるだけで叶えたい事は同じです。一切ブレていません。

僕は今までに10億円以上のアートを販売して先進国でお金を集め、そのお金をガーナのために使ってきました。そのためにアートを通じたムーブメントを起こしてきたわけで、同じ事をインターネット上でも表現できれば、そこでもムーブメントが起こる可能性があるわけです。

すると2030年の目標であるガーナに100億円投資するスピードが早まる。つまりMAGO MintというNFTプロジェクトはアートを通してガーナを支援するという元々ある目的を達成するための手段の一つであると言えます。

-MAGO Mint第一弾、Waste St. in NYC(ウェイスト ストリート イン ニューヨーク)とはどんなコンセプトのNFTアートなのでしょうか?

僕がニューヨークに行って実際に見た光景がヒントになったんですが、街がゴミだらけなんです。とにかくものすごい量のゴミが捨ててある。しかもピアノやベッドやテレビなんかの大きなゴミまで捨ててある。日本ではそういう事はないですよね。大きな物を捨てるにもちゃんとゴミ処理用のチケットを買ったりして。
で、ここからがすごくて、3~4日経つとそのゴミは全て回収され、どこかに行ってしまうんです。それぞれ燃やされたり、埋め立てられるわけです。

ニューヨークの街を見て周る

それを見た時に彼ら(ニューヨークのゴミ)をそのまま見過ごせばそのうちどこかに運ばれて処理されるけど、このゴミをデジタルアートとしてNFTで残せば、彼らの最後のエネルギーを再利用できるなと思って。もう一度価値を持たせて、誰かに買っていただく。これって僕がガーナのゴミを使ってアートを創っているのと同じで、コンセプトもとても近いものになると思ったんです。

現実世界ではみんなが買ってくれたアートの売上をガーナに還元できる仕組み、バーチャルリアリティではNFTアートを買ってくれたお金をガーナに還元するという、僕らのマインド、精神に合うと感じました。

そのため、ガーナのためにゴミのエネルギーを活用したNFTアートを創り、その売上をガーナに使う。それがWaste St. in NYC(ウェイスト ストリート イン ニューヨーク)のコンセプトです。すごくわかりやすいNFTプロジェクトだと思います。

-今回のNFTプロジェクトはどんな人に届いてほしいですか?

僕らはコロナになって、しばらく日本でしか活動できなかったんですよ。ガーナに行けなかった。ただ、そのかわりじっくり腰を据えてビジョンの構築や、日本国内での店舗展開とか、チームを創るとか、そういう事に集中できました。結果として、日本だけでもこの数年で10億円以上の売り上げができました。

2021年3月にオープンしたMAGO GALLERY YOKOHAMA

しかし、世界中の多くの人に想いが届かなかったのも事実で。でもNFTなら、インターネットなら国境がない。だから世界中の人に届けたいです。

理想を言えば、NFTアートを投資目的ではなく、僕らのミッションに共感したうえでアートを買おうと思う人、今回のNFTのコンセプトに共感する人に届いてほしいと思っています。

僕らの活動を理解しようという応援者が世界中に増えて、日本で起こしたムーブメントが、連鎖的に世界中に広がっていく。NFTを通してまだ見ぬ人たちとビジョンを共有したいんです。

-NFTを通じてどんな世界を創られたいですか?

サスティナブル・キャピタリズム(※2)という日本で成功した概念をNFTを用いてバーチャルリアリティの世界でも実現したいと考えています。そして良い行いが自然と広まる世界にしたいです。

「We are same planet」。全てが同じ星で起きている出来事なんだ、って考えたら、極端な話、80億人の人間が世界中に散らばっていて、その人が長坂真護がなぜアートを描いているのか、どんな世界を創りたいのかをdiscordやTwitterで知って家族や仲間に話したりする。これは最初は弱い、小さな力かもしれませんが、その掲げる想いが大きければ大きいほど、雪だるま式にどんどん広がっていく。

ガーナの子どもたちとの一枚

僕はそれを現実世界で既に体験していて。

昨年、リアルアートを約500点描いて、約400点販売したんですよ。これは結構すごい数だと思うんです。それってつまりは買ってくれた方々の家の壁を約400カ所広告枠としてハックできた訳ですよ。さらに買ってくれた方が、その絵の前で僕の想いを代わりに語ってくれる。

そしたら今、この2週間で毎日10点ずつ売れるんですよ。このままだと絵の在庫があと1、2か月でなくなっちゃうくらいの速度です。

とにかく広がりがすごい。今日もどこかで、誰かが僕の話をしてくれてると思うんですよ。こうやって世の中を変えようとしている人がいると。あいつだったら変えられるんじゃないかと。

こういうムーブメントをNFTの世界でも創りたいんです。そうやってみんなの思いが、本当につながっていくと、例えば現実世界でも1万人のコレクターがいて、バーチャルリアリティでも3万人のコレクターがいて、気づいたら100億円集まってる。

しかもただの投機的なマネーゲームじゃなくて、ガーナのスラムに流し込む、本気の100億円です。その感動の瞬間を、一緒に見て、感じられるわけです。

僕が絶対にやりきるので、間違いなく生きている間に見られる。それは遠い空の下の実感のないアフリカの話が、チャリティーで募金してもどう使われているかも全くわからなかったことが、僕を通して応援することで現実味を帯びる。しかも2030年までに本当に起こる。NFTはそんな世界を創るきっかけにできると思うんです。

※2

サスティナブル・キャピタリズムとは、、、ビジネスを通じて自身も発展しながら社会問題の解決を目指す資本主義の事。経済、文化、環境の3軸がバランスよく循環している状態を指している。

-ちなみに第一弾はいつごろから販売開始されるのでしょうか?

若干のスケジュールの変更はあるかもしれませんが、8月を予定しています。

-今後の展望を教えてください

目の前のところでは、今回のNFTプロジェクトでリアルからデジタルに僕の思想を広げ、MAGOのやりたい事を多くの人に知ってもらいたいです。その人がリアルアートを買うのか、NFTアートを買うのかはわからないけど、どこかでそれぞれのアートを介して接点ができるはず。例えばNFTを通じて僕を知った人が「上野で個展をやるから、リアルアートを見に行ってみよう」とか「ニューヨークのMOMAにも出るのなら、一度見てみようかな」と実際に現実世界で美術館に足を運んでみたり、アートのオーナーがTwitterで僕の名前を見つけ、そこから全く知らない誰かと僕の話でコミュニケーションを始めたり。

大きなところでは、2030年にガーナのスラム街にリサイクル工場を建設し、公害ゼロのサスティナブルタウンにするという目標を掲げ、最終的にはガーナのアグボグブロシーのスラムを無くします。

僕らはそのために国内では最近も銀座で作品展(※3)を行ったり、次回は上野の森美術館(※4)で展覧会を行う事になっていて。アートを通じてメッセージを伝えてる。

他にも、先日出演したテレビ番組(※5)でも言いましたが700平米の敷地を借りて、工場を始めました。ここでは毎月ガーナ人が働いてくれています。まだ黒字化が出来ていないんで、まずはこれから黒字化を目指します。

そこでは軽量のコンクリートブロックを開発しています。真新しい技術ではないのですが、アフリカは建設ラッシュで資材不足なんです。しかも手作業での工程が必要。

僕らにはサスティナビリティとトレーサビリティをしっかりと担保できるブランドがあるので、そのブランドを通じて資材を受注し、仕事を増やす予定です。これから2~3年でガーナで100名の雇用をする事が目標で、それに向けて頑張っています。

今までのアートの活動に加えて、NFTアートでもこれを機に国内ならず世界に向けてサスティナブル・キャピタリズムを体現し、ガーナの発展のために力を尽くします。僕らはそれを本気でやっている。この伝染力というかムーブメントで世界中が包まれるんじゃないかなって思います。

※3 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000093.000045848.html

※4 https://www.mago-exhibit.jp

※5 https://www.tbs.co.jp/sekakura/archive/20220504.html

インタビュイー紹介

NAGASAKA MAGO
長坂 真護
MAGO CREATION株式会社 代表取締役美術家
MAGO Art & Study Institute Founder

1984年生まれ。2009年、自ら経営する会社が倒産し路上の画家に。2017年6月“世界最大級の電子機器の墓場”と言われるガーナのスラム街“アグボグブロシー”を訪れ、先進国が捨てた電子機器を燃やすことで生計を立てる人々と出会う。アートの力を使って、“我々先進国の豊かな生活は、このスラム街の人々の犠牲のもとに成り立っているという真実”を先進国に伝えることを決意。「サスティナブル・キャピタリズム」を提唱し、これまでに1000個以上のガスマスクをガーナに届け、2018年にはスラム街初の私立学校『MAGO ART AND STUDY』を設立。2019年8月アグボグブロシー5回目の訪問で53日間滞在し、彼らの新しい希望と生活のために、スラム街初の文化施設『MAGO E-Waste Museum』を設立した。この軌跡をエミー賞授賞監督カーン・コンウィザーが追い、ドキュメンタリー映画“Still A Black Star ”を制作し、2021年アメリカのNEWPORT BEACH FILM FESTIVALで「観客賞部門 最優秀環境映画賞」を受賞。現在、公開へ向けて準備中。

プロデューサー紹介

General Diamond

NFT Producer / Artist

2018年よりブロックチェーン技術に興味を持ちクリプトを手にする。NFT制作、アートコレクションを続けながら海外プロジェクトのモデレーター、マーケティング、シークレットアルファコミュニティの立ち上げに従事。現在は長坂真護の思想から生み出される作品に強く共感しMAGOMintのプロデュース、WEB3企業のコンサルティング等を行っている。

https://twitter.com/TainyKingdom/

MAGO Mint関連情報

MAGO Mint公式Twitter:https://twitter.com/MAGOMint

MAGO Mint公式Instagram:https://www.instagram.com/mago_mint/

MAGO CREATION株式会社公式WEBサイト:https://www.magogallery.online/

編集後記

MAGOさんの圧倒的な熱量に触れられた30分であった。インタビュアーである私は彼のいちファンでもあり、作品も保有している。つまりすでにMAGOさんの世界観にどっぷり浸かっており、何かと言えば「知ってる?ガーナではMAGOさんって人がね、、、」とさも自分がやっているかのように話を出してしまう。このガーナを変えようとする熱量を私自身も体感していた。昨年MAGOさんと出会い、NFTの話をさせていただいた時は力不足でその可能性が伝わり切らなかったが、今回そこを形にされる素晴らしいプロデューサーも参画されてMAGOさんの作品がNFTアートとして世に出ることを本当にうれしく思う。

また、どうしてもMAGO MintというNFTプロジェクト名の由来が気になったので、そこだけインタビュアー特権で聞いてみたところ、


NFTを世の中に公開することを「Mintする」と言いますよね。僕は普段MAGO(まご)と呼ばれるので、組み合わせてMAGO Mintと。最初は音の響きがいいなと思ったんです。チョコミントみたいな。それにミントっていうとハーブのあのクセのある感じというかフレッシュな感じというか。僕の今までしてきたアートとも違うエッセンスを加えるという意味も出てきて。
それとapple社のロゴのリンゴってかじられているじゃないですか。appleはたくさんのリアルなものをデジタルに置きかえたと思うんだけど、僕のアートとしても今回リアルをデジタル(NFTアート)に置きかえるので、Mintもロゴの葉っぱもかじられている、そういうジョークも込めました。


と話してくれた。アート界のapple社を目指す、という意味ではないが、当時のそれくらいのインパクトを起こす、という気持ちが表れているのだと思う。MAGOさんが今回のNFTプロジェクトでより多くの人の共感を得て、新たなムーブメントが起きることを切に願う。

参照元:NFT Media

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