ビットコイン(BTC)の相場回復を阻む3つの不透明感
9月上旬に急落して以降、ビットコイン(BTC)相場はもみ合いが続いています。先物市場では急落により玉整理が進んだことで、新規買いが入りやすくなっている一方で、3つの不透明感が相場の回復を妨げているようです。
先物市場で取組高が増加、玉整理進み相場反転に光明も
米商品先物取引委員会(CFTC)がまとめたビットコイン先物市場の建玉明細によると、9月15日時点での取組高(枚は最小取引単位)が9,383枚となり、7月上旬以来、約2カ月ぶりの低水準となっていた9月8日時点の8,198枚から増加しました。
8月18日時点の1万4,454枚から40%以上も減少し、あっという間に手じまいが進みましたが、5月から6月にかけては1万枚前後で推移していたことを踏まえると、ポジションはかなり軽くなったと考えてよさそうです。
ヘッジファンドなどの投機筋を含む非商業部門の建玉は、8月18日時点で3,550枚、9月8日時点で2,310枚、9月15日時点で2,880枚、それぞれ売り越しとなっています。一方、個人投資家を含む小口投資家の建玉は、8月18日時点で3,350枚、9月8日時点で2,210枚、9月15日時点で2,813枚、それぞれ買い越しとなっています。このように、ビットコイン先物市場では個人投資家の買いに対してファンドの売りという構図が続いているようです。
取組高は相場の上昇局面で増え、下降局面で減っていることが見て取れます。また、取組高の増加に伴って高値警戒感が台頭し、減少に伴って底入れ期待が膨らむとも考えられています。玉整理が進んだことで、足元では買われ過ぎでも売られ過ぎでもない中立的な水準に落ち着いてきた観があり、再浮上への体制が整いつつあるとの見方もできそうです。
とはいえ、米国で新型コロナの感染が深刻化する以前、2月の取組高は約6,500枚、コロナ直撃による急落後は4,000枚弱まで縮小していますので、もち合いから下放れるようですと、取組高の一段の減少余地が残されている点には警戒が必要かもしれません。
順ザヤは相場の上昇を織り込んではいない、将来の価格は現在に織り込まれる
先物市場での取組高の増減や投機筋のポジションは相場の過熱感をみる上で示唆に富んでいると言えるでしょう。同様に、先物価格のサヤの動きも注目されます。
現物価格と先物価格を比較して、先物価格の方が高い場合を順ザヤ、低い場合を逆ザヤと言います。先物価格は全般的に順ザヤであることが多く、これには金利や保管コストが関係しています。
先物価格が現物価格より高いことで、将来的な価格の上昇を織り込んでいると指摘されることがありますが、一般的な考え方とは言い難いようです。将来的に価格の上昇が見込まれているのであれば、現物価格はその価格まで上昇すると考えられるからです。
例えば、現物が100ドルで先物が110ドルだった場合、この10ドルの差異は金利や保管コストなどであり、将来的に10ドル値上がりするとは通常は考えません。仮に、将来的に10ドルの値上がりが見込まれているのであれば、現物価格が110ドルに上昇し、先物価格は現物価格にコストの10ドルを上乗せして120ドルになると考えられます。順ザヤの基本的な考え方は、納会が近づくに従って、先物価格が現物価格にすり寄ってくるイメージです。コストがゼロになるので納会日には現物と先物の価格が一致するわけです。
現在、ビットコインの先物価格は期先ほど値段の高い順ザヤです。順ザヤの場合、先物価格が時間の経過とともに(コストの低下などで)下落することを見込んで売られ安い傾向にあります。もちろん、価格そのものが上昇することで損失を招く恐れがあり、先物価格は時間とともに必ず下落するわけではありませんが、足元で投機筋が売り越しなのはセオリー通りと言えるでしょう。
また、「逆ザヤに売りなし」というのは相場有名な格言です。逆ザヤというのは、現物より先物が安い状態ですが、これから現物が下がることを示唆しているわけではありません。先物で売り玉を建てるリスクを指摘しており、時間の経過とともに先物が現物に近づいてくるイメージですので、安い先物を買って、その後の値上がりを待つのが基本戦略と考えられています。
市場は3つの不透明感を警戒、米経済は「ガス欠」
ビットコイン相場は先物市場で玉整理が進んだことから、再浮上へ向けた地ならしは整ったように見えますが、1万1,000ドル台を回復した後は再び軟調に転じるなど、おおむね一進一退のもみ合い商状が続いています。相場の回復を阻んでいる要因として、景気対策、新型コロナウイルス、米大統領選挙の3つの不透明感が指摘されています。
新型コロナウイルス流行以降、ビットコイン価格はおおむね米株高とドル安に歩調を合わせて上昇を続けてきましたが、3つの不透明感により米株が下落し、リスク回避のドル高となっていることがビットコインの上値を抑えているようです。
米国では失業保険での給付金上乗せが7月末、中小企業を対象とした雇用維持策も8月にそれぞれ失効し、9月末には航空会社への雇用支援も期限切れを迎えます。このように、3月に成立した2兆ドル規模の景気対策が息切れをしており、景気の回復スピードが鈍化しています。
例えば、8月の米小売売上高は前月比0.6%増と、7月の0.9%増から伸び率が鈍化しています。また、9月19日までの週の新規失業保険申請件数は87万件と前週から微増しており、水準は新型コロナ流行前の約4倍です。
米経済は「ガス欠」状態となっており、追加の景気刺激策が待たれていますが、米議会では景気対策の規模や内容を巡って与野党の溝が埋まらず、法案の成立目途が立っていません。大統領選挙と同時に議会選挙もありますので、11月3日の投票日を前に遅くとも10月2日からの休会入りが見込まれています。休会を先延ばしすることは可能ですが、溝が埋まらない場合には追加対策は大統領選後になる恐れがあり、その可能性は高まっているようです。
また、米連邦最高裁判所のルース・ギンズバーグ判事の死去が与野党の対立を複雑にしています。空席となった判事の椅子を巡り、共和党は大統領選前の指名を、民主党は大統領選後の指名を望んでいます。判事の任期が終身制であることもあり、選出の影響はかなり長期間に及ぶ可能性がありますので、双方ともに譲れないようです。
ワクチン早期実用化への期待が後退、大統領選までは動きづらいか
新型コロナワクチン実用化の時期を巡って、トランプ大統領は11月3日の大統領選前に実用化される可能性があるとの見方を示していますが、多くの専門家は早期実用化を懐疑的に見ていおり、性急なワクチン利用の危険性に対して警鐘を鳴らしてもいます。
ワクチン開発で先頭集団を走っている英製薬大手のアストラゼネカが9月上旬に最終段階の治験を一時中断したこともあり、早期実用化への期待はやや後退しているようです。製薬大手は早ければ年末もしくは来年の早い時期にワクチンの利用が可能になるとの見方を維持していますが、当初は医療従事者など緊急性の高い人への供給が優先され、一般への供給は早くても春頃になるようです。
足元では、スペインやフランス、イギリスで再び感染が拡大しており、欧州でコロナ第2波への警戒感が強まっています。感染の再拡大に伴って活動制限が強化されており、回復途上にある景気の腰折れも懸念されています。
米大統領選挙では、民主党のバイデン候補のリードが続いていますが、現職のトランプ氏の追い上げが伝えられており、蓋を開けてみるまでは予断を許さない状況です。選挙結果が判明するまで、投資判断を先送りする向きもありそうで、買いたい弱気相場が続くのかもしれません。
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参照元:CoinChoice